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「カズ君早く行こうよ!」
痺れを切らしたスズカの声で僕は我に返った。
スズカは怒っているとも泣き出しそうともいえる顔で僕の上着の袖をつかみながら、その場で体をゆすったり足踏みしている。
「あぁ、そうだね…。」
「はやくママたちに挨拶しないとママ待ってるよ!」
スズカは僕の手を乱暴に引っ張って進んでいく。なんだか可笑しくて、先程まで僕の頭を支配していた彼女はどこかへ消え去っていた。
墓の前には女性が置いていったのだろう。色鮮やかな花束が左を頭にして置かれていた。
スズカはその花束を見て綺麗だとはしゃぎ、最後に自分達が買ってきたものも負けないのだと誰に向けてなのか言った。
そんな姿にも僕は微笑ましく思ってしまうのだった。
「カズ君お花ちょうだい。それからお水もあげてね。」
僕は言われるままに花を渡し、墓石に水をかけた。
最後に線香を供えて、墓参りは終わる。
墓の前で二人並んで手を合わせた。それが終わるとスズカはうきうきした様子でまた僕の手を引っ張る。
「カズ君、お腹空いた。」
時刻はもう正午過ぎだった。
墓参りに来た後は、いつもスズカのお気に入りの店で食事する事も、なんとなくまもられてきた決まりなのだ。
霊園を出てから車を走らせてしばらくしたところにあるオープンテラスのイタリア料理の店が最近のスズカのお気に入りだ。落ち着いた雰囲気のその店が気に入るなんて、この小学生は案外ませているのかもしれない。
その後もスズカの指示する場所を点々として、夕食まで外ですませてしまった。
翌日、休日は朝の仕事はスズカに任せて僕は朝と昼の間くらいまで眠るか自室で休んでいる。スズカも気を利かせて、普段なら僕を起こすようなことはしないのだが……。
「カズ君――!!」
僕を呼ぶスズカの声が階段下から忙しく何度も聞こえてくる。
仕方なく下へ降りると、階段下に来ていたスズカはあと数段残た僕の手をつかんで引っ張っていった。
「どうしたんだよ。危ないだろ。」
危うく踏み外す所だったので思わず口に出したが、スズカには聞こえないようで、リビングのドアを開けると、テレビの前まで僕を引っ張ると必死になって画面を指した。
「見て!この人昨日お墓に来てた人だよね?」