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公安機密:事情聴取ファイル  作者: 文月獅狼
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File.4 後半


「よお、戻ったか。あ?くれんのか?てかこれ俺の好きな茶じゃねえか。なんで知ってんだよ。……資料にあった?そんなんも書いてあんのかよ。気持ち悪ぃな。まあ、ありがとよ。あんたが出てった後少し後悔してたんだ。……しゃべってるとのどが渇くからな。あんだけの水じゃ足りねえよ。


休憩中に頭がだいぶ冷えた。どこを話すかとかをいろいろ考えた。つってもまあ、もうここから話すことはあんまねえんだけどな。


……病院にいる間に、これからどうするかなどを言われた。また他の施設に入れられるか、もしくは誰かに引き取られるか。半数以上は施設行きだったよ。ま、当然だな。生まれた時から施設で育った世間の常識すらわかっていないやつを引き受けてくれるやつなんかいねえ。まだ幼かった3、4歳ぐらいの子供は引き取られたが、あとはまた施設に逆戻りだ。まともな所ではあったが、その時はまたあの生活をするのかと思っていた。まあ、だからといって何か感じるわけではなかったがな。


一週間後、俺らは新しい施設に入れられた。前の所とは比べ物にならないほどきれいな所だった。政府の手がかかっていたからだろうな、あとから知ったが。姉さんやリカねえの言っていたもの以外にも新たな発見があった。皆いろんなものに興味を持ち、施設の人間をあれやこれやと質問して困らせていたもんだ。俺もそうだった。一番驚いたのは夏の暑さだった。地下ってのはどんな時でも寒ぃんだよ。年に一度それが緩むときがあったが、その時が夏だったんだと初めて知った。おそらく姉さんたちも時間の感覚が狂ってたんだろうな。言葉で教えられても具体的にいつなのかは教えてもらえなかった。


しかし一年もすればグレるやつも出てきた。俺らよりも先にいたやつらを見て影響されたというのもあるだろうが、おそらくあいつらは苦しかったんだ。今まで何も教えられず、何もしなくてもよかったのに、突然知識のあるやつらが上に立ってさも当然のように俺らに色々とやらせ、少しでもできなかったりわからなかったら『常識だろ』と頭ごなしに叱りつけてくる。中には手を上げるやつもいた。姉さんやリカねえが止めてくれてたから、実際に叩かれるやつは少なかったがな。もしかしたらあの地下牢のほうがマシだったかもしれねえな。俺はというと、怒られるのが嫌だったから何か疑問に思っても聞こうとはしなかった。見よう見まねで、それを何のためにするのかを理解できないままただ作業のように全てやった。それが難しい奴らがグレていったリカねえも危うかったが、姉さんのおかげで踏みとどまっていた。


さらに一年後、姉さんとリカねえは施設を出た。姉さんは入ってきたときが出てかねえといけねえ年だったんだが、さすがにあの状態で世に出すのは酷だと思ったのか、三年はいてもいいことになっていた。それはリカねえも同じだった。リカねえも入ったときは16ぐらいで、二年しかいられないところを三年にしてもらっていたみてえだな。それでも二人は二年だけで出て行った。短期間で、少なくとも世に出れるほどのすべてを学んだんだから二人は頭が良かったんだな。それもだいぶ。俺も一緒に行きたかったが、働き始めで生活の苦しい二人が、何の変哲もねえ俺を連れて行くわけがねえんだよな。時々戻ってきてはいたが、やはり帰るときは二人だけだった。


しかしその半年後、二人は死んだ。帰宅途中の二人を、男が襲ったらしい。まず姉さんを刺した後、次にリカねえを殺したんだと。犯人は二年前に、施設の二人が捕まったことで芋づる式に悪事の暴かれた暴力団の男の手下だった。金で男に殺すように命じたんだと。


俺やあの地下牢にいたやつらだけじゃなく、あとから入った施設の人間も悲しんだ。葬式にも参加した。棺に入った姉さんはいつも通りきれいだった。リカねえすらきれいだと思ったよ。あんだけ憎まれ口叩いて、いつも少し怖いと思っていたのにな。ははっ。


