一回ある事は何回もある。
さびぃ……採取でランクAとか…ふざけんなよ。
「大丈夫?」
「大丈夫に見えるか?」
「ううん。寒いの弱いの?」
「ああ…寒いのは好きじゃねえ。」
俺の国の服装は薄手だからな。動き易さ重視したら薄くもなる。
《ザクザク》
「……………。」
《ガタガタ》
震えが止まらない。足の感覚がねえし。
「……あー………流石に可哀想だわ。ほら、コレブーツの底に敷いときな。」
差し出された、紙を藁にも縋る思いでブーツの底に敷いて履く。すると
「……暖けえ」
「カイロってやつだ。」
「初めて真面目に感謝するぜ。」
「まぁーこの恩知らず!傘や薬を恵んだのは何処の誰よ!」
「何処の誰かわかんねえ奴に押し付けられたらビビんだろ。乞食でもねえのに。」
恩はあるが、それを返そうとは思わないしな。そう言ってやると別に返して欲しくてやった事じゃねえよ。ただの同情だと言い返された。
「同情ねえ……お前変なとこで甘いよな。」
「俺は、目の届く範囲で命を落とす奴が大っ嫌いなんだよね。」
珍しい。こいつからこんなはっきり否定の言葉が出るとは。
「羨ましいからな。」
「不純!まさに不純!!ある意味クズかよ…」
「お前!考えてもみろよ!例えるなら空腹で倒れる子どもの前で、暴飲暴食する大富豪だぞ!!喉から手が出る程欲しいものを悠然と食らう眼前の奴が憎いよぉー!!」
「わかりやすいが、不純過ぎんだろ。」
コレで、死ぬ理由も原因も忘れてんだから…狂った話だ。空っぽの頭は能天気で死だけを追い求める悲しい野郎だ。そんなお前を知るとほっとけなくなる。俺も随分と絆されてお人好しになったもんだ。
「あ、ライゴウさん。アレだアレ。目的の雪山に生える薬草。」
「おー…やっとかよ。はぁーちょっと休憩しねぇか?」
「仕方ないな…」
支給された籠をひっくり返して椅子にして座る。
「息が白いな…」
「当たり前だろ。雪山だし。」
パサりとフードを捲るクズ。白に映える黒髪と黒い瞳…恨まれ迫害対象とされるものか。
「………ポッ…」
「ん?」
変な声を出して何かを吐き出した横の奴を見ると、吐き出した物を満足そうに見ている。
「…何してんだ?」
「ちょっとした遊び。ポッ」
《ホワン》
クズの口から吐き出された輪っかは少ししたら消えてしまう。よく、酒場のおっさんが煙をふかしてこんな事してたな。
「…………ふーん」
「ポッ…ポッ……ポッ」
煙突みてえだなぁ。
小一時間休憩したところで、採取を開始した。だりぃ…モンスターや獣蹴ちらす方が簡単でいい。
「えっさほいさ!えっさほいさ!」
クズは、真面目に採取を行ってる。根は真面目なんだろ。馬鹿だけど。
順調に薬草の採取をする。つまんねえ…暇だ。やるけどよぉ。寒くないだけマシかと考え直して黙々と薬草を籠に入れていく。
「………………………………。」
「………………………………。」
「………………………………。」
「………………………………。」
……無心で草を毟る。雪山は静かだ。街の雑音が懐かしいぜ。
ハンター初依頼がこんな地味なので良かったのか?別に依頼にケチつける気は無いけどよ…もっと派手に行きたいもんだろ。門出として。撃退の依頼もあったろうに。
「………ふぅーこんなもんだね。」
「これでランクAとか…簡単過ぎねえか?」
「今の時期だと山岳地域のモンスターの繁殖期だから獰猛なモンスターの遭遇率上がるからじゃない?」
「…物知りだなお前。」
「もっと褒めて。」
「調子に乗らなきゃ、控えめに言って変人なのに…残念だなお前。」
「ライゴウさん、残念基準が緩すぎませんか?」
「お前の所為だ。」
今度は、来た道を戻る。山は下りを注意していかねえとな。
「お前ワザと落ちたりすんなよ。」
「落ちる時は、言うね。」
「その気満々かよ!」
縄で繋いでやろうかてめえ!俺が気にかけてちょいちょい後ろ確認するからか、溜め息を零して今はしないから前見て歩いてくれと苦笑しながら言われた。
「たくよ…ほっといたら何しで《ズルン》かっ!?」
ブーツの底が滑ったのと同時に浮遊感が…落ちる!!
