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駅員さんの恋  作者: 高藤みずき
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【2】「キスしてもいい?」 1


  

 患者さんたちにみんなの想いが伝わったのか、わたしが到着した時にはもう掃除も終っていて、すぐに移動になった。わたしの歓迎会ということであっという間に上座に案内され、右に唯史ちゃん、左に九重先生という微妙な両手に花の状態だった。みんなが揃って座ったところで乾杯の音頭をとったのはいずみさんで、さあさあ、とみんなにグラスを持つように促す。


「それでは、咲紀ちゃんの新加入と今後の活躍を祈って」


「「「ようこそにこにこデンタルクリニックへ!」」」


 明るい声とともに、“とりあえず生”のジョッキたちが、豪快に打ち鳴らされる。


 ちょ、ちょっと零れる! 慌てて口をつけるとそれはなんだかいつもより美味しい気がした。


 歓迎会は洋風居酒屋の小洒落たお店で。そしてやっぱり座敷席だった。パンプスでよかった、とホッとするよりもなによりも、先刻の出来事でわたしの頭はぱんぱんだった。うっかりするとわーっ、と叫びだしたくなる。今は忘れよう忘れようと強く思っても、気がつくと水底から浮かんで来る泡みたいにぽん、と脳裏に弾けるのだ。


〝一目惚れって、信じる?〟


 誰が、誰に? 駅員さんが、わたしに? 嘘嘘嘘ーっ。


 せっかく落ち着きつつあった頬が再び赤らむ。お酒のせいでは勿論ない。落ち着け。落ち着けわたし! 好きだと言われたわけじゃない。付き合おうと言われたわけじゃない。——でもじゃあ、あの言葉はなに? 幻聴!? だって一目惚れされる要素がどこにも思い浮かばない! 逆ならまだしも。……からかわれたんだろうか。そんな感じの人には見えなかったけど。


「どうかした? 酔った? わけないか。咲紀酒豪だもんね」


 隣りに座っていた唯史ちゃんがわたしの顔を覗き込む。乾杯のビールは既に空になっていて、既に熱燗に移行していた。早いな。


「へえ。咲紀ちゃんっていける口なんだ。さすが唯史の従妹。酒豪ってちなみにどのくらい?」


 すかさず聞きつけた九重先生が唯史ちゃんの左向こう側から問いかけてくる。唯史ちゃんはうーん、と少し考えて、ちらりと周囲を眺めながら「久保田さんより上くらいで、福本さんほどではない感じかな」と答えた。


 ええっ、いずみさんってそんなに?


「えっ、そうなの? うーん、それじゃあ酔わせてお持ち帰りしようと思っても無理かー。残念」


 なんか不穏な冗談が聞こえたけどスルーする。これはわたしにかこつけて唯史ちゃんを弄りたいだけだろう。


 それにしてもいずみさんも里美さんも結構、イケる口なんだ。なんだか嬉しい。大学の友達は真偽はともかく、わたし飲めないのー、っていう女の子が多かったのだ。だからそれに合わせて飲むしかなくて、女の子が多い飲み会では満足のいくまで飲むなんてことは殆どなかったといっていい。前の職場の人たちは忙しくて飲みに行く暇すらなかったけど。ダメですかね、女が酒飲んじゃ。そんなこと気にしないでお酒は楽しみたいじゃない。


 駅員さんはそういうこと気にする人だろうか。そんなことない気がするけど。ああダメだ、わたし気がつけば駅員さんのこと考えてる。いくら振られたとはいえ、そんなにすぐにこんなに揺れたりドキドキしたりするなんてあんまり不誠実なんじゃないのわたし。……違う。これは色々免疫がないせいだ。多分、きっと。


