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公安機密:事情聴取ファイル  作者: 文月獅狼
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File.2 前半

13件の殺人。被害者の年齢層はバラバラ。職業も関連なし。1人は頭を、他はいずれも大型の斧による首への一撃によって死亡。本人も腹を裂かれた状態で発見される。


文字お越しでごめんなさい。まだ手話を覚えられてないの。次会う時までには軽い自己紹介と会話ぐらいはできるようにしときたいな。


なぜあんなことをしたのかが知りたいんだったよね。書けば長くなるけど大丈夫?時間はある?じゃあ書くね。そうだなぁ、まずはこの火傷について教えるね。


私のお母さんはシングルマザーだったわ。私が小さい頃に離婚したの。私から見たら良いお父さんだったんだけど、お母さんから見たら悪いだんなさんだったらしいね。その頃はよくわからなかったけど、私はお母さんが好きだったから全然嫌じゃなかった。一緒にいられる時間が減ったのは悲しかったけど、夜にご飯食べながら一日のことを話すのは楽しかった。幸せだったなぁ。でもお母さんは私だけじゃ満足できなかったみたい。私が中学生の頃に、男の人を紹介されたの。お母さんの上司らしくて、再婚するつもりだったみたい。いつもニヤニヤしてて気持ち悪かった。私はお母さんさえいれば良かったんだけど、でもお母さんにも幸せになってほしかった。お母さんが再婚したいなら、私は口出しすべきじゃないと思ったの。それに嫌なら関わらなきゃいいと思ったの。最低限必要なことだけ話して、お母さんが悲しまない程度に触れあって。どうせそのうち大学行ったりして家を離れるから少しの我慢だと思ったの。でもそんなに簡単なことじゃなかったんだ。あいつは執拗に私に話しかけてきた。そして触れてきた。ある時は私がお風呂に入ろうとしてるときに脱衣所に入ってきたことがあったわ。「あっ、ごめん!」なんて言って出てったけど、絶対にそんなこと思ってなかった。いつもみたいにニヤニヤしてた。それに一緒に暮らしてから1か月くらい経った頃だったから、私の習慣をもう知ってたに違いないわ。あの時殺してやれば良かった。


それからさらに一週間くらいしてあの昼は訪れたの。あいつは唐突に部屋に入ってきて、私をベッドに押し倒したの。必死、ではなかったと思う。今の私から見たら、あんなのは子猫の抵抗ね。ただ殴るだけ。必死な人間ならきっと目に指入れたりするよ。でも私はしなかった。初めてをあいつに奪われちゃった。これ以上痛いのは嫌だったから、私は抵抗をやめたの。どうせやっても無駄だったし、殴り返されるだけだったもの。10分後、一回目が終わったわ。予想通り中に出された。吐きそうだったわ。その後お母さんとあいつの部屋に連れていかれて二回目。引っ張るように一階に連れていかれて三回目。そして、私の家には壁に囲まれた車庫があったんだけど、そこに連れていかれて四回目。お父さんが残して行ってくれたあの大きな家があだとなっちゃったな。場違いなことに、三回目ぐらいで「マジかこいつ」なんて思ったな。最中なのに。


やっとあいつが離したから、やっと終わったんだと思った。お風呂に入って家を出ようと思って立ち上がろうとすると、あいつは私に何かかけてきた。鼻がツンとしたから何かと思ってあいつを見たら、あいつはいつも通りニヤニヤした顔で


「汚物は消毒ゥ~」


なんて言って手に持ってたマッチを付けたの。でもガソリンっておもしろいよね。後で調べたんだけど、あれってすぐに気化するんだね。納得したよ。私だけじゃなくてあいつも燃えたんだもん。あっ、今考えたら消毒じゃなくて焼却だね。やっぱあいつバカだったんだ。アハハ。


誰かが救急車を呼んだらしいの。まあ、家が燃えてたら消防車と一緒に来るよね。私は近くの病院に連れていかれたの。もう何も感じてなかったから、お医者さんたちが走り回っている中私はボーッとしてるだけで良かった。ほっとけば勝手に進んでいく。とても楽だった。もう何も心配する必要はないんだって思った。まあ隣であいつが治療されてんのはムカついたけど。


私もあいつも、結局生き延びたの。私は別にそのまま死んでも良かったんだけど、お母さんが心配だったから生きれてよかったって思ったわ。全身火傷で今みたいに包帯ぐるぐる巻きになってたけど、お母さんは変わらず接してくれた。唯一の救いは髪の毛が無事だったことだね。当時はボサボサだったけど、ほら見て。今では元通りのストレートヘアー。きれいでしょ?元に戻るまで大変だったな。でもそんな苦労も、あのお医者さんたちのおかげだね。そのうちお礼に行こうかな。