「ライゴウさん!!!」
「うげえええええええーーーー!!」
雪で隠れていた山の割れ目の崖に落ちるという体たらくをおかした。クズの伸ばす手が一気に遠ざかって行く。深いぞコレ!
底に激突する想像なんてしたくねえ…腰から刀を鞘ごと抜いて、思いっきり崖の斜面に突き立てた。
《ガリガリガリガリガリガリガリガリ!》
「とぉまぁれぇええーーーー!」
落下速度が落ちていく。よし…このまま!
《ドォン》
「……っ〜〜〜!!」
底に思いっきり両足で着地。 ビリビリと振動がつま先から頭蓋まで駆け抜ける。
「……………………高えな…」
割れ目の崖の底が平面状であったのと足の骨が折れなかった事が不幸中の幸いか。
しっかし、天が遠い。クズの野郎…俺が居ねえからって死ぬ気じゃねえだろうな。
「………彼奴も心配とかすんのか?」
俺を心配して飛び込んだりはしてこねえしな。しなくていいが。とにかく、ここから出ねえと。周りに飛び散った薬草を籠に戻して、崖の斜面を登るにも高過ぎる。刺さったままだった刀を抜き汚れを払い落として腰に戻す。ひとまず、道になってる底の右側の方へ進んでみるか。
「(……空洞になってんのか。)」
少し進んですぐに、上の割れ目からの光が途絶えた。眼前に広がる人一人がまぁまぁ通れるかって位の縦に細長く狭い洞窟。奥で道が途絶えてる可能性があると考えたら無闇にグイグイ進むのもなぁ。暗くて長さも目視では測れない。
「仕方ねえか。」
《スラ》
俺は刀を抜いて、剣先を暗闇に向けて構える。
「“電光斬風”」
《ザン》
振り下ろした刃から雷を纏った斬撃が風のように洞窟を駆け抜ける。結構な深さまで狭さは変わらず続いているようだ。刀を鞘におさめ、進んでみることにした。
思った通りというか、見たまんまで中は真っ暗だ。目が慣れるまで壁に手を置いて手探りで進む。
静かだ。採取の時も静かだったが、風の音や雪を踏む音、草を抜く音などがあった。ココはまさに静寂というもの。風の音も、足音も、自分の息遣いさえも……………んん?
「………………。」
《……》
おかしい。先程、地面を思いっきり蹴ったのだが、音が全くしない。耳がおかしくなってやがる。声を出しても体内で響く分の音しか拾えない。
早くこっから出ねえと!
俺の世界から音が消えた。突然過ぎる。原因はなんだ。意味がわかんねえ。来た道を戻ろうと駆け出したら…
「っ!…!?」
何かにぶつかったって尻餅をついた。やはり、音は何一つ出ない。やっと慣れてきた目を凝らすと…はぁーマジかよ。
「?」
「……………。」
あのギルドでクズをぶん投げたデカブツが仁王立ちでこっちを見下ろしてやがる。
「………………。」
「…………………??」
何か言ってるが聞こえねえ。よくよく見れば、デカブツのスキンヘッド頭から血が流れているのが見えたが、あのご立派な大斧は見当たらない。そのかわりに背に誰か背負っているようだ。
言葉で意思疎通が出来ねえ今、ジェスチャーで対処するしかねえ。
『耳を両手で指差してから、両手をクロスさせる。』
聞こえないと伝えれば、相手は頷く。
『指を相手に向けて、もう片方で耳を指差してから指でバツを宙に書いた。』
もう一度頷くと今度は相手が片手でジェスチャーを送ってきた。
『上を指差してそれを下に動かし、親指を立てて後ろの背負った人物を指し、次に頭と足を手で叩いた。』
俺と一緒でココに落ちて、背負っている相手は頭と足を怪我したようだな。続けて
『上を指差して、拳を上下に振った。』
早く上に戻らないとってか。それには、賛成だと頷いてから、どうやってとジェスチャーを送ったら。相手は俯いてしまった。お互い頭は良い方ではないだろうな。しかし、同じ境遇の奴がいたら幾分落ち着いた。奥に行くだけ行ってみるかという気持ちが湧いた。
奥を指差したら、重い頷きを返した。
さて、俺達は無事にここから出れるのかねえ。クズは何してるかしんねえが、死んでたら殴るぞ。
愛しさと切なさと恋しさと悲しさと虚しさと部屋とYシャツと私と山田さん