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駅員さんの恋  作者: 高藤みずき
37/56

【10】「さよなら」 3

   


 目の前には失礼にも机に顔を突っ伏したまま小刻みに肩を震わせている諌山先生の姿があった。勿論ここは諌山先生の講師室で、ここまでわたしを送り届けたのは九重先生だ。ぬかりなく帰りにまた迎えにくるといってわたしを置いて去っていった。


 そして諌山先生はまだ笑い続けている。ヒドくないですか。


 しかもこの人は包帯に包まれたわたしの手首と顔の半分を覆ってるガーゼを見ていきなり噴き出したのだ。コレの何がツボなのよ!? ……いや、確かに笑えるかも。見えないところも包帯の巻かれていない足も軒並み変な色になっている。満身創痍を絵に描いたみたいだ。ドラマ以外ではあんまり見ないかもしれない。——冷ややかに睨まれるよりは笑われた方がいいよね。そう思おう。


「センセ。咲紀さんは被害者ですよ。そんなに笑っちゃ可哀想です」


 そう言いながらもわたしの目の前にココアを置いた未来さんも相当楽しそうだ。


「い、いいんですっ。これが先生の作品に繋がるならっ」


 すると、諌山先生は今さっきまで笑っていたのが嘘みたいな顔で、きっぱりと言い放つ。


「何言ってるの? 書かないよ。落ちた状況を聞いたのは単に面白かったからだから」


「えええっ」


 そ、それは笑われ損なのではっ。がっかりしているわたしを見ながら、未来さんはちょっと気の毒そうな顔をした。


「でも災難だったわねえ。例の噂の駅員さんって、咲紀さんの利用してる駅の人だったのね」


「例の噂って何」


 あからさまに世間の話題に疎いことを露呈した諌山先生のご発言。さすがの未来さんも呆れたような顔をする。


「先生年末に行かれたでしょう? 藤間樹のコンサート」


「ああ、……」


 あれか、と少し下がった眼鏡を片手で上げる。


「あれでもう一人ヴァイオリニストがいたじゃないですか。先生が〝まあまあ〟って仰ってた」


 まあまあって何だ! ……いや、そこではなく。


「ええっ。先生あれ聞きに行ってたんですかっ!? いいなあっ、羨ましいです!」


「良くないよ。僕は本当は最初に降りたヴァイオリニスト目当てでチケットを買ったんだから」


 それはあれか。藤間樹とケンカして辞めたとかいう、例の。思わず二の句が繋げなくなって固まる。


「でもまあ、思ったよりは悪くなかった。……駅員が本職なの?」


 諌山先生に問われて、未来さんが頷いた。


「みたいですよ」


「だからか。……音が甘い」


「それ、どういうことですかっ」


 思わず立ち上がって先生を見つめる。先生は一瞬驚いたように少しだけ目を瞠った。


「そのままの意味だよ。悪くなかったけど、音に何かが欠けていた。純粋な音楽家じゃないのなら、なるほどな、と思ったんだ」


「そんな」


「だいたいどうしてそれで君がショックを受けるのかわからないな。知り合いなの? その駅員と」


 う。しまった。答えられないことでひっかかってしまった。かといってうまくかわすこともできずに、わたしはすとんと再びソファに腰を下ろした。やがて、ずっとわたしの返答を待っているらしい先生の気配を感じてぽつりと返す。


「……そう、です」


「ふーん」


 そのあとに続きそうな言葉は待てど暮らせどやってこない。


 え、それだけ!?


