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第8話:友達と、友達じゃないもの

 瞼を閉じているのに、目の前が白くなってくる。

 そろそろ、起きなくちゃいけないんだと頭が悟った。

 けれど、今朝のベッドの中は、言いようもなく心地よくて、布団から一歩も出たくない気分だ。

 それに

(……匂い……)

 すぐ近くで、彼女の匂いがする気がした。

 石鹸みたいな……これはシャンプーの匂い、なんだろうか。

 うちの姉貴が使っていた甘ったるい匂いのするやつより、俺はこっちのほうが好みだ。

(……て、朝からなに考えてんだろ、俺)

 と自嘲しながら目を開けると。

「!?」

 ……目の前に、彼女の顔があった。

「なッ!? ぅ」

 慌てて跳ね起きたら、思いのほか後ろに余裕がなくて、俺はベッドから見事に落下した。

 すると

「ほらほら英輔クーン、病み上がりなんだから無茶しないのー」

 上からオカマ男の声が降ってきた。

 俺はひどく痛む背中をさすりつつも

「な!? ちょ、これ、どういうこと!?」

 精神的ショックが大きすぎて頭のほうが心配だ。

 するとオカマ男はにっこりと笑って

「昨日は熱い夜だったわね〜」

 なんて言いやがった。

「は!?」

 すると

「まったく、英輔も見せ付けてくれるのー」

 やけに意地悪げな埴輪の声まで聞こえてきた。

「な、何を!? 俺何かしたのかっ!?」

 俺はとりあえず記憶を辿る。

 昨日は……赤鬼から朔夜を守ろうとして、背中を抉られて…………それからの記憶が全くない。

 身体をよく見てみると、俺の上半身は包帯グルグルの状態だった。

 背中に痛みはあるが、それでも昨日のあの時の痛みを考えるとこれだけで収まっているのが不思議だ。

 それにしても。

「だ、だからなんで俺こいつと……!」

 俺が叫んだとき、ちょうど彼女が目覚めた。

「!」

 思い切りびくつく俺をよそに、彼女はマイペースに眠そうに目をこすって、それから、俺と目を合わせた。

「……あ」

 短くそう漏らしたかと思うと、彼女は眠そうだった目を完全に開いて

「熱……は?」

 と、尋ねてきた。

「ね、ねつ?」

 何のことかさっぱり分からない俺に代わって

「英輔クン、昨日熱出して寝込んでたのよ?」

 オカマ男がそう言って、俺の額に手をやった。

「あら、下がってるわね。もしかしてあれかしら。憐が熱を吸収したのかも」

「おお、なるほどな。炎の属の者なら熱を吸収しやすいかもしれん」

 埴輪も納得がいったようにそう言った。

「……いや、だから俺、昨日なにを……」

 俺が問うと

「ふふふ、後で見たこと全部教えてあげるわん!」

 オカマ男がやけにハイテンションでそう言った。

(…………俺、なんかまずいことしたんだろうか……)

