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Connector  作者: ミカエル
3/4

墓場のルーク





「墓場のルーク、もう…いい。もう……いいよ。俺を…休ませて………く……れ………。」


力無く横たわる兵士は言った。

鉄の甲冑の隙間から流れる赤い液体は彼の死を物語っていた。

私だって休ませてあげたい。

楽になって欲しいと心から願っている。

でも、でもダメなんだ。諦めたら人類が、滅亡してしまうから。


剣が交わる音をかき消すように、遠くで獣の呻き声が聞こえる。それはひとつではない。何百。何千と言う咆哮が重なり合っている。


《ビーストクライシス》

コネクター達はこの戦いの事をそう呼んだ。


女の獣人と男の人間のコネクターの愛は巷では有名だった。愛の形はそれぞれ。そう皆思っていた。


だが、その愛を気に入らなかったコネクターの1人が、女の獣人を暗殺したことが事の発端。そんな事をされて獣人族は怒るに決まっている。この戦い、どうあがいても悪いのはコネクター側、人間サイドだ。だが、死ぬわけにはいかない。こちらが悪くても、白旗を上げても殺されるのであれば立ち向かうしかない。それが生きる者の定め。戦うしかないのだ。


「……本当に、すみません」


私は横たわる兵士に手をかざした。

強い光が彼を包んだ。兵士は光に運ばれるように宙にフワッと浮かび上がり、光が強く拡散して飛び散った時、彼は地に足をつけた。


リザレクト。死んだ者を蘇生する私の魔法のようなものだ。普通の人間は魔法は使えない。

私はきっと、暗殺したコネクターが嫌った存在なのだろう。


「ルーク、右だ!!!」


立ち上がった兵士が私の方を向いて叫んだ。

私はすぐに右を向いて、斧を振りかざして襲いかかってくる獣人を見つめた。

すると獣人は振り上げた斧を持ったまま動きを止めた。正確には私が止めさせたという方が正しい。これも魔法のようなもの。強く見つめた物を固める事が出来る。勿論呼吸すら出来なくなるのでそれは死を意味する。

これらの力が、私がコネクター軍の司令塔に置かれている理由。

本望ではないが、やるしかない。この戦いには沢山の仲間が参加しているから。負けるわけにはいかない。


「すみません。私が死ぬまで、楽にしてあげることは出来ません。人類の未来の為に、力を貸してください」


私は俯きながら兵士に言った。

すると兵士は剣を私に向けた。


「ルーク!!休ませてくれと言った私が馬鹿だった!!私にも家族がいるんだ!!この魔法の剣をお前が作ったってのは知ってる。俺だって人類の為に一役買ってやるよ!!」


兵士は勢いよく獣人達の方へ走って行った。

私は強く握りこぶしを作り自分の太ももを叩いた。

私が弱気になってどうする。



「後方の銃撃部隊A-4まで前進!!!」



----------



「お前、どっかで見たことあると思えば墓場のルークじゃねえか。ビーストクライシスでは随分と暴れてたみてえだな」


カフェを覗くアルゼクスは大きな口を開けて言った。ラナは異臭に慣れていないのか鼻をつまんでいる。今日は変な客が多い。


「人違いじゃないですか?私はただのカフェのマスターです」


私はしらを切った。ここで墓場のルークだとバラせば余計コネクターを匿っていると思われる。


「いや、その蒼い眼。金の髪。間違いねえ。お前、ルークだな」


やはり、あれだけコネクター軍の勝利と私の顔と名前が噂として流れたらもう誤魔化すことは出来ない……か。

裏の掲示板では私のスレも立っていると聞くし、どこまで私の情報がばら撒かれているか分からない。もしかしたらここのカフェも変な噂が流れているのかもしれない。だからお客さんが極端に少ないのか。


「そうだとしたら、どうなんですか?」


私はアルゼクスを強く睨みつけた。私は基本殺意を向けられなければ相手を固めることは無い。


「ルークなら黒髪の小さな女の子のコネクターの居場所知ってるんじゃねえか?知ってたら教えてくれよ」


「知りませんよ」


アルゼクスは大きな口を開けてそう言った。

私はあくまでしらを切る。ソフィーを渡すわけにはいかない。

すると鼻をつまんでいたラナが口を開いた。


「あんた、さっきから臭いんだけど、マスターが知らないって言ってるんだからもういいでしょ?どっか行ってくれない?」


アルゼクスは店内に手を入れた。

巨人族の手は扉を突き破って入り口付近に大きな穴を開けた。ラナはアルゼクスに掴まれ持ち上げられる。


「お前、そんなこと言うと食っちまうぞ」


アルゼクスは雑食だ。人間やヴァンパイアだって食べる事ができる。そういや、私はパッと見でラナがヴァンパイアだと分からなかった。低級なヴァンパイアなら一眼で分かるのだが。もしかしたら彼女は……。