「聞かないんですか?」


「なにを?」


 なにをって、……何をだろう。どういう関係、とか? いやいや、そんなの諌山先生には関係ないよね。それに今のわたしには駅員さんと恋人同士だと言う資格がない。


「何かいいたいのは君のほうなんじゃないの?」


「どう、して」


 さあね、ってため息をついて、諌山先生は綺麗に足を組んで目の前に置いてあった本を開いて視線を落とした。なんのつもりだろう。


「先生?」


「言ってみれば? 少しでも勉強順位が上がるなら」


 びっくりして、わたしは傍らに立っていた未来さんを見上げた。


「……ごゆっくり」


 モナリザみたいな笑みを残して未来さんが部屋を出てゆく。カチコチ、とどこかから時計の音が聞こえてくる。——話してみようか。迷ったままココアの入ったカップを口にして、目を閉じた。


 うん。


「……聞いてください」


 ありがちに、〝これは友達の話なんですが〟と言い置いて、わたしはかいつまんで現状を話した。できるだけ客観的に。話終えた後、ものすごく長い沈黙があった。ひょっとして先生はわたしの話を聞かずにずっと本を読んでいたんじゃ、ってくらいの長い沈黙。


 やがて、呆れたような目をして——実際とても呆れていたのだと思うけど——、諌山先生は顔を上げてわたしの話をとても簡潔に纏めて下さった。


「つまり、その友達は彼がしでかしたミスのために好きでもない男と付き合うことにしたの?」


 そう言われると身も蓋もないな。


「でもそれで彼を救えるんですよ?」


「君は頭が悪いんじゃないの」


 ああ、君じゃなくてそのお友達か、とわざわざ律儀に訂正する。


「どうして、ですか」


「相手の気持ちは考慮しないわけ」


「……ッ」


「なんでその人はそうまでして〝駅員〟でなければいけないの? それともその人は彼女よりも駅員であることのほうが大切だと言ったわけ? 辞めさせないで欲しいと懇願された? だったらそんな男とは付き合わない方がいいと言ってあげた方がいいね」


「そんなこと……言ってないし、懇願もされてません」


「じゃあそのお友達が彼は駅員でなければ価値がないと思ってるの」


「違い、ます」


 諌山先生は退屈そうに小さく欠伸をかみ殺した。


「最初から方程式が間違えている感じだね。彼は簡単な足し算なのに、彼女は勝手に掛け算や割り算をしている……いや、そもそも問題が違うのかな」


 地面がぐらりと傾いだ気がした。


 なにこれ。これってそんな簡単な話だった? ——でも。でも駅員さんであることは駅員さんの夢で。それを守る方法があるなら選ばなきゃ嘘じゃないの?


 それをそのまま告げると、先生はもうこの話には興味がないといった風に再び読みかけの本に手を伸ばした。


「夢は生かすも殺すも本人の気持ちと努力次第で、人に守ってもらうものじゃない」


「え」


「そこで終わってしまうならそれだけの夢だったってことだよ」


「先生の、作品も?」


 不意にそんな疑問が浮かんだわたしに、先生は眉をひそめた。


「今、その話だった?」


「違います、けど」


 自分に書く気があるなら出版社なんか関係ないって聞こえたんだ。


「僕の話はいいよ」


 素っ気なく言い放ち、先生は本を開いて視線を落とした。


「……僕はカウンセラーじゃない。次は普通の授業をさせてもらいたいな。今日はもう時間だから終わり」


「はいっ」


 君はいつも返事ばかりいいよね、という言葉は聞かなかったことにして、わたしは先生に深々と頭を下げると、荷物を掴んで未来さんへの挨拶もそこそこに部屋を出た。


 門を出るとすぐ、九重先生が車の中でわたしを待っているのが見えた。わたしが勝手に空回りしてるのだとしても、話の筋は通さないと駄目だ。そして、何とか駅員さんに連絡をして……。編集長から聞いているとは思うけど、自分の口から大丈夫だと伝えたい。


 でも、どうやって?


