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あれから6年、僕は姪を連れて二人の墓を訪れた。
毎月の月命日にも訪れるが、この日は特別正装して行くのが6年間何となく守られてきた決まりだ。
墓は公園のような日当たりのいい霊園にある。
母が亡くなったとき、生前明るく輝かしかった彼女が鬱蒼としたくらい場所に一人きりでは可哀想だと言って父がこの場所を選んだ。
霊園は奥に行くほど一軒ごとに与えられる敷地が広くなっていく。うちの墓はわりと奥の方にあって、敷地内にいくつか花が植えられている。これも父が母を思っての事だった。
灰がかった白い石畳の道を三人の眠る場所に向かって歩いていくと、うちの墓の前に女性がしゃがみこんでいるのが見えた。
「カズ君あの人だれかなぁ?」
スズカもまた気が付いたようで、少し不安げに聞こえる声でそう言って手を握ってきた。
僕達はその女性が終えるまでその場で待っていた。
しばらくして、女性はゆっくり立ち上がるとこちらに向かって歩きだした。
その姿を見て僕は最近見た映画を思い出した。
近代ヨーロッパが舞台のその映画の中で、恋人を亡くした女性が着ていたような黒いドレスをこの女性も着ていたからだ。
僕は、女性に馴染んではいるものの、どこか場違いな空気も感じるその姿にしばらくみとれた。
頭から黒いベールをかぶっていたため、はっきりと顔を見ることはできなかったが、やはり見覚えの無い女性だ。
互いにすれ違いざまに目礼をかわす。その時女性は確かに僕にささやいた。
「……はじめましてカズマ。」
驚いて振り返ったが、女性はそのまま優雅がな足取りで歩いていってしまった。