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消音被害

俺が前を向いてくれと言った瞬間にライゴウさんがヒドゥンクレバスみたいになってるとこに足を滑らせてしまった。……かっこつけただけでクレバスではない。山の割れ目だ。

手を伸ばしても、届かなかったが…落ちてる最中凄いガリガリしてたし、底の方でドンって音が反響して聞こえてきたので大丈夫だと思いたい。


「…………ハッ!」


今なら、ライゴウさん居ないし好きに死ねるじゃん!!へっ…すまねえなライゴウさんよぉ。俺は素直な男なんでね。


《チラ…》


「!…雪か」


鼻に何か当たったかと思ったら、雪だった。それから、しんし しんしと降り出した。確か、雪山で死ぬと死体は腐らずミイラ化するってどっかで聞いたな。俺もミイラデビューしたいなぁ〜。そんな事を考えてる間にも、雪の量はどんどん増えていく。気温もどんどん下がっていくのを感じた。直立している俺の肩や頭に雪が積もっていく。静かだなぁ。


「………!」


《ザク…ザク…》


足音が聞こえた。雪を踏みしめる音が聞こえる。こんな雪山に俺達以外にも人がいたなんてな。


「!…人だ!」


足音の方から声がした。俺を見つけて誰かに報告している。速足になってこちらへ向かってくる。


「?……」


誰だろうな。普通この雪の中で人がつっ立ってたら少しは警戒しないか?でも、そんなこと言ってる暇ないことを抱えてんのかもしれないし…走って来た人物と向き合った。マジかよ。


「っあんた!」


「黒の…なんでココに」


ギルドで、あのデカいおじさんと居たメンバーだ。おそらく狙撃手だと思われる弓を背負った女性と槍を背負った男性。俺を見るなり、驚愕と嫌悪の表情を隠すことなく向けた。俺は気にせず聞かれた事に答える。


「俺は、依頼でココに来たんだ。貴方達もだろ?」


「………そうだが…あんたココで何つっ立ってんだ?」


「…メンバーの人が割れ目に落っこちてね。」


「!!」


「まぁ、生きてるだろうから俺はどうしようかと考えてたとこさ。」


「この割れ目に落ちても生きてられるの!?」


いきなり、後ろで待機していた女性が前に出てきた。くいつき方的に誰か割れ目にヒューストンだな。ココはなんて言ったらいいんだろうなぁ。


「身体が丈夫だったり、鎧纏ってたりすれば大丈夫っしょ。」


「……本当?」


「おい!ローニャ、其奴の言うこと信じるってのか!?」


「だって、二人が生きてるかもしれない!なら助けに行かなきゃ!!」


二人落ちて片方はデカいおじさんとしてもう一人…若い子がいた気がするけど、その子か?


「………でも…俺達だけで探すのは無理だ。もうすぐ吹雪になる。そうなったら、俺達も野たれ死ぬぞ。」


「それでも……!…ねえ」


「あい?」


俺に目を向ける女性とまさかと目を剥く男性。俺だってまさかと思うが……


「お願いします!私達を助けてください!」


「馬鹿か!こんな奴に頼んな!!よりにもよってこの状況で!」


「この状況だからよ!人手が必要なの…私は二人が助かるならプライドなんて捨てるわ!」


こりゃぁたまげたなぁ!プライドより仲間を取るか。


「いいよー」


「おい!お前も何言ってんだ!!ふざけるなよ!!」


「えー…」


風が強くなってきた。吹雪いてきたなぁ。あー雪女みたいな美女に殺されてぇ〜。


「アンデル!この際黒の髪でも成り果てでもいいでしょ!!」


「よくねえよ!!此奴連れてくなんてどうかしてる!!」


「仲間を見捨てる方がどうかしてる!!」


「やめてぇ〜!二人とも私の為に争わないで〜!!」


「「…………………。」」


少女漫画のヒロインをイメージしてか弱い少女ぶってみたんだけど、二人からの目線は冷め切ったもんだ。


「なんだその目は。俺にはプライドなんて無いから痛くも痒くもねえぞ。」


「……………おい…普通に此奴が黒の髪じゃなくても俺は連れてかねえぞ…」


「あー…でも、居ないよりは……」


「まだ言うか?コレだぜ?」


「一気に俺の扱い雑になったな。」


なんかすげえ呆れられてる雰囲気出てる。


「はいはい、お二人さん喧嘩しないで。俺は黒髪だよ?確かに。でも、ちゃっちゃと決めないと俺達仲良く凍死しちゃうぜ☆!」


三人でミイラデビュー!!世紀に残る間抜けさだねぇ!!