「お疲れさま」


「九重先生こそ、監視、お疲れ様です」


「イヤイヤ。可愛い子の送り迎えなら苦にはならないよ。全然」


 嫌味もあっさり受け流して、胡散臭いほど爽やかに笑う。


「そうですか」


 内側から助手席のドアが開いて、乗り込んだ。


「何かいいことあった?」


「え?」


「来る前とは別人だけど」


 思わず顔に手をやって、誤魔化すように咳払いする。


「気のせいです」


「そう?」


「憧れの先生だから、テンション上がるの当たり前だと思います」


「ふうん。……これからどこか行こうか。食事でもどう?」


「——片手じゃちょっと。顔も痛いし」


 何より二人きりになるのは危険な気がするし。


「食べさせてあげるけど?」


「結構です!!」


 思わず九重先生に食べさせられてる自分を想像してしまい、冗談じゃないと首を振る。この人はきっと嬉々としてやるだろう。


「片手で食べられるもの、何かあったかなあ」


「申し訳ありませんけど食欲がありませんので」


「つれないなあ。仮にも恩人に」


 何が恩人だ!!


「取引、でしょう」


「相手がいてこその取引だよ」


「でももう今日は疲れましたから。……帰りたい、です」


 これは本心だ。昨日安静にしていたせいかやけに身体がだるい。あちこち痛いのは転げ落ちてからずっとだけれど。しかし立場はわたしのほうが下だ。駄目かな、と思ったけど、わたしの答えにあっさりと引いてくれた。


「じゃあ、また今度ね」


 ホッと息をつく。その瞬間九重先生は顔をわたしの首筋に埋めた。


「なっ……」


 身体を起こして至近距離で不敵に笑う。


「シャワー浴びたんだ」


 一瞬息を飲んで、諦めたようにため息をつく。


〝——お風呂に入れるようになるまで〟


 許可が出たわけじゃない。病院ではもう少し我慢するように言われていたけれど、さすがに先生を訪ねるのに身ぎれいにしないのは抵抗があった。


「どうする? オレにする?」


 わたしの鎖骨辺りで遊ぶ指を、耐え切れずに振り払う。


「……唯史にするってことかな」


 思ったよりも体は正直だ。好きでもない人に触られるのがこんなに苦痛だなんて。


「こんなことして、楽しいですか」


「……楽しくはないかな。言っただろう? これはゲームなんだ。そしてオレはずっと勝ち続けてる」


「負けたいのに?」


「内緒」


「おかしいですよ、九重先生」


「……そうかもね」


 うっかり嫌いなのを忘れてしまうほど人懐っこい笑みを向けられて戸惑う。九重先生はわたしから身を離し、エンジンをスタートさせた。着いた先は、唯史ちゃんのマンションだ。


「じゃあ、頑張って」


 そんな言葉に見送られ、車を降りた。しばしわたしが一方的に睨むようにして見つめ合う。


「もし相手を唯史ちゃんにしたとして、そうしたかどうかなんて、嘘言ってもわからないんじゃないですか?」


「そう思う?」


 まるで出来の悪い生徒を見るような視線。わたしはこくりと頷いた。


「意外と本人は気づかないかもしれないけど、空気だとか距離感が明らかに変わるよ」


「そ、なんですか」


「それに、もし咲紀ちゃんとそういうことになったら唯史がそのままにするわけないでしょ。あいつ絶対責任とるよ。とらなくたっていいっていっても力技でとりにいくと思うよ。そういう意味でもバレバレ」


 だから心配しなくても大丈夫、なんて、余計心配になってしまうことを言い置いて去っていってしまう。


 諌山先生の言葉とわたしの決意。ぐるぐると渦巻いて、出口を探して荒れまくってるみたいだった。しばらくその場から動けずにいて、我に返ったのは声をかけられてだった。


「咲紀?」


「た、唯史ちゃんッ」


 スーツ姿なのは学会に行っていたからだろう。仕事着も似合うけどスーツはまた別格だ。


「咲紀も出かけてたの?」


「う、うん。仕事で」


 九重先生の言葉がぐるぐるして、後ろめたいのと恥ずかしいのとでまともに唯史ちゃんの顔が見られない。


「唯史ちゃんこそ早かったね」


「咲紀が心配だからね」


 こつん、と小突かれて、ふわりと包み込まれるように微笑まれる。やだな。どきどきする。初恋っていうのはいつまでも残り続けるものなんだとしみじみ感じる。今どうこうなりたいというわけではなく、多分一生心の中の特別枠なんだろう。そこは、間違えない。