 俺は多大な不安を抱えつつも、とりあえず着替えを探した。




 朝食を部屋で取った後、俺はとりあえず朔夜のお父さんに連絡をとることにした。

『おお! 赤鬼をもう封印したのかね! 流石だよ、東条君。私が見込んだだけのことはある』

 電話越しの彼もやけに朝からハイテンションだった。

 確かに、赤鬼をこれだけ早くに捕らえることができたのは自分でも奇跡的だと思う。

『それで、いつ帰ってくる予定かな? 良かったら迎えを出すが……』

 お父さんはそう言ったが

「あの……もう少し待ってもらえませんか」

 俺はそう切り出していた。

「……その……鼠女が行方不明になってて、今のままだと朔夜がその……ふらっと出て行きかねないんで」

 それから、叶えば例のケモノを探し出したいというのはあえて言わないでおいた。

 少しの沈黙が流れる。

 朔夜のお父さんは賢い人だ。

 俺の意図ぐらいお見通しだろう。

 が。

『ほう、緋衣君が? ……分かった。カードは好きなだけ使ってくれて構わないから、遠慮しないでくれたまえ』

 彼はそう言って、許してくれた。

「ありがとうございます」

 俺は心からの感謝と共に、電話を切った。


「じゃあ今度こそアレ退治なわけね」

 オカマ男がそう言った。

「ああ。…………その前に、ほんとに鼠女の奴、どこ行ったんだろ」

 俺は窓の外を眺める。

 今日も生憎の曇り空。

 しばらくはずっとこんな天気が続くという予報だ。

 部屋の隅っこで縮こまっている朔夜を見る。

 埴輪の奴が何やらぺちゃくちゃと喋っているようだが、やっぱり鼠女がいないと少し寂しそうに見える。

「とりあえず鼠女を捜しに行こう」

 俺が言うと

「そうねー。多分緋衣はあの流星とかいう銀髪男を捜しに行ったんでしょうから、大方見当ついてるわよん」

 オカマ男もそう言ってくれた。が

「でも英輔クン、アナタは今日ぐらい休みなさい。外はワタシが見てくるから」

 オカマ男はそう言って立ち上がった。

「え、でも…………」

「無理しないの。病み上がりが大事なんだから。とりあえず憐を見ててね。なんなら昨日の夜の続きでも」

「は!? だから俺何もしてないって!!」

「フフフ、知ってるわよ」

 彼は楽しそうにそう言って、蛾の姿になって窓から出て行った。

「〜〜ったく……」

 俺は溜め息をつきながらも、彼に感謝した。

 実際、今日動き回るのはきついだろうというのは身体が訴えているところだった。






 丸1日かかって、私はようやく彼を見つけた。

 建築途中のビルの前で、待ち構えるように彼は立っていた。

「お前のほうから来てくれるとは、嬉しいねえ。緋紅」

 彼は紅い目を細めてそう言った。

「…………そこがアンタのボスの根城? あのいけ好かない臭いがするわ」

 私がそう言うと、彼は首を振った。

「ボス? 違うな。俺はあいつのパートナーだよ。俺は誰の下にもつかない主義だ。知ってるだろ? お前なら」

「何がパートナーよ。あんなモノと何を共有するつもり? 長すぎる命の他にもアンタにはまだ欲しいものがあるっての?」

 私はそう尋ねた。

 すると、流星は嗤った。

「ハハッ、ほんと、お前は野心がねえな緋紅。これだけ永らえればそれでいいってか? いーや、違う。俺たちはこれだけ永らえるだけの価値があったんだ。だから、それに見合うだけのモノを、手に入れなきゃいけない」

 私は唇をかみ締める。

 やはり、この男はあの時から何も変わらない。

「で? お前は何をしに来たんだ緋紅。その顔じゃ俺と昔話をしに来たわけじゃねえんだろ?」

 私は静かに頷いた。

「……アンタとのケリをつけに来たのよ流星。それから、アンタのパートナーとやらも消させてもらう」

 それを聞いて彼は鋭く眼光を光らせた。

「ハハハッ! そうかい。だったらこっちも遠慮なくやらせてもらうぜ!!」

 流星の姿が消える。

 いや、動いたのだ。

 彼のスピードはその名の通り、まるで流星のようだった。

(けど)

 速すぎる動きは止まりにくいという欠点を持つ。

 だから、少しだけでもこちらが動けば相手の攻撃はかわせる……はずだった。

「甘い」

 耳元で、そんな声が聞こえた。

「!?」

 私はとっさに逆方向へ跳んだ。

 が

「遅いぞ緋紅」

 今度は背後から彼の声が聞こえて、手拳が肩に入る。

(つっ!?)

 電流が走ったかのような一撃。

 反射的に背後に炎を回すも、手ごたえはなし。

「く」

 気がつけば、前方に悠々と彼は立っていた。

「これじゃ暇つぶしにもなんねーぞ、緋紅。『緋』の名が聞いてあきれるぜ。人間なんぞの下僕なんかやってるから衰えるんだ」

 本当に、つまらなさそうに彼は言う。まるで遊んでいるかのようだ。

「……下僕? 違うわ。憐ちゃんは私の『友達』よ」

 私が力の入らない右肩を押さえながらもそう言うと

「『友達』? えらく安っぽい関係だな、オイ」

 彼はそう言って嗤った。

「……安っぽいですって?」

 私は拳を握った。

「ああ、そうだ。お前だってよく知ってるだろ? 友達なんぞ作ったって俺たちとは生きる時間が違いすぎる。そんなもん、すぐに忘れちまうよ。……だったら」

 流星は嗤う。

 ……その先は、もう聞きたくない。

 私は無謀にも走り出していた。

 さっきやられた肩は、外れてしまっているのかやはり動かない。

(……だったら、燃やす!)