「……………………クソっ、わーっだよ!二人を見つけたらぶっ殺してやる!」


「お、それは期待してるよ。」


「……………………。」


しっっぶしぶ俺を使うのを了承した時には結構な吹雪です。防寒してるとはいえ、寒い……みたいだ二人は。俺?俺は寒いの好きだから平気。


「……さむ…」


「…………………。」


自分の肩を抱いて、ブルブルガタガタ。


「………お前平気なのかよ…」


「え?心配してくれてるの?どうしよう胸がトゥンクトゥンク!」


「ちげえよ!ウッゼェな!!」


「なはは!俺は寒いの嫌いじゃないんだよ。」


「…雪国の出身?」


前方担当の女性が振り向かずに聞いてきた。俺のいたとこはポカポカ陽気ののんびりした国の小さな村。


「いや、エブリデイスプリングの国さ!」


「すぷ、りんぐ?」


あ…そうか、春夏秋冬の単語を知らない地域もあるって聞いたな。気温で判断してたり東西南北で例えたり。


「西の…に……。」


「西って…あ……の?」


「………………。」


ああ、吹雪の風が激しくて会話が出来ないな。自分の声まで聞こえなくなってる。静かだ………静か!?

吹雪ってのは轟々と風の音がうるさいもんなのに…


「………!」


《ゴワンゴワン》


「?」


後方担当の男性に籠を叩かれ…いや、殴られたな。何と聞こうとしたら声が体内で反響しただけ。何も聞こえない。


「(雪?うーん違う違う。)」


「!?…!!」


「……!!…!?」


あー二人がパニックになっちゃった。何か叫んでるけど音が出ない。それにもっとパニックになる。


「(原因はなんだろうな。)」


雪は音を吸うっての聞いたことあるような無いような。

とにかく、二人を落ち着かせよう。でも、声は聞こえない…あ!そうだ!


「(“精神感応(テレパシー)”)」


二人の肩を掴んで、生命エネルギーを流しこみ音響魔法をかける。


「(聞こえますか…?今、あなたの脳内に魔法で直接話しかけています…。いいですか、ここら周辺の音…もしくは俺達の音が消えました…。落ち着いてください。騒いだら体力の消耗に繋がります。)」


「(は?何これ?)」


「(……頭の中に…つか、魔導師?)」


「(何が原因かわかんないけど、パニックになっちゃダメだお〜!)」


「(ムカつく…さむ)」


「(確かに…どんどん吹雪が酷くなってく)」


自然の摂理に反するのは流石に良くない。なので、自然魔法を使って対処しよっか。魔法ってすっげえ種類あるしこれから増えてくだろうな〜。


寒風摩擦(かんぷうまさつ)


「!?(あっちぃ!)」


「!!!(アチチチチ!何々!?今度は何!?)」


寒風に撫でられた箇所が摩擦熱を持つ魔法。


「(寒いよりマシっしょ!さぁ、行こう!無限の彼方へ!)」


「(前方特に無し)」


「(後ろも特に無し)」


俺の扱いに慣れてきやがったぜ!ハッ!この二人大物になるぜ!

に…しても、割れ目がそろそろ終わりそうだ。二人の来た方向がもう片方の端っこだったらしいし。


「…………!」


なんだ?割れ目のとこになんかいる。けど、吹雪のせいでよく見えないな。


「(?…どかした?)」


「(アレ…割れ目中腹部……なんか居る。)」


「(なんだ?動いてる気がすんな…おい、ローニャ。アレなんだか見えるか?)」


「(ちょっと待って。)」


腰に携えたポーチから、ゴーグルを取り出して装着。そうか、狙撃手は目が良いからな。前屈みになって割れ目を覗き込む。何が蠢いてんのやら。


「(ギャァーーー!!)」


「「(うわぁっ!)」」


いきなり大きな声出されたらビックリしちゃうでしょ!!女性…ローニャだったか?が屈めていた体を飛びあがらせて後ろに尻もちをついてしまった。


「(ローニャ!大丈夫か!何が見えた!)」


ア…ル…なんだっけ?アンゼルだっけ?が駆け寄って怯えるローニャの肩を抱いて引き寄せる。


「(うじゃうじゃ…うじゃうじゃ居る……。)」


「(何がだ?)」


「(…む、虫がうじゃうじゃ重なり合って蠢いてるのよぉ〜!!!)」


「(うわっキモッ。それはそれは気持ち悪うござんすな。)」


「(ふざけてる場合か!その虫が割れ目にうじゃうじゃ居るってこたあよ!俺達の仲間はアレにー)」


「(落ち着け、落ち着けって。)」


「(落ち着いてられるわけないでしょ!!)」


「(お仲間がアレに食われたって?)」


「(……だって、あの量)」


「(君達…本当にランクAのハンター?)」


「(んだと!)」


「(強いんでしょ?ランクAって。ライゴウさんも強いし。だったら、虫ごときで死なねえっしょ!割れ目から落ちる方が危険だって!)」


「(見えないから言えるのよ!あの量じゃ…二人でなんて)」


ほー言うねえ。


「(んじゃあ俺達も行くか?)」


「「(え?)」」


「(二人でダメならパーティで動けばいい。)」


「(ココに落ちろっての!?)」


「(落ちろとは言ってない。行こうって言った。)」


「(一緒だろ。はぁー…自殺行為だ。だいたい、二人があそこに居るかもわかんねえし。)」


「(いずれにせよ、その虫の軍団に出会うのは必然だろ。)」


結構、時間が経ってるし…俺達は上でもめてたから足怪我してたり他に通路が無きゃ十中八九ココに来ている。


「(この魔導師に任せなさい。存分に使ってくれよ。アンゼルさん!)」


「(アンデルだ!チッ…なんかあったらその場で殺すからな。)」


やめてよそういうのぉー!なんか起こしちゃうかもしれないじゃなぁ〜い!!