「夕飯、まだだろ? 何が食べたい?」


「えっ。唯史ちゃんが作ってくれるの?」


「当たり前だよ。咲紀のその手じゃ無理だろ」


「あ、そうか。ごめん」


「治ったら作ってもらおうかな」


「勿論。唯史ちゃんの好きなもの何でも作るよ。味の保証はしないけど!」


 勢い込んで言ったわたしに、唯史ちゃんの瞳がわずかに淋しげに揺らぐ。ほんの一瞬だけだ。あとはいつも通りの従兄の顔。


「それは嬉しいけど、彼氏に悪いだろ」


「……」


 駄目だなあ。


 唯史ちゃんを見つめたまま言葉を探す。こんなときに何でもないの装えないほど子供だなんて。


「鍋にでもしようか。せっかく二人なんだしな」


「……うん、賛成」


「帰ろう」


「……うん」


 いつもこうして甘えてしまう。先に歩いてゆく唯史ちゃんの背中を見つめながら、わたしは一つの決意をしていた。




 怪我をしている方はビニールで覆ってテープでぐるぐる巻きにして、水が入らない状態にした。片手で髪を洗うとか、身体を洗うとか、それは想像以上に大変で。バスルームでのわたしはお風呂でのんびりできるどころかもはや戦いだ。少し動いては次、少し動いては次。筋肉痛を訴える利き手に、わたし片手が完治する頃にはこっちの手だけめちゃめちゃ鍛えられちゃうんじゃないのかな、とちょっと心配になった。


「あーもうっ。早く両手使いたーいッ!!」


 あまりの不自由さにだんだん苛々してくる。バスタオルで身体を拭くのも苦行で。これならいっそ普通のスポーツタオルのほうがいいかも、とそれに手を伸ばした瞬間、バランスを崩した。


「ひゃああああっ」


 世にも間抜けな悲鳴をあげて、ものすごい音を立てて尻餅をつく。


「あ、いたあ……ッ」


「どうした咲紀っ!!」


 何の前触れもなくドアが開いて、お互い、固まる。咄嗟にバスタオルで隠したけど、多分間に合わなかった、よね。見られたよね! 落ち着け。落ち着けわたし。唯史ちゃんとは小さいときに一緒にお風呂にも入ったし、一緒に眠るのだってしょっちゅうだった。だから、だから……って、……平気なわけあるもんか……!


 すぐに出て行くと思った唯史ちゃんはなぜかその場を動かず、不思議に思って顔を上げたわたしにそのまま近づいて、瞬間強く抱きしめられた。唯史ちゃんの吐息が首筋にかかる。咄嗟にあげかけた声をぐっと堪えた。


