プロローグ
本作品は掲載中のファンタジー小説「ミッドナイトブレイカー」「ミッドナイトブレイカー2〜土の神の剣〜」の続編にあたります。
虚ろだった。
何もかも、虚ろだった。
最もそれを思わせるのは、眼だ。
あれほど強い意志を感じさせていた眼が、今はただ、焦点の定まらないまま宙を彷徨っている。
俺と目が合うと、彼女は怯えるように父親の陰に隠れた。まるで人見知りをする幼子のようだ。
「…………」
覚悟はしていたが、まさか、ここまでとは。
正直、辛い。立っているのすら辛い。
対する彼女の父、朔夜高志も複雑な表情を俺に向ける。
「ずっとこんな調子なんだ、すまないね。……憐、彼は君の友人だよ」
諭すように、彼は優しく彼女に言った。
すると彼女はおずおずと俺を見て、言葉なく、ただ恭しくお辞儀をした。
「……あの、もしかして……」
喋れないのか、と俺が尋ねようとしたのが分かったのか、
「いや、身体に異状はないんだ。ただ、今までどんな風に喋っていたか忘れてしまって、反射的に言葉が出せないんだよ」
彼はそう言った。
忘れてしまった、のか。
自分がどんな風に喋ってたか?
どんな風に振舞ってたかを?
これじゃ一種の記憶喪失だ。
……いや、もっとひどい。
事故でこんなことになったわけじゃない。
ああ、あの時と同じだ。
朔夜憐は奪われた。
その、魂を。