 私は流星に向けて精一杯の炎の弾丸を繰り出した。


 確かに、速さや技では彼に劣る。

 けれど、炎にだけは自信があった。

 これは決して自惚れではない。

 火鼠の村で『緋』の名を贈られるのは、その山で1番の発火術の才を持つ者だけなのだ。


 なのに。

 

 炎が彼に衝突する直前、彼の身体が真っ赤に染まった。

 自らの炎で守る気なのだろう。

 しかし。

「ほんと、甘いよな、お前」

 彼がそう呟いた瞬間、彼の炎は私のそれを飲み込んで、そのままこちらに跳ね返してきた。

「!?」

(馬鹿な)

 300年前では絶対に有り得なかった光景を前に、私は防御することすら忘れ、その、紅い炎に呑まれていた。



 カラン、と、瓦礫が落ちる音がする。

 砂埃がひどい。

 肌がジリジリする。

 痛い。

 ジャリ、という音がして、それが彼の足音なのだということに気付くのに、しばらくかかった。

「…………アレで焼け死なないあたり、やっぱお前は特別なんだろうな」

 彼は無様に瓦礫に埋もれた私のすぐ目の前にやってきて、しゃがみ込む。

「まさかこんな形でお前を負かす日が来るとは思わなかったぜ、緋紅」

 男らしい、節くれだった手が、すすだらけなはずの私の頬を撫でた。

「……人間の友達なんかやめちまえよ。そんな薄っぺらいもんを数年間続けるよりな、一夜でも共にした男のほうが、印象的だろ?」


 …………声が出ない。

 のどをやられたようだ。

 炎に包まれて生まれた者が、炎に焼かれるなんて、傑作もいいところだ。


 私はただ、泣いていた。

 涙が止まらない。

 悔しくてたまらない。


 何が、『印象的だ』、よ。

 そんな言葉だけでくくれるはずないじゃない。

 アンタにとっては私との200年間はその程度のものだったのかもしれないけど。

 私にとってはそんな軽いものじゃなかった。


 ずっと2人だったのに、突然1人になって。

 約束を破られたことに怒って、泣いて。

 死ぬほど忘れたいのに、死ねないほど忘れられなくて。

 頭に焦げ付いて離れないから、死ぬほど苦しかったのに、死ぬことも出来なくて。


 ……言って、くれたのに。

 親も兄弟も友達も、皆が皆天寿を全うして先に逝ってしまったあの日。

 アンタは言ったわ。


『俺はずっと傍にいる』


 ……その言葉をずっと信じてた。

 信じてたのに。


「…………んでよ」

 掠れて、自分でも聞き取れない声で、私はそれでも喉を鳴らす。

「……なんでっ……行っちゃったのよッ」

 錆びた鉄の臭いがする喉が弾けた、その時。


「緋衣!!」

 

 空から男の声が聞こえた。

 それと同時に、赤く光る粉が宙に舞った。

「……毒か!」

 流星の舌打ちが聞こえたかと思うと、彼の気配は一瞬で消えた。

 途端に、赤い鱗粉は霧散した。

「緋衣!」

 駆け寄ってきたのは、当然火砕だった。

 正直、こんな無様な姿をこいつに見られたくなかった。

 アイツは何度も私の名前を呼んでいるようだったけれど、『うるさい』と答える気力ももうなかった。

(……ああ、もう、死んだほうがマシ……)

 私は胸の中でそう呟いて、目を閉じた。


……最近サブタイトルが浮かばないです。あと緋衣をいじめまくっててすみません(汗)。


えっと、ストックに追いつかれそうなのでまた少し連日更新をストップします、すみません(汗)。

諸事情により今後はちょっとずつ更新していきたいと思います。

ではまた来週……もお付き合いいただけたら幸いです。

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