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駅員さんの恋  作者: 高藤みずき
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【11】「会いたい」 3



「……嘘、ですよね」


 返事を聞く前に信号が青に変わる。車はゆっくりと滑り出し、わたしの家とは違う方向に走り出す。


「待って下さい。こんなの……」


「往生際が悪いよ? もう随分待ってあげたのに」


 さあっと血が引いてゆく感じがした。これは本気だ。ぐっと膝に置いたバッグを掴む手に力が籠る。その固い横顔を食い入るように見つめた。いつもより血色の悪いその顔には目の下にうっすら隈もみえる。多分九重先生は色々悩んで、そして、一番最悪の逃げに走ったんだ。


 ——そう仕向けたのはわたしだけど。


「そもそもこのゲームは、わたしが九重先生を選ぶかどうかだったんじゃないんですか?」


「そうだよ。そして君は選んだ。愛する人を守るために」


 そう。わたしは選んだ。でも。


「駅員さんのクビを回避するのを条件に、です。でも、あれが九重先生の指示によるものでないのなら、あれは無効です」


 九重先生が急ブレーキを踏む。……赤信号。九重先生はびっくりしたようにわたしを見やった。


「な、ん?」


「千晶さんに確認しました。確かに九重先生も動いて下さったようですけど、ちょっと遅かったみたいですね。それよりも先に千晶さんが衛藤氏に頼んで駅員さんの処罰を止めたそうです。衛藤さんってあの沿線の大株主だったんですね。知りませんでした。——ゲームは九重先生の負けです。真哉さんは絶対クビになんかさせません」


「へえ。そのためなら自分の好きな男が別な女と結婚してもいいんだ?」


「……」


「でももう遅い。……最悪な気分なんだ。八つ当たりくらいさせてよ」


 気がつけば車はどこかのマンションの駐車場に入っていて、エンジンを止めた九重先生はわたしを引きずるようにして車から降ろし、奥の住人専用エレベーターまで連れてゆく。掴まれているのが怪我をしていないほうの腕なのが不幸中の幸いか。


「やめて下さい九重先生。こんなの何にもならないじゃないですか」


「なるよ」


 痛いくらいの力でわたしの二の腕を掴んだまま、見たこともないような冷たい目でわたしを見下ろす。


「少なくともオレの気がすむ」


「すむわけないじゃないですかっ」


 必死に身を捩りながら、九重先生を睨む。


「こんなの、先生の傷が余計に大きくなるだけです!!」


 チン、と音がなってエレベーターの扉が開く。乱暴に放られ、エレベーターの壁に縋りついたときにはもう二人を乗せた箱は上昇を開始していた。


 怖い。でも。ひるむな。


「君は何も知らない」


「知りません。でも千晶さんのことは……少し聞きました」


 九重先生を取り巻く空気がぴしりと凍りついた気がした。ヤバいところに踏み込もうとしていることはわかる。でももう引き返せない。


「うん。それで?」


「九重先生が試すのはそのことがあったから、なんでしょう?」


 自分の父親と結婚しながら裏切っていた義母。それを苦に自殺した父親。それが九重先生にどれほどの傷をもたらしたかなんてわたしには想像もできないけど。


「だから咲紀ちゃんは何もわかっちゃいない」


 扉が開いて再びわたしの腕を掴んで歩き出す。このままじゃ。このままじゃ、まずい。声を上げかけたわたしの口を片手で封じて、片手で抱きかかえるようにして連れてゆかれる。その手が離れたのはわたしが一番奥の部屋に連れ込まれて、鍵とチェーンロックがかかる音を聞いてからだった。


