私は一人じゃない
私はひとりじゃない。
近頃、毎日そんな事を自覚している日々である。
朝の時間、いつも私の長い髪を整えてくれる彼女に、なんとなく話題を振る。
「昨日、身体検査があったよね。身長はどれぐらい伸びた?」
「身長? 2センチぐらいかな」
「じゃあ私も2センチぐらい伸びたよ」
「なにそれ」
ふふふと笑いあっていると、どこからかいい匂いが漂ってきた。
「ご飯が出来たみたい」
「そうだね。行こう行こう」
私の髪の毛は、今日も三つ編み。編んでくれた彼女も三つ編み。
毎日のことだけど、お揃いなのがなんだか可笑しくて、微笑みを浮かべてしまう。
ふと横を見ると、彼女もまた同じことを思ったのか、微笑みを浮かべていた。
この部屋の3人目の住民と顔を合わせるまで、私と彼女の二人は、しばらくの間楽しそうに微笑みを向けあった。
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私はひとりじゃない。
学校に着いて直ぐ、私に気付いた皆が話しかけてくる。
主な話題は、アクセサリーとか、髪型とか、そう言った容姿の話。
「今日のヘアピンは黄色なんだ!」
「あ、私も一緒だよ! ほら!」
「あーっ。私も私も!黄色!」
共通点を見つけては、お互い楽しそうに笑い合う。
まるで間違い探しでも楽しんでいるかのよう。
「今日も三つ編みなんだー」
「そりゃあそうでしょー」
「あはは、何を言ってるの? 三つ編みなのは当たり前じゃない」
私の髪を大事そうに触りながら、そんなことを言う。
「ね、ね。次はポニーテールなんてどうかな?」
「え~、ポニーテール~?」
「それはまた何時かにしようかなあ」
今日もクラスメイトは楽しく話し合う。
私達は一緒だ。
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私はひとりじゃない。
帰り道が一緒の人は、結構多い。
一斉に帰ると、最後まで道が狭く感じる。
「ねえ、明日はどんなヘアピンを付けるの?」
「うーん。何色にしようかな」
「青! 青が良いな! 明日水曜日だし」
「青かあ。そう言えば最近は暖色系が多かったかも?」
皆、私と一緒の三つ編みを揺らしながら談笑している。
同じ歩調で、揃った足音で、帰宅路の道を歩んでゆく。
「あ、そういえばさ! 昨日身体検査あったよね、どれぐらい伸びた?」
「そりゃあ2センチでしょ」
「うんうん、私も2センチ」
「去年は163だっけ? 今年で165だったから2センチだね」
「ということは、四捨五入すれば…皆170センチってこと?」
「でも四捨五入だよ?」
そんな感じで笑い合いながら、しかし歩調は揃いつつ。私達は自分の部屋へ向かっていった。
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私はひとりじゃない。
二人目も同じように帰ってくると、同じようなタイミングで三つ編みを解いた。
「いくら四捨五入って言ったって、165と170の差は流石に大きいよね」
「ううん。5センチだけでも、目線が上に行っちゃいそう」
「皆同じ身長だから、目線がずっと水平で楽なんだけどね」
「だよねー」
話題は、さっきの帰宅路中のものの掘り返し。
学校生活の疲れが現れているのか、先程のようなノリの良い会話ではなく、どこか気だるげな会話がされる。
「あ、今日の夕食はなんだろう?」
「献立は全部あの子任せだからなあ」
まあ、あの子も私と同じなのだから、悪いようにはならない筈。
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私はひとりじゃない。
同じ部屋を寝床とする彼女も、また同じ。
学校に集まる皆も、同じ。
皆同じで、皆平等。
髪の色も、身長も、顔の輪郭も、体重も。
転入してくる人も、また同じ。
私たちはひとりじゃないのだ。
あ、そうだ。明日はポニーテールにしてみよう。
私がそう思うということは、きっと皆も、明日は同じようにポニーテールで学校に来るんだろう。
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私はひとりになった。
ホラーにうってつけの夏…まではまだ遠いですが、少しでも恐怖を感じて頂けたのなら幸いです。
それと、書いておいて何ですが、どうもオチが雑なような…。それに、ホラーになってるかどうかすら…。