消音被害2
「(まぁまぁ旦那!怪我人の為にもコイツに構うよりココは早く出ちまおうぜ!)」
「(ぬー…)」
背負った子は怪我をしているようだな。確かにそれは俺より重要だ。
「(でも、アレが上を塞いでる。どうやって出る。ずっと頭上をぴったり付いてくるぞ。)」
「(…アレ?)」
消音虫の説明を二人にする。音を食べる。吸うでもいいか。とにかく、音が消えた原因はそれだし出れない原因もそれ。
「(割れ目の終わりが近いけど、登れる傾斜があるかどうか…)」
「(……クズ、なんかねえか?)」
「(あるよ。魔法はなんでもありだからね。)」
「(!…てめぇーなんぞが魔導師かよ。)」
「(いいじゃないの。ささ、みんな少し寄って。)」
範囲性の魔法だ。今回は一発で多分死ぬ。
「(準備はいい?…気分悪くなったらごめんよ。後上吹雪いてるから寒いよ。あと)」
「(つべこべ言ってねえでさっさとやれよ!!)」
「(はーい。ふぅー……“瞬間移動”)」
多人数を伴うテレポーテーションには莫大な生命エネルギーを消費する。なのでこうなる。
《ブツン》
《ドシャーン》
「イッテェ!」
「この野郎!!もっとまともに着地出来ねえのかよ!!」
「あたたたた…腰打った…」
「…あの黒の……うう…気分が。」
「………………………。」
みなさんお気付きでしょうか?
「あ、音が…」
「!…本当だ、あの虫の範囲外に出たんだ。さっびぃ!!吹雪止んで来てるけどさびいな!」
「あの黒の髪どこ行きやがった!ぶっ殺してやる。」
「……はぁー…旦那、ちょっとタンマ。」
「ああ?」
雪に突っ込んで埋もれる俺を掘り出すライゴウさん。
「生きてるかー。」
「……死んだ。」
「生きてるな。おら、起きろ。」
心配性だなぁ。迷惑極まりない。
「……薬草…」
飛び散った薬草を籠に戻す。飛行の時は薬草自体にも魔法かけたから空中で散らずにすんだ。少し減ってるけどライゴウさんも籠にちゃんと薬草あるし、大丈夫っしょ。
「斧でてめぇの首を飛ばせねえのが惜しいが、殴り殺しても同じことだな…」
背負っていた子を二人に任せて、こっちに歩み寄ってくる。俺は気にして無いのにライゴウさんが慌てだした。
「おいおいおい、落ち着けって!コイツは黒髪だがあんたらが言ってる成れの果てじゃねえって!」
「その保障がどこにあるんだってんだ!」
「なら、成れの果てって決めつけんのもおかしいだろ!」
「ごちゃごちゃうるせえぞ赤いの!さっさとそいつを差し出せってんだよ!じゃねえとお前から殺ってやろうか!」
後ろで背負っていた槍を構えてデカいおじさんの援護に入るアンデルさん。
「お前ら…コイツに助けてもらったんじゃないのか?」
「フンッ!こっちは利用させてもらっただけだ!助けてもらったなんて思ってねえよ!!」
ワァ〜オ!ワイルドだねぇ〜。
ああでも、一つ気になることがあるからそっち済ましてからね。
「…よっと」
テレポーテーションでローニャさんの抱える子の元まで飛んだ。
「!」
「“治癒”」
《フワ…》
怪我の箇所を押さえて、回復魔法をかける。淡い緑の光が指の隙間から漏れる。魔法で大切なのはイメージと思い。こうやりたいこうしたいと思うものをイメージして形にして出す感じ。回復魔法は…まぁイメージというより生命エネルギーを送って自然治癒能力を飛躍的に高めるって方法だね。
「……よし…」
「………今の」
「回復魔法。治癒魔法とも言うかな。」
「………………………ん…」
睫毛が震え、ゆるりゆるりと瞼が上がっていく。
格好からして魔導師か。薄茶の瞳に俺とローニャさんが映り込む。
「大丈夫?体痛くない?」
「…はい……あれ?ココは?……僕落ちて…」
「!!…カラン!」
「!…お父さん」
おう…親子でしたか。あーどことなく似てる…名前。
後、短髪とゆったりした服だから女の子ってわからんかった。よく見たら、女の子だな。何処をとか聞くなよ?