「覚悟はいいかな」


 いいわけあるかーッ!! ソファを挟んで、なるべく距離をとって、九重先生を睨みつける。九重先生はこれぞ悪役といった顔でにやりと笑った。


「意外と往生際が悪いんだね。咲紀ちゃん?」


「だって、負けじゃないし」


「ここに来た時点で負けじゃない?」


 もっと言えば車に乗った時点で負けだよね? と続く。わたしは逃げ道を探すようにきょろ、とあたりを見回した。


「ここ、先生の家なんですか?」


「そうだよ。何か飲む?」


「結構です」


 必要最低限のものしかないがらんとした部屋はなんとなく九重先生そのもののように見えた。間接照明だけの灯り。使われてないキッチン。シンプルなソファとローテーブル。まるでどこかのショールームをそのままもってきたみたいな、綺麗だけど何もない部屋。


「じゃあシャワー浴びる? 今すぐはじめてもいいけど」


「どっちもお断りです」


 大体ね。表情と言葉が合ってないんだ。町娘を手篭めにしようとする悪代官みたいなこと言ってるくせに、その町娘みたいな顔をしているのは何でよ。わたしの腕に伸びてきた手を渾身の力を込めて振り払う。


「駄目です!!」


「だから、前にも言わなかったっけ? かえってそうされるほうが燃える」


 更に近づこうとする九重先生から逃れるように再び距離をとる。多分九重先生がその気になれば、わたしなんか簡単に組み伏せられる。今この瞬間にも。でもそうさせちゃ駄目なんだ。わたしを抱けばこの人はまた更に闇へと沈み込む。そのためにあえて車に乗った。その闇から引きずり出すために。


「千晶さんのお姉さんを抱きながら、九重先生が本当に抱いていた人は誰ですか」


 九重先生の動きが凍りついたように停止した。これは賭けだった。この言葉がかえって火に油を注いでしまうのか、それとも燻った熱に水をかけるのか。どちらに転ぶか。


「答えて下さい」


「咲紀、ちゃん?」


「答えられないんですか?」


 返事はない。わたしは覚悟を決めるように深呼吸した。


「じゃあ、かわりにわたしが答えます。最初は多分、義理のお母さんなのかなって思ったんですけど、でも本当は、千晶さん、ですよね」


「まさか。……千晶は妹なのに?」


「戸籍上の、です」


 もっとちゃんと、上手に否定してみせるなら、今の言葉は少し早かったです。九重先生。明らかに動揺した様子の九重先生に、わたしはまずは第一段階をクリアしたことを確信する。


「九重先生が本当に欲しい人は誰なんですか」


 一瞬だけ、九重先生の顔がくしゃりと歪んだ。


「そんな人はいない」


「嘘、です」


「嘘じゃない」


 言葉に苦いものが混じる。それだけで嘘だって言ってるようなものなのに。それがわからない九重先生じゃないのに。


「こんなゲームをしてるのは、本当に欲しいものが手に入らないからなんでしょう」


 これがわたしが千晶さんから聞いた話を元に出した答え。


「九重先生が好きな人は千晶さんですよね」


 両想いなのに。ため息をついて、九重先生はソファに倒れこむように座った。片手で顔を覆い、必死に何かを堪えているようにも見える。わたしは何も言わず動かずに九重先生の言葉を待つ。


 そして、やがて小さな声が聞こえた。


「千晶はなんて言ってた」


「……九重先生のことが、好きだって」


 真っ直ぐ揺るぎない目だった。戸籍上千晶さんは九重先生のお父さんの実子だから、九重先生とは兄妹になってしまう。でもそんなことはなんの障害にも思っていない強い眼差し。なのに、必死に諦めようとしてた。過去の、わたしみたいに。


「だから、こんなこともうやめたほうがいいです」


「……あー、もう」


 乱暴に髪をかきあげて、その場に座り込む。ちらりとわたしを見上げる九重先生はいつもと変わらないようだけれど、明らかに違う顔だ。


「咲紀ちゃん、何でそんなに真っ直ぐなの? 唯史の教育の賜物?」


「わたし別に唯史ちゃんに育てられてません」


「それはどうかなあ。咲紀ちゃんの半分くらいは唯史で作られてるんじゃないの?」


 そんなどこぞの薬みたいなことを。確かに中学校くらいまでは唯史ちゃん一色だったことは否定できないけど。


「ねー、咲紀ちゃんの初めてって唯史?」


「はあ?」


 何だ? いきなり。わたしは肩をすくめた。


「見ればわかるんじゃなかったんですか? そんなはずあるわけないじゃないですか。もしそうなら先日先生が言った通り、わたしは今ごろ他の人と付き合うこともなく、唯史ちゃんと付き合ってますよ」


