【幕間】見守る者
私はこの家の家政婦。
五十になった時に、勤めていた会社の倒産を機にこの家にお世話になっている。
坊ちゃんと祥希お嬢様が住むこの家を守り、お二人を見守るのが仕事だ。
お二人は優しい。とてもいい子達だと思う。
坊ちゃんは祥希お嬢様の為に日々奔走されていて、家にはなかなか戻られないけれど、家政婦の私にも良くしてくれる。それに、祥希お嬢様の様子を伝えるととても嬉しそうにはにかむ姿に、妹の祥希お嬢様のことを本当に大事にしているんだなと、微笑ましくなる。
祥希お嬢様は齢十七とは思えない幼い言動の多い方だ。だが見た目は普通の女子高生と何も変わらない。むしろ『普通』にはおさまらないような整った顔立ちと、陶器のような肌、そしてスラリと伸びた手足をお持ちだ。
そして、写真でしか見た事はないけれど、亡きお母様に少し似ている。
以前、私の他にも家政婦何人かいた頃。誰かがうっかりそれを言ってしまったら、祥希お嬢様は「お母さん……?あ……ままはどこ……?まま、ママ、まま……!」と錯乱し倒れてしまった。
その後の坊ちゃんは怖かった。
「何故あいつの話をした」と問い詰め「お写真に似ていたので」と答えた家政婦は即刻解雇された。
その後は坊ちゃんの逆鱗に触れないよう、祥希お嬢様のスイッチを押さないように振る舞うことに疲れた者達から徐々に消えていった。
そうして最後に残ったのが私。
私はお二人が好きだ。
例え、特殊な力を持って生まれた人達だとしても。
ただ、一つ思うのだ。
お二人は、この先どうされるのだろうか。
坊ちゃんはこの家に他の家政婦を雇うつもりはないらしい。無理もない。祥希お嬢様の力は人を殺める可能性がある。何かあった時、その罪を背負わせたくはないだろう。
もうすぐ私は六十を過ぎてしまう。
老い先短い私の老婆心が顔をのぞかせる。
お二人はこれからの人生、どう生きるのだろう。
どうか、私亡き後も笑っていて欲しい。
それが今の私の願い。