その後、俺は施設を出ることになった。特に何かやりたいというわけではなかった。だが憧れがあったからな。俺は警官の、機動隊に入ることにした。もちろんなりたくてなれるようなもんじゃねえ。警官になった後、目にとどまらなければ無理だ。その後も厳しい訓練がある。覚悟を決めて、俺は試験を受けた。結果はいいものだった。約一年後、俺は無事に警官になることができた。あとは機動隊になるために業績を上げるだけだ、と、そう思っていた時に、ある事件が起こった。姉さんやリカねえを殺したやつは金で雇われたということで懲役は短かくて出所していたんだが、そいつがまた人を殺したんだ。今度もまた、あの暴力団の男の指示で。


その時、俺はすべてを理解した。人間の本性が変わることはない。たとえムショに入ろうが、結局意味はないんだ。犯罪者はいつまでたっても犯罪者のままだ。そんな奴らを外に出すなんて、憲法だの刑法だのに何の疑問を持つことなくそれに従っているだけの裁判官たちはどうかしている。


俺は機動隊になることをやめた。機動隊ではなく、刑務官になることにした。理由はもちろん復讐だ。二人を殺した男。それとそうするよう命じた男。そして、全ての元凶となったあの夫婦を殺すためだ。あの夫婦は死刑が決まっているにもかかわらずいまだ執行はされていなかった。だからあいつらも復讐の対象となった。


刑務官になるのは簡単だった。警官になるための勉強をしたからな。刑務官になるためにまた勉強するのなんて何の苦にもならなかった。しかも今度のは明確な目標があったからな。ただ漠然と機動隊になりたいと思っていた時以上に気分は良かった。


刑務官になった後、まず初めに殺したのはあの雇われた男だった。直接手を下したやつだったからな。一番恨んでいた。次に殺したのは雇った男だ。二人とも、俺がやったという風には分からないように殺した。雇われた方は刺殺した後、普段誰もいかない、しかし囚人はたまに来るような場所に死体を置いた。そして特によくそこへ行くやつに罪をかぶせた。何の罪悪感もなかったね。どうせそいつも改心なんざしてねえんだからな。そんな奴なら長く世に出さない方がいいだろ。雇った方は階段から落とした。唯一監視カメラのない階段があってな、そこで殺した。俺が事故だと言えばそれで終わりだったよ。


あの二人を殺すときは、もう何かを考えるのが面倒だった。死刑囚相手にどう事故を起こすってんだよ。もう死ぬのが決まっているやつらをわざわざ殺しに行くやつもいねえ。だから罪をかぶせることもできねえ。そうなると、もう夜に俺が殺しに行くしかなかった。まず男を刺し殺し、次に女を殺した。女が悲鳴を上げたから、そこで俺は他の刑務官に取り押さえられて捕まった。


……まあ、こんなもんだな。そこから裁判受けて、死刑を望んだにもかかわらず俺は今ここにいるってとこだな。どうだ?こんな俺の話を聞いてなんか役に立ったってのか?ん?……チッ。気持ち悪ぃ。……あ?そりゃお前、俺も犯罪者だからに決まってんだろ。人を殺すのは立派な犯罪なんだぜ?……理由がどうだろうと、犯罪者であることに変わりはねえだろ。そして犯罪者の本性は、結局ムショにいようが変わることはねえ。なら俺は、もう犯罪を一つでも、少しでも犯したやつは殺すしかねえと思っている。そんな風に思っている俺が命乞いをすると思うか?裁判でも言ったが、俺を死刑にしてほしい。その代わりに、世の犯罪者も全員死刑にしろ。今の俺はもうこれ以外に望んでねえ。そうすることで世の中は良くなるんだ。姉さんやリカねえみたいに、何の罪もねえのに殺されるやつはいなくなる。犯罪を犯したら死ぬってのが俺によって世界に知れ渡るんだからな。


……これで終わりだ。俺はもう帰っていいんだよな?……おう。じゃあ、またな。今度会うときはあの世であることを願ってるぜ」


聞き取り終了。


 どうも、文月獅狼です。

 宣言通り今日も出せて良かったです。

 前作のあとがきで言い忘れていたことなのですが、これからは+0.5がなくなることがあるかもしれません。というのも、いつも書いてくれている友人が最近忙しく、書いてくれても出来が良くないと言って見せてくれないのです。私はそれでも良いのですが、彼自身が満足していないようです。

 ですので、これからちょくちょく抜けていたりするかもしれませんがご了承ください。

 ではまた。

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