 あの環境でわたしに手を出すとしたら、相当な覚悟が必要なはずだから。そしてそういう関係になったわたしを捨てるほど唯史ちゃんは行き当たりばったりな人でもなければ、無責任な人でもない。


「あー、そうだよねー」


 そうだそうだ、と自嘲的に頷いている。話の流れがさっぱりわからないんですけど。今の九重先生は支離滅裂だ。


「その人のこと今はどー思ってるの?」


 その人って……?


「咲紀ちゃんの初めての人」


 セクハラじゃないのこれ、と思いつつも、わたしもかなり遠慮なく踏み込んだ負い目もあって素直に答えることにする。セクハラできるほどの余裕は今の九重先生にはない。


「いや、別に……。時々ふっと思い出すこともありますけど、元気なのかなってくらいで、」


 別れはとくに理由もなく自然消滅だ。特にケンカしたわけでもないし、嫌いになって別れたわけでもない。ただ唯史ちゃんを忘れるため、って部分が大きかった気がするからちょっと罪悪感はあった。


「そんなもの?」


「……人によると思いますけど」


 だからなんでこんな話をしてるわけ!? 途方に暮れているわたしになおも奇妙な質問は続く。


「好きだったんじゃないの?」


「嫌いじゃなかったと思いますけど」


 お互い慣れてなかった分、痛いばかりで相手が望むほどにはやりたくなかった。その辺にも多分続かなかった理由もあったんだろうけど。多分、快楽を教えてくれたのは前カレだけど、好きな人と肌を重ねることが本当に幸せで気持ちいいものだということを教えてくれたのは駅員さんだ。


「オレはサイテーなんだ」


 九重先生は自嘲的に笑って、そこに浮かんだ表情を見られるのを拒むかのように再び片手で顔を覆う。


「あいつが、千晶がオレを見るのはそう仕向けたからだ」


 吐き捨てるような、呟き。それは呪いの色を帯びていて、わたしは呆然と立ち尽くした。——これか。先生の闇は。


「それ、本気で言ってます?」


 返事がないのが肯定の代わりだろう。わたしは〝お水貰いますね〟とキッチンで勝手に冷蔵庫をあけて、グラスにミネラルウォーターを注いでそのまま先生のいるソファに戻って、それをざぱっと九重先生の頭にかけた。水道水でもよかったか。でもこっちのほうが、多分冷たい。煮えた頭を冷やすにはこっちだろう。


「なっ、さ、咲紀、ちゃん?」


 あまりのことに口も利けない状態になっている九重先生を思いっきり冷たく見下ろしてやった。


「そういうの、自信過剰っていうんですよ」


 ムカムカする。


「確かに九重先生は歯医者さんだし、お金も持ってて、顔もいいし、性格も、まあそこそこで、女の子の扱いはスマートだし、一般的にはとってももてるんでしょうけど」


 そこそこ、と苦笑気味に先生が呟く。そこ強調はもちろんわざとだ。正直者だからな。わたし。駅員さん、唯史ちゃんに比べれば九重先生はわたしにとってそこそこだ。そこそこ以下だ。


「女の子が全部が全部、そういうので好きになると思ったら大間違いですよ」


「でも咲紀ちゃんだって最初好きになったのは唯史だろ? さっきも言ってたじゃない。初めてが唯史だったら今も付き合ってるって。それって刷り込みなんじゃないの? 違うって気がついたから今違う人と付き合ってるんじゃないの?」


 一息で言ったその言葉を、わたしは黙って聞いた。そうだ、という肯定の答えと、違う、という否定の答え。彼は果たしてどちらをより多く望んでいるのか。でも、嘘は言えない。心は偽れない。


