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駅員さんの恋  作者: 高藤みずき
41/56

【12】「好き」 1




「負けはイヤだな」


 まだ言うか、と九重先生を睨むと、両手を軽く挙げてホールドアップしてみせる。


「咲紀ちゃんのシナリオではこのあとどうなってるの?」


 厳密に言えばシナリオを書いたのはわたしじゃない。わたしはプランを提案しただけで、ここまでギャンブルな仕立てにしたのは千晶さんの方だった。でも、多分千晶さんは九重先生の心が知りたかっただけだ。


 今までずっと九重先生の気持ちを確かめたくて、あてつけみたいに色々な人と付き合ってきた千晶さん。——そして唯史ちゃんもその一人だったのだそうだ。


 あの日、自嘲的に微笑んだ千晶さんの声が脳裏に蘇る。



「わたし、唯史さんと付き合ったこともあるのよ」


「ええっ、唯史ちゃんと!?」


 その一言に思わず含んでたお茶を吹きそうになって、危うく堪える。


「……兄さんと一番仲がよかったから」


 これまでで一番大きな反応があったのは唯史さんだけだったかもね、と笑って、千晶さんは苦い何かを飲み下すように代わりに紅茶を嚥下した。


「でもそれはわたしを心配したからだったんじゃなかったのよ。唯史さんと付き合うなら今までのような真似はするな、と言われたわ」


 妬けちゃった、といいながらソーサーにカップを戻して縁をなぞる。


「唯史さんは最初から全部わかっていてわたしに付き合ってくれたの」


 唯史ちゃんらしい、と思った。放っておけなかったんだろう。親しい人に頼まれるとイヤだとは言えない性格だし。


「多分あなたとわたしを重ねていたのね」


「……え?」


「いえ、わたしと自分が重なったのかしら。小さい頃から一緒にいて、大切にしている子がいると言ってたわ。あなたのことでしょう?」


 唯史ちゃんはバカだ。どうしてわたしには妹だといい続けたくせに、他の人にはあっさりとそんなことを言うんだろう。


「聞いてもいいかしら。唯史さんを選ばなかったのはなぜ?」


 わたしがこんなこと聞くのは少し変だけど、と言いながら、千晶さんが可憐に首を傾げて問いかけてくる。少し言いよどんで、それでも全部を話してくれた千晶さんにわたしが話さないのはフェアじゃないと思い直して口を開く。


「わたし、唯史ちゃんのことずっと好きでした。でも同じだけずっと妹だと言われてきて、態度でもしめされ続けて、最初はそれでも諦めずにしつこく想い続けていたんですけど、だんだんそれが辛くなって来て……最終的には自分が傷つくのがイヤで諦めようって、逃げたんです。でも、今思えば恋に恋してた部分もあったのかな」


 決して手近で間に合わせようなんて意識はなかった。付き合うのなら唯史ちゃんみたいな人がいい、と思ってて、それがいつの間にか唯史ちゃんがいいに変わっていた。わたしのこと全部わかってて、いつも優しくしてくれて、望むこと全部叶えてくれて。これで好きになるな、というほうが無理だ。もちろんわたしだって唯史ちゃんに見てもらえるように、相応しいようにって頑張った。努力した。でもそれは見てもらうための努力で、自分をレベルアップさせるための努力とは少し違った気がする。


 あれは真綿でくるまれたような楽な恋、幻影、と言えなくもなかった。果たしてあのまま両思いになれたとして、わたしはわたしらしく生きられていただろうか。たとえば今、好きなところまで時間を戻してくれると言われたら、唯史ちゃんとうまく行くはずの時間まで戻ることを選ぶだろうか?