「でも駄目モトで飲ませちゃおうかなあ」


「智巳!」


 唯史ちゃんがキッと睨みつけると、九重先生は肩をすくめて面白そうに笑った。ほら、やっぱりからかわれてる。


「うわ、ホント大事にしてんだね」


「咲紀は、妹みたいなものだから」


 出た。唯史ちゃんの口癖。昔はそう言われるたびに胸がずきずき痛んだっけ。妹じゃない! って何度も心の中で叫んだけど、それ主張して距離をとられたりきっぱり振られるのが怖くて結局一度も口に出来なかった。


 今は……ちょっとくすぐったいかな。


「……妹、ねえ」


 不意に聞こえたいつもとは違う九重先生のその声音に一瞬びっくりする。でも見るといつもの九重先生だった。何だったんだろ、今の。


「ねえねえ、咲紀ちゃんカレシいないってホント?」


 突然唯史ちゃんの向こうに座ってた里美さんが身を乗り出して聞いてくる。津田ちゃんから聞いたのかな? 情報早すぎ。


「——ええ、まあ」


「あれ?」


 不思議そうにした唯史ちゃんに、小さく〝別れた〟と呟いた。


「ねえねえ、カレシ欲しくないの? ゆきちゃんなんてどう?」


 え? 突然のそのオススメに首を傾げる。藤島くん? なんで?


「藤島くんには彼女いるんじゃ」


「それがさあ、二股かけられててー」


 ああ、そういえばこの間そんなことを言ってたっけ。


「ねえねえねえねえ、どう?」


 って、それをなぜ里美さんが言うのかわかりませんが。本気でいってるんだろうか。結構です、ときっぱりざっくり口にするのは簡単だけどここはちょっと場の空気を読もう。


「えっと、……わたしより可愛い人はちょっと」


 瞬間藤島くんはがっくりと肩を落とし、周りはどっと盛り上がる。あ、ちょっとしくじっただろうか。ごめんね藤島くん! と内心平謝りするけど、楽しい。


「あーやっぱそうだよねえ。わたしもそう。どっちかっていうとー、アタシを楽々お姫様抱っこできるくらいがっちりした体育会系が好みなんだあ。だから新堂センセとか九重センセみたいな人対象外なんだよね」


「えー、そうなのー? 残念。俺結構鍛えてるんだけどなー」


 さほど残念でもなさそうに九重先生が里美さんに肩をすくめてみせた。


「まったまたあ。九重センセの好みは咲紀ちゃんみたいなコでしょー? それに、アタシ細マッチョよりゴリマッチョ希望なんでー!」


「里美ちゃんも可愛いよ」


「あーリップサービスは結構でーす」


「でも咲紀ちゃんみたいな子が好みなのは本当かな」


 どう? と九重先生がわたしに笑う。わたしじゃなくてわたし“みたいな”ってところがポイントだよね。こんな軽くて愛想がいいのに腹の底が読めない人が彼氏だったら日々心配だろうなあ。気がついたら捨てられそう、って考えて、そういえばこういうタイプじゃない男にも気がついたら別れを告げられたんだっけ、とちょっともやっとする。


「咲紀ちゃん?」


「光栄ですけど遠慮しておきます。九重先生のファン怖いし」


 これは冗談ヌキで本気だ。付き合う気はまったくないけど、必要以上に近づくのは危険だ。唯史ちゃんにも九重先生にも患者さんによるファンクラブがあって、不可侵条約があるらしい。わたしも何度か探りを入れられて、唯史ちゃんのただの従妹だとわかると手のひらを返したようにみんな優しくなった。