「刷り込みが絶対ないとは言えませんけど……。唯史ちゃんだから好きになったんだっていうのは確かですよ。わたしだって子どもじゃないから今まで色んな人を見てきましたけど、従妹の欲目を引いても唯史ちゃんは最高にイイ男だと思います。そりゃあもうダントツに」


 駅員さんは既にわたしの中では別格だ。そういう意味では多分唯史ちゃんも別格なのかもしれない。きっぱりと言い切ったわたしに、九重先生は髪をかきあげながらそうだね、と応えた。わたしだって多分まだ道の途中で、確かな答えなんか持ってるわけじゃない。


 でも。


「でも最近、お互い恋をするタイミングが合わなきゃうまくいかないんじゃないのかなって思うんです。どんなに好きだったとしても」


 本当の好きなら諦めなかったんじゃないか、っていう問いはずっと自分にし続けてきた。だけど、あまりに長く唯史ちゃんから妹扱いされ続けて、トドメのようにお似合いの恋人を紹介されたら……心だってちょっとずつ調整を始めるものだ。固定前のピアスホールみたいに、塞がってゆく。


 そうしてわたしは……駅員さんに出会った。出逢わなかったら、いまだに唯史ちゃんへの想いをかすかに引きずっていたかもしれない。でもそれだって仮定でしかない。ひょっとしたら全然別の人と出会って幸せになる未来だってあったかもしれない。


「タイミング、か」


「恋愛は二人でするものですよ」


 一瞬その言葉は自分の胸もちくりと刺した。


「仕向けられただけで女の子はその人を好きになりません。無理矢理ならなおさらです。っていうか、普通逆効果ですよね? 人の心ってそんな簡単じゃないです。……そんなこと、九重先生が一番わかってるんじゃないですか」


 いいながら、九重先生は彼女を欲しいと思う気持ちとせめぎあって、わざと嫌われようとしたのかな、とか思った。九重先生ならそれくらいしそうだ。こんな迷惑なゲームやってまで自分の想いを傷つけ続けるくらいなんだから。マゾですか。


「それでも九重先生を好きだっていう千晶さんの気持ちをなんで疑うんです? そんなのただの遠回りな誤魔化しですよ」


「親父が自殺した日、親父は浴びるように酒を飲んでて、学校から帰ってきたオレを見るなり縋りついてみっともなく義母さんと千晶のことをぶちまけてきた。オレはそれを聞いてどう思ったと思う?」


「……わかり、ません」


「こいつが再婚なんかしなければ、オレは千晶と」


 初めて見る、九重先生の悪意のある表情。でも次の瞬間には後悔に彩られる。まるで懺悔する囚人のようだと思った。


「そしたら、千晶さんとは出会えなかったかもしれませんよ」


「いいんだ。それなら、こんな風に苦しむこともなかったわけだから」


 まるで〝酸っぱい葡萄〟だ。手の届かないあれはきっと不味いと思い込む。九重先生は頭から流れ落ちる水を拭いもせずに、項垂れた。そして長い長い沈黙の後、深いため息をついて再び口を開く。


「堪えられなくなったオレは親父を突き飛ばして逃げた。明け方までうろうろして、帰ったら親父が自殺して病院に運ばれたって聞いて……」


 聞く者を闇に引きずり込むような声だ。すべての慰めを拒むそれ。


「オレのせいだよ。オレは言葉じゃなくて目で親父を蔑んだ。その存在を否定した。多分それがわかったんだ」


「そんな……」


 何か言いかけて、かける言葉が結局見つからなくて、わたしはバッグからタオルを取り出して、九重先生の頭に乗せて片手で濡れているそれをがしがしと拭いた。タオルで九重先生の表情も見えなくなる。


