第五章 天才の証明(4/8)
いよいよケント達の順番が回ってきた。すでに念入りな準備運動を終えた二班が向き合い、一定の距離をとって相対する。
双方ともに人数は三。
十一班、魔戦科、人間のケント・バーレス。普通科、リザイドのマルティナ・トレンメル。魔法科、マギアスのリア・ティスカ。
十四班、魔戦科、デモリスのオルフェス・ディア・ローダン。普通科、ウルフェンのオットー・アズム。魔法科、人間のエリス・ステット。
それぞれの班の先頭に立つ魔戦科の二人。片や一方は険しい表情、片や一方は獰猛な笑み。相手を睨む瞳の奥に溶岩のように煮えたぎる闘志を秘めているのは双方とも同じ。
魔法科を護るように陣取る普通科の二人。十四班のオットーは漆黒の毛に覆われた耳とよく利く鼻が特徴的なウルフェンという人種の少年だ。同じ学科のマルティナの記憶によれば、とりわけ目立った所のない平均的な成績の生徒だ。
そしてこの模擬戦の要となる魔法科の二人。何の因果か、十四班のエリスはあのリアの鞄を噴水に投げ入れた三人組のリーダー格の少女だった。相手がリアということで余裕の笑みを浮かべている。
成績でいうならば優秀な方ではない。だからこそそれより下のリアを貶め嘲ることで自身の立場を保とうとした。だからこそリアの成績が上がることに誰よりも拒否反応を示した。それを悪意だと断罪することは容易い。だがヒトは皆、自身より下の立場の者がいなくては自身を肯定することすらままならないものだ。
この人よりは自分はできた人であると、そう言い聞かせて自身のちっぽけな自尊心を満たす。そうすることで自分自身を肯定できる。醜く、脆いヒトの性。
しかし、それが下にいる者の成長を妨げるようなものであっていいはずがない。
「いいですか?くれぐれもルールの範囲内で、戦意を失った相手を追い打ちしたりはしないこと。いいですね?」
他の班と比べて異常なほど張りつめた空気にアルバートが念を押すように注意喚起する。とりわけ先頭の魔戦科二人は今から殺し合いでも始めるかのような雰囲気だ。
装備は魔戦科、普通科の四人は全て木剣一本のみの基本装備。リアは補助具の短杖と肩掛けの小さなポシェット、エリスは何も持っていない。ある程度なら装備を変えてよいとは言っても、生徒達にはあまり選択肢はない。エリスが補助具を用いないのはその自尊心故か。
あの落ちこぼれのリアに自分が負けるはずがないと。
「――じゃあ、後は任せた」
後ろを振り向かず、ケントがそう口にする。
「うん!」
「ああ!」
すると力強い返答が間髪入れずに返ってくる。それのなんと頼もしいことか。
すでに戦術は二人に伝えてある。そして、ケントの予想通りなら相手の動きは……。
「では、十一班対十四班、模擬戦、始めッ!」
「「ウオオォォッ!!」」
アルバートの開始の合図と同時、先頭の二人が矢の如く飛び出した。
木剣と木剣が打ち合わさる衝撃がビリビリとした波となって広がっていく錯覚。それほどまでに二人の勢いは凄まじく、その一撃には重みがあった。
そのあまりの迫力に遠巻きに見ている者達はおろか、リア達ですらあっけにとられる中、魔戦科始まって以来の天才と呼ばれる少年と、生まれ持った天才である少年の戦いは激化していく。
高速で打ち合わされる木剣、時に回避し反撃の一撃を狙うがそれも相手に看破される。攻撃、防御、回避、反撃が目まぐるしく入れ替わり、到底十七の少年同士とは思えない戦いが繰り広げられる。
「セヤッ!」
隙をついてケントの胴を薙ぎに来た木剣の一撃を逆手に持った同じ物で防御、空いた左腕でケントが放った掌底をオルフェスの右腕が払う。
「!!」
その瞬間、ケントの唇がかすか動いたのをオルフェスは見逃さない。すぐさま大地を蹴って離脱。
「〈衝槌〉ッ!」
「〈円盾〉ッ!」
待機詠唱によって放たれた不可視の衝撃波が光の盾に弾かれる。待機詠唱を用いているとはいえ、双方とも凄まじい反射神経と魔法の発動速度。学生の域をとうの昔に越えている。この二人ならば上級生にも遅れはとるまい。
「〈鋭刃〉ォッ!」
反撃にオルフェスが振るったのは木剣よりもはるかに長い光の刃。それを木剣に重ね、リーチを伸長させたのだ。刃、とはいってもランクCまでの出力ならば肉が斬れることはない。ただ細い力場は力を収束させ、まともに当たれば打撲か骨折は免れない。
その光の刃に対し、あろうことかケントは避けようとせずに前に向かった。
「〈槍突〉ッ!」
光の刃を掴むかのように伸ばされた手の平から光の槍が突き出された。激しい光の明滅、物質化した魔力同士の衝突により生じるギィンという甲高い音、槍と刃がお互いを相殺して砕け散る。傍から見ればケントが〈鋭刃〉を掌底で打ち壊したかのように見えたかもしれない。
「ヌゥッ!」
再び木剣同士の近距離戦へ。お互いの実力は拮抗していたが、知らず二人の位置は最初の位置より横に逸れていく。
それがケントの狙いであった。
次元の違う天才同士の戦いに見入っていた落ちこぼれ二人は、はたと気付いて前を向いて自分達が倒すべき相手を見据えた。
こうなることをあらかじめケントは想定していた。おそらく、オルフェスは他には一切目もくれずケントに攻撃を仕掛けてくるだろうと。そしてそれを迎撃するにはケント自身も本気を出さねばならない。それこそリアとマルティナを援護する余裕などないほどに。
だからケントは、二人に託した。
この模擬戦の決着方法は魔法科の生徒の代表者一名に有効打が入ること。つまりケントとオルフェスの戦いの行方は直接的には勝敗に影響しない。重要なのは相手の魔法科の生徒に有効打が入れられるかどうか。言ってしまえばケントとオルフェスどちらが勝利しようが関係なく、先に相手の魔法科の生徒に有効打を与えたほうが勝つのだ。
ケントがオルフェスと戦っている間、オルフェスはリア達には手を出せない。そしてそれはケントも同じ。ならば――
残っている二人同士の戦いが班としての勝敗を左右する!
「行くぞリア!」
「うん!勝つよ!ティナちゃん!!」
お互いを鼓舞するように声をかけあい、天才に魔法をかけられた落ちこぼれ二人が、天才を天才としないため、自分達を落ちこぼれと呼ばせないための戦いに向かっていった。