「咲紀ちゃんもダメかー。残念でしたね、九重センセ」


 ニヤニヤと笑いながら「御愁傷様ですー」と里美さんは自分のグラスを掲げてみせた。一瞬ちょっとだけ生じたその場の緊張感みたいなものがふっと解けるのを感じる。


「えっと、どういうことですか?」


 不思議そうな顔をしたわたしに、里美さんではなくいずみさんが答えてくれた。


「前に先生たちに付き纏って大変な子がいたの、うちに。だからそれ以降は気をつけて求人してたんだけど、いつの間にかファンクラブが加熱しちゃって、先生方はずっと独身」


「別にそういうことでもないんですけどね」


 苦笑した唯史ちゃんに小夜さんがすかさず突っ込む。


「あらっ、だって以前お見合いしたら相手のお嬢さんにファンクラブの方が口出しなさって破談になってしまったじゃないですか」


 口調はおっとりとしているけど、話の内容は結構怖い。ファンクラブの許可がないと唯史ちゃんは結婚もできないのか。イケメンって大変だな。


「咲紀ちゃんなら可愛いし、明るいし、まだ一週間ですけど患者さんたちにも受けがいいし」


「え、と、小夜さんそれ褒めすぎです」


 逆に恥ずかしい。歓迎会だからサービスか? 褒められるとうっかり失敗しそうだ。気をつけよう。


「あら、そんなことないわよー。ファンクラブの方も咲紀ちゃんならお二人のどちらかとそういうことになっても認めてくれるんじゃ、って言ってたんですよ」


 わたしの知らないところでそんなことを……。ちらっと唯史ちゃんを見るとこの話題には慣れているのか苦笑を浮かべるのみだ。この曖昧な優しさがファンクラブを増長させているのかもしれない。


「なら、津田ちゃんは?」


 下座寄りで、みんなの注文を引き受けながらにこにこしてる津田ちゃんが、わたしの問いかけにこて、と首を傾げてすみませんと笑う。


「わたし年上の許容範囲は二つ上までなんです」


「ど、どうして?」


「なんとなく、ですかね? 職場恋愛とか萌えないしー。職場でも会って、外でも会ってだと落ち着かないっていうか飽きちゃうっていうか、見えすぎちゃうっていうか見られすぎちゃうっていうか」


「出た! 乙女の妄想」


「里美さんひどーい!」


 意外だ。あのクリスマスまでに彼氏発言からいって、許容範囲は広いのかと思ったのに。いずみさんはそんなわたしを見てくすくす笑った。


「だから津田ちゃんは採用になったのよ。彼女が採用になったバイト募集の時五十人くらい来たけど、殆どが先生たち狙いだったの」


「わかる、んですか? そういうの」


「目が違うんだよね」


 うんうん、と里美さんが頷きながら言った。


「先生が好きでも仕事ができればいいんだけど、たいてい公私混同だからうざいし面倒くさいことになる」


 ぽつり、と敦子さんが呟く。手に持っているのはグレープフルーツハイの焼酎薄め。焼酎はストレートとかでぐいぐいいきそうなのに、お酒にはあんまり強くないのかほんのり頬が染まって気だるげになってるのが色っぽい。そんな敦子さんに里美さんは我が意を得たりとばかりにグラスを合わせた。


「そうそう。好きなセンセに怒られるとすぐ泣いちゃうしね。トイレ閉じこもられたときはどうしようかと思ったよー。患者さん入れなくて」


 結構みんな言うことがキツイ。でもそれだけ今まで色々あったってことかな。確かにあんなハードな職場に恋愛問題まで持ち込まれちゃうと……、ちょっと面倒くさいかも。だから親戚のわたしに声がかかったのかな。納得。場が緩んだその時、津田ちゃんが「あーっ!」といきなり声を上げて立ち上がった。


「わたし、時間なんで帰りますっ。ごめんなさい咲紀さんっ」


 両手を合わせて拝みつつ慌てて帰り支度を始めた津田ちゃんに、大丈夫だよと頷く。


「テスト期間中なのに来てくれてありがとう津田ちゃん」


「とんでもないっ、かえって息抜きできて楽しかったです」


「頑張ってね、試験」


 えへへーっと曖昧に笑ってばたばたと津田ちゃんが出て行くと、なんとなく寂しくなる。見渡せばもう一人足りない。藤島くんだ。そういえばさっきからずっといなかった気がする。トイレで吐いてる、とかじゃないといいんだけど。