「そうやってあなたは私のお父さんとお母さんを食べたんでしょ!!!!」


「ソフィー!!」


大きな物音で起きてしまったのだろうか、気づいた時にはソフィーが私の横に立っていた。私はソフィーを隠そうと前に立つが、ソフィーは走って店を出て上を見上げた。


「私のお父さんとお母さんを返して!!!!」


ソフィーの悲痛な叫びはアルゼクスの鼓膜を揺らした。ラナも呆れた様子で拳から抜け出し、アルゼクスの手の上に座っていた。


「お父さんとお母さん?返すも何も奪ってすらいないよ」


「そんなの嘘!!!あなたが私のお父さんとお母さんを食べたところ、私見たんだから!!!」


アルゼクスは戸惑いの表情を見せている。巨人族は人間よりも知能は低い。高度なハッタリが出来るとは思えない。その戸惑いの表情は本物だった。


「た、食べるわけないじゃないか!!君のお父さんとお母さんに会った時は農作業のお手伝いをして欲しいから手を貸してくれと頼まれていたんだよ」


必死に弁解をするアルゼクス。ソフィーとの意見が食い違っている。ただ、両親が喰われるシーンを見間違えるとは思えない。

するとラナがスマホをいじり始めた。

少ししてスマホを耳に当てると、うんと頷き、スマホを下に落とした。

ソフィーは慌てた様子でスマホを受け取ると聞き覚えのある声に驚いて、スマホを耳に当てた。


「うん、うん。ごめんなさい。私、2人とも食べられたと思って、逃げなきゃって……」


ソフィーは通話越しに泣き始めてしまった。

ラナはアルゼクスから飛び降りると私の近くまで歩み寄り耳打ちした。


「これ、なんか怪しいわね」


「はい。私もそう思います」


ラナはカウンター席に足を組んで座った。

アルゼクスは戸惑った様子でその場にしゃがんだ。私もカウンターに戻り散っている埃をタオルで拭いた。


「それでソフィー、お母さんとはなんて話したの?」


ラナは涙を流すソフィーにそう問う。

やはり女性は強い。私なんかでは今のソフィーをなだめる事しか出来ないだろう。


「ずっと行方不明のあなたを探してたのって、アルゼクスにも協力してもらってるって、私、なんでこんな事しちゃったんだろう」


ソフィーの止まる事のない涙はきっと、後悔と、安堵と、心配と、恐怖と、様々な感情が混ざっている事だろう。


「そう、なら帰ればいいわ。お幸せに」


ラナはソフィーからスマホを受け取るとそう言い残し立ち上がった。


「ただ、あなたの故郷まで私が見送るわ。少し気になる事があるからね」


「そんな、悪いですよ。アルゼクスも付いてきてくれるみたいだし、大丈夫です」


ラナの申し出に対して、ソフィーは申し訳なさそうに両手を前に出す。

私はclosedの掛札を手に取ると入り口近くの柱に刺さっている木の枝に掛けた。


「あなた何をしているの!?」


「私もソフィーの故郷まで付いて行きます。私も少し気になるので」


ラナは驚いた様子でカフェを指差した。


「あなたはマスターでしょ?こんな入り口に大穴が開いた状態で留守にするなんて、泥棒も好き勝手し放題だわ」


「そろそろ警察も来ますし、面倒ごとは苦手なので知り合いに頼むとします。元々私のお店は殆どお客さんが来ませんし、大丈夫ですよ」


私はカウンター下の戸棚から小さな鞄を手に取ると掛札に付いているほこりを手で払った。


「あなたがいいならいいけれど……」


「それじゃあ行きましょうか」


それぞれの歩幅で、ゆっくりと歩き始めた。





-------



「それで、ルークは吊れたのか?」


「はい、現在ソフィーの故郷へ向け進行中でございます」


暗闇の中で赤いマントが光った。


「ケッケッケ。チェックだ。ルーク」


ガラスのテーブルに置かれたチェス盤のビショップを大きく前に進めた。



-------



「じゃあ私が見たあれは何だったんだろう」


今まであった話を各自話しながら、街を出て森の中を歩いていた。

確かに、問題はソフィーが言うそこにある。

何故ソフィーは両親がアルゼクスに殺される風景を見たのか。夢なのか、はたまた幻覚なのか。後者なのであれば非常に厄介だ。それが私がソフィーについてきた理由でもある。


「例えばそれが幻覚なのだとしたらかなり厄介ね」


ラナも薄々感づいてはいるのだろう。幻覚を他人に見せることが出来る能力を持つ者はおそらくこの世に1人しかいない。


「そうですね。幻覚を見たとなると犯人は恐らく彼しかいないでしょう」


「やっぱりそうよね、幻覚と言ったら」


前方すぐ近くの木に止まっていたカラスが飛び立った。それと同時にゆっくりと目の前に残像のようなものが現れた。それは少しずつ形を成していき、人のような形になった時、それは赤いマントを思い切り広げた。勢いよくマントのフードが取れると、見覚えのある顔があった。


「ケッケッケ、久しぶりだな。ルーク」


私とラナは口を揃えた。




「「暗殺者クルト」」




To be continued




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