 否だ。


 わたしは今の自分がそんなに嫌いじゃない。不器用で、損する道を選びがちで、いつも遠回りしてきたかもしれないけど。それでも、駅員さんが選んでくれた自分はそう悪くないと思える。


「わたしも何度も思ったわ。一番近いところにいるから。わたしをわかってくれているから。この心地よさもみんな兄だからなんだって。……でも、ダメだった。どうしても比べてしまうの。目の前にいる人と。これが兄だったらって。いつか違う本当の相手が現れるはずだって色々足掻いてみたけど」


 それは、わかる。唯史ちゃんを忘れようとして付き合ってた頃のわたしもそうだった。わたしの中の相手に求めていることが変わるまで、ずっとそうだった。前彼と付き合って、そうか彼氏は保護者じゃないんだと気づくまで——。許されるためには許すべきだし、支えられたければまず支えなきゃいけないんだと気づいてから、多分わたしの中で何かが変わった。女の子から〝女〟になったのかもしれなかった。恋人同士っていうのは、守られるだけじゃなくて、対等なんだって。


 唯史ちゃんを選んでいたらひょっとしたら甘えたいだけのダメ人間になっていたかもしれない。愛されるだけで努力しないものすごい怠惰な。それは、すごくイヤだな。


「この人ならって思った人もいたわ。でもダメなの。触れられた瞬間心が叫ぶの。違うって」


 それもわかる。好きな人じゃないというだけで、無意識に体全部が拒絶した。


 駅員さんならあれほど幸せなのに。


「兄さんじゃなきゃダメなの。兄さんがいれば他には何もいらない」


 揺るぎない、真っ直ぐな瞳。この想いは、確かに怖い。盲目的にぐいぐい押して来られたら、それが愛おしい者なら。そしてこれが自分の犯した罪の結果だというなら、逃げるしかなかったのかもしれない。


「でも、試すのはこれで最後。兄がわたしを選んでくれないのなら、そのまま栗生さんとの結婚を発表するわ。幸い今度父の誕生日祝いのパーティーがあるの。そうすれば父ももう一度樹さんの後援をしてもいいと言っているし」


「そんな結婚、辛くないんですか」


「……相手があの人じゃないのなら、誰であっても同じことだわ」


 辛いだけ、と吐き捨てる。冗談じゃない。そんなことに駅員さんを巻き込むな。


「そんなことしたら会場から真哉さん連れて逃げますから」


 本気でそう言ったわたしに、千晶さんがお嬢様らしくころころと笑う。


「そう。じゃあ会場の警備を厳重にするように言わなくてはね」


「いいんですか? 九重先生が来たとき、警備が厳重だと逃げられませんよ」


 ぴくり、とカップに伸びた手が震える。千晶さんの口元が何ともいえない笑みの形に歪んだ。


「ズルイ方ね」


「……必死なんです」


「わたしもよ」


 そのときようやく本当の意味でお互いの視線が合わさったのかもしれなかった。


「唯史さんに頼めばよかったのに。わたし、唯史さんに借りがたくさんあるわ。だから栗生さんを助けて欲しいと言われれば断れないのよ」


 唯史ちゃんなら、多分頼めばやってくれるだろう。でもそんな無神経なお願いはできない。できればやりたくない。それに、それでは九重先生は救われない。千晶さんも。


「わたし、負けず嫌いだから」


「……いい答え」


 少しだけ目を瞠って、珍しいものを見るような眼差しでまじまじとわたしを眺めた後、千晶さんがぽつりとそう言った。


「わたしも負けるのは嫌い」


 お互いに不敵に笑って交渉成立。


「わたしもわたしができることをしてみせるわ」


 そう言って立ち上がった千晶さんは、今までわたしが見た中で一番綺麗な千晶さんだった。




 女の子がここまで頑張ってるんだから、九重先生もそれに応える義務がある。異論あるかもしれないけど、基本わたしは頑張る女の子の味方だから。これ以上逃げるのはわたしが許さない。


「なんだか罠にかかった兎みたいな気分だな」


 肩をすくめた九重先生に、更に追い討ちをかける。


「ゲームなんてするから悪いんですよ。千晶さんのために歯医者になったくせに回りくどい」


「え、それ誰から……ッ?」


「誰でもいいじゃないですか」


 腰を浮かせてうろたえる九重先生の姿にちょっとだけ溜飲を下げる。ありがとう唯史ちゃん!! これは唯史ちゃんがこっそり教えてくれた話だ。あいつ酔ってたから多分覚えてないと思うけどって。


