0
――それは父と姉が死んでから6年目の命日に始まった。――
6年前、父と姉は死んだ。原因は交通事故で、姉が運転する車が雨に濡れた道路でハンドルをとられスリップし横転、炎上したらしい。
当時16歳だった僕は二人の確認をした。
もっとも、火葬前に黒焦げになった二人は生前の面影なんてみてとれるわけもなく、焼け残った細かな遺品から父と姉であるとどこか受け入れきれない思いのまま確認をした。
母は自分を生んですぐに亡くなったと聞いている。
つまり、父と姉が僕に残された家族だったのだ。
こうして僕は一人きりとなったわけだが、二人の最後がああいった形であっただけに悲しいとかいった感情は不思議なほどに起こらなかった。
幸い父がなんだかえらい研究をしていて、その道ではかなりの実績があったようで、生前の蓄えや保険なんかで大学を出るぐらいまでなら十分に生活できそうだったので、ひとまず僕に関しては親族にもめ事を起こさずに済んだ。
一方で起きたのが、姉が残した子供についてだった。
姉に子供が居たことを弟である自分もこの時初めて知ったぐらいだから、当然父親が誰かなんて分かるはずも無かった。
その子供、当時4歳だったスズカを親戚一同敬遠し誰も引き取って面倒見ようとは言わず、変な緊張感が漂っていた。
放っておけば彼女は施設に送られる事となったのだろう。
「その子を、僕に引き取らせていただけませんか……?」
いくら金はあっても今後に全くの不安が無いわけではないのに、思わず言葉が出ていた。
「カズマ君はまだ16歳でしょ。」
「学校だってあるのだから無理に決まってるじゃない。」などと大人たちは考えを改めろと口々に言った。
「その子は僕の姪ですから――。」
そうして僕は危うくば血縁すら無いかもしれない彼女を引き取る事となった。