「っ!?クソッ、カランに触れるな!!」
「!…??……あ!」
父親が叫んだ事に驚いて、何故叫んだのかわかんなくて、叫ばれた俺を見るまでコロコロ変わる表情が面白い。
拳を掲げて、血眼で大きな体故に遅いが迫力のある走りで向かってくる。
「待って!ゲラン待って!」
「…なんだローニャ。」
「私、その黒の髪は悪い人じゃないと思うの…。」
「何…?」
「はぁ〜?」
おっと。ついガラの悪い声が出ちまった。
ローニャさんが俺は悪い人じゃないと言ったところにライゴウさんもこちらに走ってきた。
「だって、自分を今殺そうとしてる人の仲間を普通治すかしら…自分の首を絞めるだけなのに。」
「(吹雪が止んできているといっても雪山。寒さで怪我人の生命が危ういと思っただけで、別にそこまで深い意味はない。)」
「さっきだって、殺す気なのをわかってて自分の仲間だけじゃなく私達を助けてくれた。二人を探す私達を手助けしてくれた……殺すって何度言われても、嫌な顔一つせずに。ギルドで酷い事した相手にこれだけ出来る人が…成れの果てなわけないわ!」
「…………。」
うわぁ〜いい人なのが仇となる典型的なパターンだ。妨げはライゴウさんだけじゃないのか。
「僕も……お父さんやみんながいうような人じゃないと思う。この人の魔法…凄い優しいの。誰も傷つけたくないって…。」
おう!ブルータス!お前もか!!
「…おい、ローニャ……絆されたのか?この馬鹿に。」
「アンデル…。」
俺は、優しくもないし…良い奴でもないぞ。
「カラン!騙されるな!!其奴は黒の髪で成れの果てだ!」
「黒の髪に出会ったら殺されるから、殺られる前に殺れって……でも、でも!お父さんに投げられてもさ!こんなに自分を殺そうとしてる相手に囲まれてるのに…彼は、僕達を殺す仕草さえしないんだよ?」
「だが、カラン…」
「はいはいはいはいはい!!ストップストップ!君達、俺の事で争わないでよ。」
そろそろ、大声の出し過ぎでテレポートした意味なくなりそう。その前に殺ってもらわないと。
「俺は、君達に危害を加えるつもりは一切ない。けど、ゲランさんとアンデルさんは俺を殺したい。それを止めたいライゴウさん、ローニャさん、カランさん。」
「お前は黙ってろ!!」
「俺の意見は、ゲランさん達に賛成ってこと。それだけ。不安の種は潰すに限る。」
「「「!!!?」」」
「!?…馬鹿だ……」
「お前…はぁ〜」
ライゴウさん以外は、驚きで目を見開いてしまったが気にせず続ける。
「俺は、もう生きてる意味もない。何にもない。未練も後悔も。だから、君達が殺してくれたら嬉しいな。」
《ボガン》
ライゴウさんに殴られた。痛い。
「馬鹿野郎!!お前はいつもいつもそうやって死にたがりやがって!!胃が痛えよ!」
「だってライゴウさん。俺は死にたい、あっちは殺してたい。利害の一致!」
「クズ!お前はもっと自分を大切にするべきだ!」
そんなこと言われても、困っちゃうよ。
ストレスが爆発したみたいにライゴウさんのマシンガントークが始まってしまった。こりゃあ、聞いてないと何発かもらうな。
「…………死にたがり?」
「……馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、正真正銘の馬鹿だ。ゲラン、どうするよ。殺すか?」
「………………………。」
「お父さん…。」
「……ゲラン、私達の種族は確かに黒の髪に追い詰められて絶滅寸前だったわ。でも、昔の事よ。彼はカランとそう年も変わらない。なのに…なんで自分の死を望んでると思う?」
「…………………。」
「私達みたいな恨みや軽蔑が彼をああしたんじゃないかしら。ずっと、黒の髪だからって蔑まれて恨まれて…でも、彼自身は何もしていない。ココで彼を殺したら、私達の方が黒の髪みたいな愚かな生き物になってしまうわ。」
「……………。」
「ゲラン、彼は違うのよ。だから、殺しちゃいけない。」
「……おい、黒の髪!」
なんだいこっちはライゴウさんの説教で忙しいってのに。てか、ゲランさんに呼ばれた。やっと殺す意見が纏まったのかな?どうかご慈悲をお願いします。
「何ですか?」
「おめえいくつだ。」
「花の17です。」
「……僕より歳下だ…。」
あ、そうなんだ。俺てっきり俺のが上だと思っちゃってた。魔導師は若々しいのかな??
「家族は。」
「みんな、流行り病で死にましたよ。俺以外のみんな…ね。」
アレは酷かった。俺が死ねない体質もあの流行り病でわかった。死屍累々の村になっちゃった。もう地図にはない。
「黒の髪じゃねえってんならお前はなんだ。」
《ガシッ》
いきなり、横から肩を掴まれた。びっくりした。ライゴウさんがイラついたように言い放った。
「こいつは、クズだ。ふざけた名前だろ。でも、成れの果てなんかじゃねえ。死にたがりの魔導師様だよ。こいつはただのクズだ。それ以下でも以上でもない。」
「…ライゴウさん……言ってることめちゃくちゃだよ。」
「うるせえ!」
ライゴウさんは俺に同情なんてしない。それは俺にとってありがたい。けど、やっぱり迷惑な事は多い。
「……?」
吹雪が止んだ…けど、肌を撫で付ける冷たい風がまだ強く吹きつけてくる。のに、音がしない。
ああ…そうか。やっぱり嗅ぎつけられたか。やれやれ、困ったものだな。
不良達のリーゼントがフランスパンになれば世界は平和になる。