「……でも、お父さんは自殺なんかしちゃダメだったんです」


「オレが背中を押した。死ななかったかもしれないのに」


「どんな理由があったって、大切な人を置いて死ぬのは無責任です」


 一度きりの人生なんだから。幸せにならなきゃ損だ。たとえ今どんなに辛くても。


「やっぱ、強いな。咲紀ちゃんは」


 その言葉を受けて、思わず拭いてた手を止めて手刀にして九重先生の頭に落とす。


「ってえ、」


 頭を押さえて、さっき水をかけたときよりもびっくりしたようにわたしを見つめる。


 ああもう。耐えられない。


「強いわけ、ないじゃないですか!! 強いフリしてるだけです。だって周りに弱さひけらかして何かいいことあります?」


 ないね、と答えが返る。


「人は弱いの普通なんです。でも大人になったらちゃんと生きていかなきゃいけないと思うから強いフリして、平気なフリして頑張ってるんじゃないですか」


「そう言いきれるのが強さじゃないの?」


「ホントに強い人はこんなに主張しないと思います」


 わたしは言葉にしてわざと自分に言い聞かせてるのだ。自分が弱いことは知ってる。切り替えは遅いし、凹みやすいし。でもずっとそうしてても仕方がないから無理矢理切り替えてるだけ。前を向こうとするだけ。ただ弱いことを振りかざして泣き叫んで甘やかしてもらえるのは子供だけだ。


「だいたい九重先生は弱音言う相手間違ってるんですよ」


「間違ってる?」


「わたしには先生を甘やかす理由はないですからね」


 きっぱりと告げると、九重先生は何かが抜けたようにふっと笑った。


「不毛な恋だと思わない?」


「恋に不毛とか関係あります?」


「アンハッピーエンド間違いなしなのに」


 更に落ちてゆきたいんだろうか。この人は。だんだん面倒臭くなってきて、九重先生の前にしゃがみ込み、ソファに頬杖をつく。慰めるのやめていっそ突き落としたくなってしまうけど、今のわたしは駅員さんを人質に取られてるも同然だし。


「結婚だけが幸せな結末ですか? だったら世の中に離婚する人はいないはずですよね」


「でも咲紀ちゃんは彼と結婚したいでしょう?」


 結婚、か。……どうなんだろ。付き合い始めたばかりだし、具体的にそのことを考えたことがなかった。ずっと一緒にいられたら幸だろうなあ、とは思うけど。


「一緒にいるだけなら結婚しなくても可能ですよね。でもそれ以上の関係をわたしが求めるとしたら、大切な人に何かあったとき自分に最初に連絡が来ないのはイヤだからだと思います」


 そういう意味では、九重先生に何かあれば千晶さんに連絡は行く、んだろう、多分。


「祝福されないよ」


「恋愛なんて所詮はエゴなんだからいいじゃないですか。幸せになったもん勝ちです」


「簡単に言うなあ」


 へらり、と力ないその笑顔に、ぷちっ、と心のどこかが切れる。


「いちいちごちゃごちゃ考えすぎなんですよっ! そんなことは千晶さんと幸せになってから二人で考えればいいことですっ! 九重先生がいつまでもそうだと周りが迷惑なんですよっ」


「……迷惑……」


「迷惑ですよ。わたし、早く駅員さんに会いたいんですから」


 会いたい。そして触れたい。声が聞きたい。欠乏症通り越して、これはもはや中毒だ。じろりとわたしが九重先生を睨むにいたって、先生は肩をすくめて〝なるほど確かにエゴだね〟と呟いた。


「咲紀ちゃんの言葉を聞いていると自分の悩んでたことはそんな簡単なことだったのかって思うね」


「あ、それはわたしも思いました。諌山先生に一刀両断にされて。……悩みすぎると余計なことを考えすぎて視界が狭まって道を見失っちゃうんですね。自分のことって案外自分が一番わかってないのかもしれません」


「かもね」


「ということで」


 すっくと立ち上がって、わたしは先生に右手を開いて差し出した。


「返して下さい。わたしの携帯。そして先生は今すぐ千晶さんに電話して好きだって言ってあげて下さい」


 ゲームオーバーのホイッスルが高らかに鳴り響く音が聞こえた気がした。



「ゲームは先生の負けです」




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