「藤島くんは?」


「いるよー。カノジョと電話中」


「なんだ仲いいじゃないですか」


「あっまーい。電話してるから仲がいいとは限らない」


 ちちち、と人差し指を振ってアタリメを男らしく齧りながら、里美さんはいつの間にか頼んでいたらしい熱燗を手酌で飲んでいた。わたしはどちらかといえば冷やか冷酒派だ。


「相当な構ってちゃんでねー。どのくらいかっていうと、一日三回は連絡がないと泣くぐらい。とにかく常に誰かにいて欲しいらしくて、付き合って半年なのにもう三回も浮気してるんだよね」


「……三回。同じ子ですよね?」


「そうそう。浮気相手と別れるたび、ごめんねえ寂しくて浮気しちゃったもうしない、とか言ってくるもんだから知らなかったゆきちゃんはぼろぼろ。そのくせ自分の彼氏が浮気するのは許せないみたいでしょっちゅう電話かけてきて、取らなかったり折り返さなかったりすると“あたしのこと嫌いになった?”が始まって彼女が納得するまで明け方まで電話してるとか、いっつもなんだよ。なんで別れないのかな。バカみたい」


 それはなんていうか、大変そうだ。ガリガリ精神削られそう。わたしも里美さんに一票かな。それだけお互い好きってことなんだろうけど。うーんでも寂しいからって浮気はなあ……。共感できない。


「里美さん、詳しいんですね」


「幼馴染なの。あいつとは」


 ああ。どうりで。仲がいいなあ、と思ったんだ。あのツッコミには年季が入っている。お姉さん、みたいな気持ちなんだろうか。でも。


「里美さん、じゃだめなんですか? 藤島くんの彼女」


 案外お似合いだと思うんだけど。わたしの問いかけにそれは言われ慣れてるのか里美さんが片手をひらひらと振ってみせる。


「好みじゃないし、近すぎてねー。むしろゆきちゃんのほうがアタシみたいなのごめんだと思うよ。……あー、カレシ欲しいなー。咲紀ちゃんが来たから彼氏いない派は三人か。もう一人入ればタイ……!」


「三人?」


「小夜さんには旦那様がいるし、いずみさんにも敦子さんにもカレシがいるよ」


 だろうなあ。みんな美人だもん。いや、美人は理由にならないか。里美さんも津田ちゃんも可愛いからいない方が不思議な感じだけど。顔で恋愛するわけじゃないしね。でもどんな人かは気になるな。特に敦子さんの彼。どんなタイプなんだろう。


「ねーねー咲紀ちゃんはどんな人が好みなワケ?」


「あー、それは俺も知りたい」


「うわ、九重センセ、やっぱ露骨に咲紀ちゃん狙いじゃないですか」


「まあまあ。それで?」


 ど、どうしてそんな話に。


 困った。頭の中に今浮かぶのは思いっきり具体的な相手だ。


 えーと、えーと。


「手、が綺麗で、笑顔がよくて、優しくて、気遣いできて、いつでも爽やかにおはようございます、とか言ってくれる……人、ですかね」


 みんながきょとん、とわたしを見るのがわかった。


 え? わたし何か変なこと言った?


「具体的……」


 敦子さんがぽつり、と言う。


「えっ、べ、べつに」


「ねえねえ、その条件だったらオレだって当てはまるよね?」


 えーと、だからファンクラブがある人はちょっと。それに手は綺麗かもしれないけど、笑顔に含みがあって、優しさに裏があって、気遣いは罠っぽくて、いつでも企むように挨拶して来る人はなあ……。


「智巳は却下」


「お前はお父さんか」


「うちで預かった以上、咲紀の保護者は俺」


 唯史ちゃん、九重先生の前では俺なんだ。なんか新鮮。ぐーっとビールを飲み干して、ちら、と時計を見るといつの間にか終電ぎりぎりの時間だった。……帰らなきゃ。でも、さっきの今で駅員さんにどんな顔したらいいのかわからない。