 小さいとき歯が痛くなって一晩中泣いて辛そうだった千晶さんを、翌日魔法みたいに治してあげた歯医者さんを見て、自分も歯科医になろうと決意したのだそうだ。単純だけど羨ましい微笑ましいエピソード。


 ——ちなみに唯史ちゃんの理由は教えてもらえなかった。


「今度は自分自身と勝負して下さい」


「勝負?」


 首を傾げた九重先生に、わたしは頷いた。


「揺るぎない本当の想いがあればどんな形でも幸せになれるって証明してください。自分で」


「……やっぱり強いね、咲紀ちゃん」


 呆れ? 感嘆? ため息交じりのそれを受けて、うんざりする。


「まだ言いますか」


「咲紀ちゃんとなら変われたかもしれないな。オレ」


 九重先生がまるでいつぞやの江ノ上みたいなことをいう。まったくどいつもこいつも。


「無理です。わたしが好きなのは駅員さんですから」


「……うん。そうだね」


「もう、誤魔化しはなしです」


 九重先生の抱える葛藤は多分わたしには絶対にわからない。でも、物事にはすべからく許すタイミングってものがあるはずなのだ。ずっとなにかを憎んだり怒ったり悔やんだりし続けるなんて不毛だし、すごく疲れるだけだから。


 九重先生にとって、それが今であってほしい。


「自分で変わろうと思わなきゃ変われません。誰かに変えてもらおうなんて甘いですよ」


「うん」


「それにわたし、今すごく怖いです」


 ぎゅ、と自分の両手を合わせてお祈りみたいにする。


「怖いって、なにが?」


「まんまと九重先生のゲームに乗っちゃって、駅員さんと全然連絡取らなくて、これで立場が逆だったら絶対わたし、殴ってます」


 嫌われた、と思うだろう。自分のせいで怪我をして、電話にも出ないし顔も見せなかったら。理由を聞いても、どうして相談してくれなかったんだろうと悩むだろう。いくらわたしのためだったんだと言われても、どうして一緒に悩ませてくれなかったのかと。きっと。その時その時はそれで正しかったんだと思った選択が、今は容赦なくわたしを苛む。


「駄目だったら唯史がいるよ」


 多分わざとの無神経な言葉に、首を横に振る。


「行きません。何度でも頑張ります」


 駅員さんが許してくれなくても、謝り続けよう。頑張って頑張って、それでも駄目で、別れを告げられたら絶対大泣きするだろう。そしてバカなことをした自分を責めるだろう。でも最後まで全力で頑張れたなら、きっといつかまた前に進めるはずだ。


 駅員さんとの恋は、わたしにとってそういう恋だから。


 なりふり構わず頑張りたい恋。駆け引きも計算も打算もなく、目の前の今を大切にしたい恋。それが結果的に未来にも続いていたらいいと、そっと願うような。


「早く携帯返してくれないと、わたし暴れますけどいいですか」


「暴れる咲紀ちゃんっていうのも見てみたいけど」


「慰謝料、払いませんけどいいですか」


 それはイヤ、とやや強張った口調で九重先生はジャケットの内ポケットからわたしの携帯を取り出した。メールも電話履歴も案の定たくさんたまっている。前半は、連絡してなかった会社関係が主だった。一番新しいメールは駅員さんからで、日付は諌山先生の研究室に電話があった日。


 それを開いて、瞬間息を飲んだ。画面にぽたりと涙が落ちて慌てて指で拭う。


「咲紀ちゃん? どうしたの?」


「……なんでも、ありません」


 泣くのはまだ先だ。でも多分これだけで頑張れる。


 メールの文面はただ一言だけ。


 〝会いたい〟


 わたしも。わたしも会いたい。


 待ってて。


 もうすぐ。もうすぐだから。


「さてと」


 泣いてしまいそうになるのを我慢することに成功して、携帯を顎に押し当て思案する。


「何考えてるのかなー?」


 多分今のわたし悪党顔になっているのだろう。ちょっぴり怯えたような九重先生に苦笑を返す。企んでいる自覚はあるのだから当然だ。でもやっと、やっとゴールが見えてきたんだから。