体が不自由になった私は、リハビリしても治らないところもあったの。手が震えちゃったりして、まともに字も書けなかった。そんな私にお母さんはずっと一緒にいてくれるって言ったの。お母さんがお仕事でいないときはおばあちゃんが見ててくれるって。でもまあ、お母さん看護婦さんだったからほとんどついててくれたんだけどね。でもそれがまたあだとなっちゃった。私がいるってことは、あいつもいたから。もちろん警官があいつの部屋の前で立ってたよ?あいつが部屋から出るのは健診とリハビリのときだけ。あんなことをしたくせにトイレもお風呂もある一人部屋なんてずるいよね。私なんて四人部屋だったんだよ?周りに気を使って冷房も入れられなかったよ。


五月八日。忘れもしないあの日がやってきた。私はいつも通りお母さんと一緒に普段リハビリをやっている所に向かっていたの。車いすはあまり使いたくなかったし、だんだん歩けるようにもなってたからお母さんに手を引いてもらってふらふらと歩いて行ってたの。冗談を言いながら歩いていると、反対側からあいつが来た。私は歩いているのにあいつは車いす。看護師さんが押して、警官が二人いた。あいつはこっちを見ると、一瞬ニヤッと笑った。その時に引き返せばよかった。


少しずつあいつに近づいていく。少しずつあいつが近づいてくる。私だけじゃなくて、お母さんも緊張しているのが分かった。トイレに行きたいとでも言って途中のトイレにでも入ればよかった。


あいつと私たちがすれ違う時、すべてが起こった。いや、終わった。あいつは急に立ち上がって前の警官の一人から拳銃を奪うと私に銃口を向けてきた。嫌な予感はしてたけど、リハビリ中だということもあって私はとっさに動くことができなかった。ただ銃の先端を見てただけ。銃声を聞いたときはもう死んだのかと思った。でも私は生きてしまった。お母さんは私の肩を掴んで体を回した。2人の位置が逆になったの。だから撃たれたのもお母さんだった。頭は真っ白、目の前は真っ暗。震える手で傷口を抑えても力が入らないから血はどんどん出てくる。あいつの車いすを押してた看護師さんが来て交代してくれた。後ろでは警官2人であいつを取り押さえてた。私はその辺にいた先生を呼んだ。すぐに何人かが駆けつけてくれた。これでもう大丈夫だと思ったわ。でもそんなことはなかった。お母さんは私をかばったせいで銃弾が背中に当たったの。しかもそれは脊髄に直撃した。背骨は粉々。


五月八日午後一時三十七分。お母さんは亡くなった。ずっと一緒にいてくれるって言ってたのに。うつ伏せのまま私を見るお母さんの顔が今でも忘れられないよ。ベタだけど、ちゃんとカーネーションも用意してたんだ。ネットでオーダーメイドでドライフラワーを作ってくれるっていうのがあって、そこに頼んだんだ。さすがに自分で作るには時間がなかった。お金もなかったから一本だけ。ピンク色のをね。お母さんピンク好きだったし、ピンクのカーネーションには感謝って意味があるって書いてあったから。


五月八日を忘れないのはこれだけじゃないの。この日の晩に、私は初めての殺人を犯したの。相手はもちろんあいつと警官2人。あいつをちゃんと見張っていれば、いや、あいつを入院させずに牢屋に入れていれば、こうはならなかったんだから。ところで知ってる?消火栓には火事の時に窓を割るためにハンマーが置いてあるんだよ?でも私のいた所は古かったから斧が置いてあった。私はそれを使ったの。初めは重いし手が震えてまともに持てなかったけど、両手でそれを持ってあいつの所に向かっている間に慣れちゃった。


まず初めに殺したのは銃を取られた方。てっきりあんなことがあったから誰かと交代してるかと思ってたよ。でも私には好都合だった。探す手間が省けたから。体力もそんなになかったから、一発で殺せるように頭を狙ったの。でも身長も足りなかったから、結局は首に当たっちゃった。もう一人もそんな感じ。ドアを開けて中に入ると、あいつが起きていた。でも抵抗する様子はなかった。あいつはじっとこっちを見てるだけ。いつも通りのニヤニヤ顔で。私は部屋にかぎをかけた。そしてあいつに近寄った。あいつは少しも私から目を離そうとしなかった。斧を引きずる音だけが部屋に響いた。


私はあいつのベッドの横まで来ると、斧を離すことなくベッドに上り、あいつの上に馬乗りになった。あいつはニヤニヤしたまんま。何か勘違いしてたのかもね。あいつは口を開くと、


「お前に俺は殺せない。もう俺なしでは何もできないからな」


なんて言ったの。でもね、やっぱりあいつは勘違いしてた。私からすべてを奪ったやつを殺さないわけないじゃん。


私は自然に口角が上がるのを感じたわ。最後に笑うのは私なの。私が斧を振り上げると、あいつはやっと笑うのをやめたわ。なんか言ってんのは聞こえたけど、何を言ってんのかは分からなかったわ。


私はそのままベランダから逃げたの。ガラスを割ってね?そこからしばらくは警察から逃げながら、女の子にニヤニヤしながら乱暴してるやつ、しようとしてるやつを見つけては殺したの。


前半終了。


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