 うわまずい。考えるとまたどきどきしてきた。うー、でも帰らないわけにはいかない。それに、もう今日は駅員さんいないかもしれないし。


「あのう、すみません、わたしそろそろ」


「えーっ、もう帰っちゃうのおー?」


 里美さんたちが残念な声を上げてくれる。嬉しいし申し訳ない。わたしの歓迎会だから最後までいたい気持ちはあるんだけど……。タクシーは……引っ越したばかりで想定外の出費はちょっと痛い。でも歓迎会は一度きりだしせっかくだから残ろうか。


「うちに泊まれば?」


 あっさりと唯史ちゃんが言う。


 ええっ!? ——と、びっくりするほどでもないか。唯史ちゃんが実家にいるときはよくお泊まりに行ったっけ。ここは実家じゃないけど唯史ちゃん的には同じ感覚なんだろう。


「でも着替えとか持ってきてないし」


「大丈夫。パジャマは貸すし、明日外歩かなくてもいいように車で送ってくよ」


 ……それはとても魅力的な申し出だ。問題の先送り、とも言えるけど。


 どうしよう。


「いーなーっ。オレも唯史のとこ泊まるーっ」


「バカいうな」


 すがり付いてくる九重先生に唯史ちゃんはすげなく肘鉄をくらわせた。


 ぐえ、とくぐもった声がする。


「冷たい。いつもは泊めてくれるのにー」


「お前より咲紀の方が優先に決まってるだろ」


 本当に二人とも仲いいな、と見ているところに敦子さんが顔を寄せてくる。なんですか、と近づくと「ねえねえ」と小声で囁いた。


「新堂センセならいいんじゃないの? さっきの条件にも当てはまるし、嫌いじゃないでしょ?」


 その言葉を後押しするかのように意味ありげな視線を向けてくる女性陣にどぎまぎする。さすが、先生たちへの想いを隠して入ろうとした人々を撃退してきた人はスルドイ。あの頃のわたしだったら採用されなかったかもしれないな。唯史ちゃんしか見えてなかったし。だからってトイレに閉じこもったりはしなかったと思うけど。


「従兄ですよ」


「いとこなら結婚できるじゃーん」


 すかさず里美さんが突っ込んで来て、わたしも小さい頃はそう思ってたなあ、とか思いながら苦笑した。思ってた。夢見てた。でも、昔唯史ちゃんが彼女を家に連れてきてわたしに紹介したときに諦めたのだ。わたしでは唯史ちゃんの隣りには立てない。唯史ちゃんは彼女を見るみたいにわたしを見てはくれない。この恋は実らない。永遠に。だから無理矢理箱に詰めて心の奥に封じ込めて終らせたのだ。幼いだけだったわたしの初恋。今もやっぱりカッコいいな、素敵だなとは思うけど。 


「そこ、不穏な発言禁止」


 冗談交じりの教育的指導は唯史ちゃん。随分飲んでいるはずなのに顔色一つ変わっていない。うちの家系はみんな酒豪なのだ。親戚の人たちに比べたらわたしなんかまだまだ下戸に近いだろう。日本酒を普通にコップでガンガン飲んじゃうからね。


 ねえねえどうなの、という一同の視線に晒されて、わたしは肩をすくめて首を横に振ってみせた。


「やっぱりファンクラブ怖いですし、唯史ちゃんが彼氏じゃ毎日きっと落ち着かないですよ。モテるし、誰にでも優しいから。それに仕事人間ですしね」


「まあねー、デートより間違いなく診察とりそう」


 しみじみ頷いた里美さんに、女性陣が一斉に顔を見合わせて笑う。唯史ちゃんは何かもの言いたげに口を動かしたけど、図星だからなのか反論が思い浮かばないのか、酔っぱらいには何を言っても無駄だと思ったのか結局は何も言わなかった。


 そこへ電話の終わったらしい藤島くんが憔悴しきった様子で戻ってきて、それを慰めるようにみんなで飲み直し、ラストオーダーもとっくに終った閉店間際やっとお開きになったのだった。

 




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