 わたしを支えるその手が意志を持って背中を撫で上げたそのとき、とっさにその肘あたりを掴む。


「……た、唯史、ちゃん?」


「ご、ごめんっ!!」


 我に返った様子で唯史ちゃんが身体を離し、顔を背けて素早く出て行った。


「……咲紀」


 ドアの外から声がする。


「大丈夫、か? 怪我してないか」


 怪我? と思ったけどそもそもどうして今自分がこんな格好でいるのかを思い出す。


「だ、大丈夫。ちょっとコケただけ。ごめんね。心配かけて」


「いや? 役得だろ」


「……唯史ちゃんがそんなエロオヤジみたいなこというなんて思わなかった」


 ドアの外はシーンとしていて。わたしはそっとドアを細く開けて外を覗いた。そこには背中を向けた唯史ちゃんが立っていた。


「着替えたのか?」


「ま、まだ」


「出てきちゃ駄目だぞ。……ちょっと無防備過ぎる」


「あ、うん。ごめん」


「危うく智巳の思うつぼだったな」


「え?」


 突然出てきた九重先生の名前にびっくりした。唯史ちゃん、ひょっとしてゲームのこと知ってるんだろうか。


「九重先生が、なに?」


「……せっかく咲紀が同じ屋根の下にいるんだから」


「うん」


「無理矢理でも僕を見るようにしろってさ」


「うわ……鬼畜」


 いかにも九重先生が言いそうなことだ。わたしはため息をついて眉根を寄せた。——そうか、と思った。これは九重先生なりの友情なのか? わたしにリボンかけて唯史ちゃんにプレゼント的な。……イヤイヤそれはちょっと馬鹿にしすぎだよね。わたしのことも、唯史ちゃんのことも。


「悪かった」


「……ん」


「咲紀? 早く着ないと風邪ひくぞ?」


「ん」


 少しだけ考えて、わたしはドアの隙間から腕を伸ばして手探りでそっと唯史ちゃんの服を掴んだ。


「どうした?」


「お願いがあるの」


 危なかった。わたし。本当にもう二度と駅員さんに会えなくなるところだった。


 わたしは深呼吸して、めったにしないお願いを口にした。


「あのね?」


   *+*


「うん。昨日よりはマシな顔かな」


 研究室に入るなりわたしの顔を見た諌山先生が言った。


「おかげ様で、少し、光が見えてきたので」


 諌山先生は相変わらず興味がなさそうに〝ふうん〟と言って、『星の王子様』を手にした。わたしのとは違って当然原書だ。


「先生。『星の王子様』って結局何が言いたいんでしょう」


 これは常々疑問だった。この本には美しい言葉や、ひやりとする言葉、納得させられる言葉がたくさん散りばめられているけれど、どうしても最後だけがわからない。


「君は、数学はいきなり方程式を学ばずに答えだけを聞くタイプ?」


「え、と、……違います」


「その本が真実何がいいたいのかわかるのは作者しかいないよ」


 そんな。


「そしてまたその本から何が得られるかなんてことは、読んだ人にしかわからないことだ」


 屁理屈だ。わたしは思わず笑った。


「先生がそんなことでいいんですか?」


「一般的にどう解釈されているか、ということなら説明できるよ。幸い解析本も山のように出てるしね。でも、君は……君の答えを持っているようにみえる」


 サン=テグジュペリはパイロットだ。そして『星の王子様』にはパイロットが出てくる。


「パイロットは、作者本人、なんでしょうか」


「そういう説もあるね」


「じゃあ、王子様は?」


「これも作者本人だという説もある。若くして亡くなった弟だという説も」


「弟が……そうか。それで……?」


 ならあの切ないラストも腑に落ちる、気がする。


「君はあの話をどう読んだ?」


 いつも通りいきなり聞かれて、〝バカにされないかな〟と恐る恐る口にする。


「恋愛の、話だと思いました」


「うん。そうだね。君の好きなキツネのくだりや、高慢な薔薇の花にまつわるエピソードなんかはそう読める」


 高慢ちきな薔薇の花。次々とわがままをいい、とうとう王子様は花に愛想を尽かして別れたものの、最終的にはあの花は自分にとってかけがえのないただ一つの花だったと気づくのだ。


「政治批判、という説もあるけどね」


 政治批判……。


 そんな話だっただろうか? 物は何でもとりようだなあ、と考える。でも昔読んだときはもっと難解で明るい話のような気がしていたのに、今読むと奥深いのはそのままだったけど、優しくて切ない話だった。


「じゃあそういうことを踏まえて次までにこの本をレポート用紙十枚に要約してきて」


「ええっ」


「イヤなの?」


 次って、明日だよね……。窺うように先生を見ると、コノ勉強は誰のため? みたいな顔をしていた。


 わたしのためです。ごめんなさい!!


「やり、ます」


「うん」


 当然だよね、という言葉が返り、こんなんで本当に先生に原稿を書いてもらえる日が来るのかなあ、とため息をついたのだった。





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