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どーも、文月獅狼です。
よく考えたら「どーも」って使いやすい言葉ですね。朝昼晩関係なく使えますし。
さて、本題です。新作はじめました。これは不定期でやっていこうかなと思います。気が向いたら投稿する、という感じでやっていこうと思っています。
他にも「ジャック・イン・東京」というのを投稿しているので、そちらもどうかよろしくお願いします。こちらは毎週土曜日に投稿しています。
では、本編をどうぞ。
4件の殺人に1件の殺人未遂。死者のうち3人男子高生、残り男性教師。
「どこから話せばいいんだろう……僕は、中学一年の最後のほうでとある相談を受けたんだ。友人からね。その友人というのは、僕から見たら親友なんだ。喧嘩ばかりしている親と違って彼は僕の話をよく聞いてくれた。愚痴、悩み、相談。もちろんくだらないことや楽しいことも話したよ。テストの点がどうとか、あの教師の授業は分かりづらいだとか。でもそんな彼には、いつも影が見えていたんだ。楽しそうに笑っているときも、いつも眉が寄っていた。いつも相談に乗ってもらってるから何かあるのか聞こうとしたよ。何度もね。でもできなかった。今まで僕のほうから相談したことはあっても、彼のほうから聞いたり詮索したりしてくることはなかった。きっと彼もそうして欲しいんだと思ったんだよ。だから待つことにした。彼が話してくれるまでずっとね。でも今思えば、もっと早く聞いてあげたらよかったのかな。そうすればもっと早く彼を楽にしてあげられたのかも。
……彼には、彼女さんがいたんだ。僕も何回か会った。一般的にはかわいいと言われるような人だったよ。髪型のせいもあったけど、小柄でしぐさが礼儀正しいっていうのが大きかったな。僕はそんな彼女さんがきれいだと思った。優しくてかっこいい彼と彼女さんはお似合いだった。このままずっと付き合い続けて、最終的には二人で幸せになってほしいなって思った。今でもそう願ってる。でももしそうなったら、僕のことは忘れてほしいな。きっとつらくなっちゃうよ。
彼の相談というのは、そんな彼女さんについてだったんだ。はじめは喧嘩でもしたのかなと思ったよ。影の理由についてはもう聞けないだろうと諦めてたからね。でもそんな生易しいものじゃなかったんだ。彼の彼女さんはまわされていたんだ。囲われていたのほうがいいのかな?よく知らないけど。やってたのは同学年のやつら何人かだったんだ。それに加えて教師の何人かも参加してた。信じられる?人を導く立場の人間がそんなことしてたんだよ?しかも始まりは小学校低学年なんだって。なぜそうなったのかは聞かなかった、というか聞けなかった。あまりにも衝撃的過ぎて。
僕は警察に行くように言ったんだ。でもそれはできないって。彼女さんの母親は離婚していて心身共に荒れて余裕がなかったらしく、そんな話がばれたら壊れてしまうと思ったらしいんだ。正直、僕には理解できなかった。なぜそこまで他人に気を使えるのかと。でも今なら少しわかる。おそらく彼女さんも、そして彼も、だれを信じていいのかわからなかったんだろうな。親は頼りがいがなく、先生も見て見ぬふり、もしくは参加。そんな状況じゃあ誰だってそうなるよ。大人は頼れず、元凶となった同学年の人間は信用できない。だから僕にも最後まで教えてくれなかったんだろうね。
その時理解できていなかった僕は納得していなかったけど、親友とその彼女のお願いだったから誰にも言わなかった。どうしてあげることもできないまま月日は流れて、僕たちは高校生になった。彼と彼女さんは同じ学校に行って、僕は違うところに行くことになった。新しい学校で新しい人と仲良くなれるか不安だったけど、二人とは連絡を取り合い続けてたから何とかなっていたんだ。でもやっぱり、高校生になるというのは僕らにとってつらいことだった。女性としての魅力がつき始めていた彼女さんに寄って来る男は増えていった。そればかりかやることもエスカレートしていったんだ。犯罪に犯罪を重ねるような行為の数々を彼は全部話してくれた。悲しみを憎しみと怒りで抑え込んで。彼がそいつらを倒すことは簡単だけど、騒ぎを起こすとばれてしまいかねない。そんなジレンマの中で彼は苦しみ続けた。
そんな時に起こったのがあの事件だよ。喧嘩の末に父は母を殺したんだ。僕が台所に入ったちょうどその時に、目の前で母は刺されていたんだ。その時僕は深い霧が晴れていくような気分だった。やっと答えが出たんだ。やっとわかったんだ。
こ う す れ ば い い ん だ、と。
そこからはとても簡単だった。僕は直接会ったことがなかったから二人から写真を貰った。集合写真、ツイッター、インスタなどからいろんな情報とともに顔を覚えた。僕から彼へとつながるようなものを消すためにいろんなことをやった。彼がいない間にスマホを拝借して僕にかかわる写真や連絡先を全部消した。僕も父が逮捕されてからは引っ越して一人暮らしを始めてたから電話番号は変えていた。スマホはもとから持ってなかったからそれだけで済んだ。彼女さんにも同じことをした。彼と彼女さんとの間で僕についての話題が出ていないかを見て、できる限り全部消した。三人で撮った写真を消すときはさすがにつらかったけどね。これで完全に何もなくなった。残っているのは母の血が付いた包丁だけ。
どこまで調べがついているのかは知らないけど、世間では蛙の子は蛙だなんて言われてる。目の前で殺人を見たからおかしくなったってのも聞いたな。でも僕としてはそのほうが好都合だ。彼と彼女さんは苦しみから解放されて、彼女さんの母親が壊れることもない。そして僕は僕にとっての最高の快楽を得られた。誰かの役に立てる、悪い奴らをやっつけられる。みんなが幸せになったんだ。
さて、そろそろ帰っていいですか?あと八人は殺さないといけないんです。そこからさらに増える可能性はありますけど、とりあえずはその八人を。この話は絶対に誰にも言わないでくださいね。殺す人はあまり増やしたくないので。」
聞き取り終了。