「色々です。わたしも、わたしができることしないと」


     *+*


 いつものように奥のソファで本を読んでいた諌山先生を見つけるなり深々と頭を下げる。


「すみません諌山先生!! 明日お休みを下さいっ」


 明日の金曜日はいよいよ衛藤氏の誕生日なのだ。まさに決戦は……というわけだ。諌山先生は片手で眼鏡のフレームを上げるようにして、肩をすくめた。


「いいけど。なに」


「色々決着、つけてきます」


「……ふうん」


 いつも通りの何の感情も籠もらない、簡単な返答。諌山先生は周りのことなんかどうでもいいと思っているような感じがする。まるで薄布を一枚隔てた別な世界に生きているみたいに。それが少し寂しい。シャットアウトされてるみたいで。そのスタンスはとても作品とはあっていると思うのだけれど、時々すごく困らせたり怒らせたりしてみたくなる。


 勿論、やらないけど。


 何でも知っているのにこれだけ浮世離れして見えるのも不思議な気がした。いや。何でも知っているからかな。まるで仙人みたいだ。


 そこではたと閃く。


「あのー、先生? えーと、普通兄妹って結婚できませんよね?」


 何の脈絡もなく放り投げたわたしの問いに、先生が目線をあげる。


「それは血の繋がった実の兄妹ってこと?」


「えーと、血は繋がってないんですけど」


「義理同士? なら可能、かな」


「いえっ、戸籍上は実の兄妹です。腹違いの」


「じゃあ無理だね。法律でそれは認められていない」


 あっさり言われて肩を落とす。やっぱりそうかー。そうだよね。あっさり結婚できるならこんなに世間に禁断の恋で泣いたりするドラマや小説が溢れているはずがない。しちゃ駄目だからできないようになっている。


 まあ、真理だ。


「……妻が夫以外の男との間に子を生んだときは、夫の子として届け出ていても、真実夫の子でないと思われるとき、夫は自分の子でないということを主張する「嫡出子否認」の訴訟を起こすことはできる」


「ほ、ホントですかっ!?」


「でもこの訴訟を起こすのは夫だけに限られているうえ、子どもが生まれたことを知ってから一年以内にしなければ駄目なんじゃなかったかな」


「子供が生まれて一年以内―っ!?」


 がっくりと肩を落とす。じゃあ全然駄目だ。


「えーと、本当のお父さんに認知してもらう、とか、駄目ですか」


「僕は法律の専門家じゃないからよくわからないけど、認知っていうのは法律上内縁関係にある親子関係を法律上の親子関係にするために行うもので、戸籍上実父になっている人がいる場合にも適用されるのかどうかはわからないな」


「そうですか」


「前から思ってたんだけど、僕は君のカウンセラーじゃないんだけど」


「カウンセラーだなんて思ってませんよ」


 確かになんだかやたらと、背中を押してもらったり、ぐちゃぐちゃになってる頭の中をすっきりさせてもらっている気はするけど、って、それはやっぱりカウンセラーなのか?