二人を立たせて二人の間に俺も立った。


「(さて、二人とも…そぉ〜らをじゆ〜にとっびた〜いなぁ〜!)」


「「(はぁ?)」」


「(はい!飛行魔法ぉ〜!)」


ドンっと二人の背を押して、割れ目に三人倒れ込むように落ちる。触れた二人と自分に飛行魔法をかける。


「(ぎゃぁぁーーいやぁああああーーー!!)」


「(おっおおおっおおおおーー!!)」


「(“飛行(フライ)”)」


フワリと落下のGが消えて、浮遊感が訪れる。その感覚に、二人が腹部を押さえた。あるある!ヒヤッとするよね!


「(馬鹿!馬鹿でしょ!!絶対馬鹿!!いきなり突落すなんて!!)」


「(お前死にてえみてえだな…終わったら覚えてろよ……)」


「(分かってるって!)」


なら、さっさと終わらせようか!


「(…この虫が原因なのかしら。)」


「(図鑑で見た事あるけど、実物は初めてだ。28〜25.5cm位なんだ。成人男子の足のサイズ。)」


つまり、成人男子の手首から肘位までの長さ。太さはまばらだ。形や見た目は殆んど団子虫。


「(大きさの情報はいいから、こいつが原因か?)」


「(そうだよ。こいつらは『消音虫(ヴァニィシュインセクト)』つって、自分の周りの音を全部消しちまうんだと。なんでも、不思議な事にどうやら音を喰ってるらしくて『音喰(ノイズイーター)』の異名を持つ山とかの土ん中に居る虫だ。)」


「(…なんで、こんな大量に?)」


「(……あ、繁殖期か?)」


「(そうだろうね。花嫁争奪戦へ向けて鋭気を養うためにたくさん食べないといけないが…生憎雪山だ。動物は冬眠、モンスター達も繁殖期で動き回るけどそれじゃあ足りないんだろうな。音が。)」


「(……まさか…この群)」


「(音を追って移動しているのか?)」


「(…音を喰ってるなら、肉は食わねえだろ。音を出してくれるカモを殺しはしないだろうし、きっと無事だ。)」


良かったとホッとひと安心。けど、まだ肝心の仲間を見つけてない。


「(おい魔導師、なんか探索魔法の一つも持ってねえのか?)」


「(あるけど、ここじゃあ不向きだ。探す相手の生命エネルギーに依存する魔法だし。すまんねえ。)」


「(役立たず。)」


「(ちょっと、落とされるわよ。)」


「(いいさいいさ!本当の事だしね。)」


さて、原因はわかったけど…その原因が邪魔だ。殺すのもなんか嫌だ。彼等はただ子孫を残す為に奮闘しているだけだ。


「(………っ…あ、まずい。)」


「(?…どうした。)」


「(…燃料切れ……あ、落ちる。)」


生命エネルギーの使い過ぎによって、一気に全ての魔法がキレる。テレパシーも摩擦も勿論、飛行も…。無くなれば虫の海に真っ逆様。霞んだ視界の中で二人の悲鳴を上げているが音はない。心臓が止まり、動き出すまでの短い間に胸部を音も無く叩きつけられた。


「(…穴?)」


どうやら、虫が俺達を避けて下に落としたようだ。二人は大丈夫だろうか。怪我してないといいけど。

穴はすぐに塞がれ、暗闇がおとずれる。


「(…なんだ……中は空洞)」


「…………………。」


ん?誰か覗き込んでる。すると雑に手を背に回されて起き上がらされた。


「?」


「…………。」


あ………お久しぶりです。ライゴウさん。ご無沙汰しております。どうもどうも。

軽く揺さぶられる。大丈夫と手を上げたら、溜め息をついて俺を地面に放り出した。ひでえ。薬草ちょっと溢れた。

起き上がって、あたりを見渡す。


「…………!」


あ、アンデルさんとローニャさんはちゃんと居た。居たけど…あのデカいおじさんまで居る。俺をギッと睨んで今にも掴みかかって来そうだがそれをしないのは背に抱いた子のせいか。

範囲性の“精神感応(テレパシー)”の魔法を発動させる。


「(ノックしてもしもーし。聞こえる〜?)」


「(!頭に直接…)」


「(っ!?野郎!何しやがった!!)」


うう…頭に響く。


「(会話出来るように、俺の半径5m内にいる人達を魔法で繋いだ。)」


「(魔法だと!!)」


「(落ち着いてゲラン。)」


「(彼奴のことは後だ。まずは出よう。)」


「(いや、ココでぶっ殺す!)」


有言実行の男って最高にかっこいいよね!!とか思ってたら、ライゴウさんが俺の籠を掴んで引っ張り自分と位置を入れ替えるように前に出た。これだからライゴウさんは…。

そうだ。ココにエフェジーを建てよう。

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