「すごいですよね。諌山先生って」


「急になに」


 諌山先生は少し首を傾げるようにして不審そうな顔をする。


「何でも知ってるし、わかってるし、言葉の重みが全然違う」


 便利屋でもないよ、と呟いて、先生の顔になる。


「少しは自分でも調べたら? 人に聞いたことは身にならない」


 それとも近親相姦モノを書けってこと? と嫌そうにため息をつく。


「いいですね!! 諌山先生の禁断モノも読んでみたいかも」


「冗談だよ。書かないって言っただろう?」


 冗談でも、いい兆候だ。内心にんまりする。前なら冗談でもそんなこと言わなかった。


「でも賭けに負けたら何でもわたしの言うこと聞いてくれるんですよね」


 そしたらわたしの願いはただ一つだ。作家諌山望海の復活。これしかない。


「一つだよ」


「充分です」


「負けたら君は下僕」


 うっ。


「わかってます!!」


 にやっと笑って、心なしかたじろいだ先生の顔を覗き込む。


「新作の準備、しておいてくださいね」


「そうやって油断してると足元掬われるよ」


 そんな風に意地悪いうけど、さすがにだんだんそれが先生流の優しさだってこともわかってきた。


「気を引き締めろってことですよね。ありがとうございます!!」


 返ってくるのは呆れたようなため息。


「そんなこと言ってない」


「ホント、先生って咲紀ちゃんが来ると楽しそうですよね」


 のんびりとそんなことをいいながら、未来さんがお茶を持ってきてくれる。


「別に楽しくない」


 諌山先生は心から嫌そうな顔をして、未来さんからお茶を受けとった。


 そんなはっきり言わなくても。ちょっとショックだ。せっかく少し近づけたと思ってたのに。


「それは先生が気づいてないふりしてるだけなんじゃないですか。その本、昨日もう読んでしまったものなのに」


「……これは、確認したいところがあったから」


「へええー?」


 諌山先生と未来さんが並ぶと、まるで一対の絵のようだ。美男美女でお似合い。そういえばこの二人どんな関係なんだろう。聞いたことなかったけど。ただの雇用関係、というにはなかなかに親密だ。


「あのー。すみません。ずっとお聞きしたかったんですけど、お二人はどういう関係なんですか?」


 問いかけると、未来さんが〝あらあ〟と面白そうな顔をしてにっこりと微笑んだ。


「どういう関係に見える?」


「こ、恋人、とか?」


 ぐほ、という音が聞こえてそちらを見ると、先生がお茶にむせているところだった。時々先生は変な人だ。


「わたしと、先生が?」


 未来さんがその綺麗な指先を唇にあてて、くすくすと笑う。


「そう。そう見えるの。……じゃあそういうことにしましょうか? 先生?」


「……冗談はやめろ」


「あら。ずいぶんね」


 え? なに? どういうこと?


 はてながいっぱい浮かんでるであろうわたしに、未来さんは悪戯っぽい表情を浮かべる。


「わたし、先生の義理の姉なんです」


「ぎりのあね」


 突然のことで変換できない。


 えっとー?


「僕の兄の奥さん」


「え、諌山先生お兄さんいらっしゃるんですかーっ!!」


 突っ込むところはそこか、という冷ややかな目でみられる。


「何か僕に兄がいたらまずい理由でも?」


「いや、ないですけど」


 こんな綺麗な人がもう一人いるのかー。すごいなー。贅沢だなー。とは思った。すごい。お会いしてみたい。


「何考えてるか知らないけど、僕は兄と似てるといわれたことはないよ」


 まるでわたしの思考を読んだように先生がそういって、未来さんがその隣りで深く頷く。


「そうね。叶さんの方がもっと背が高くてカッコよくて眼光が鋭くて男らしいかしら」


「はいはい」


 ノロケには慣れているのか諌山先生は未来さんの言葉を軽く流す。そうか。お兄さんはかなうさんって言うんだ。二人揃うと希【のぞみ】が叶【かなう】のか。いい名前。


「でも、義理のお姉さんが、助手?」


「助手が先なのよ。諌山先生の助手になって、それから先生のお兄さんと知り合って結婚したの。だから宇藤は旧姓で、ホントは諌山未来です」


 うわー。なんだか素敵だ。ロマンスな感じだ。じっくりゆっくり聞きたい。


「今度ゆっくり聞かせてくれますか?」


「もちろん。大歓迎よ」


「か……」


 わのべさん、と呼びかけようとしたんだろうか。先生の言葉を露骨に遮って、未来さんがわたしに机の上においてあったお茶を差し出す。


「はい。どうぞ」


「わ。いい香り」


「ラヴィアンローズっていうの」


 薔薇色の人生。


「素敵な名前」


「なんだか大変そうだけど頑張ってね」


「……はいっ」





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