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始まる物語

初めて、彼奴を見た時。寒気がした。黒いフードを被って真っ黒で底の見えない眼で、雨に濡れる俺を見ていた。一瞬死神かと思っちまった俺を誰も責めれないだろうな。


「…なんだよ。金はねえぞ。盗られちまったからな。」


「………………。」


別に気にしてなかった。賊が巣食う街に来てんだ。腕に覚えがあっても多過ぎる敵は捌ききれなかった。赤髪が珍しいのか目をつけられた所為だな。


「………ん。」


「…んだよ。」


「ん。」


「ああ?」


「んっ!」


「うおっ…わぁったから!」


ズイズイと自分の手に持っていた傘を差し出してきた。相変わらず、眼に光は無く真っ黒だ。渋々受け取ったら其奴は雨の中すぐどっか行っちまった。そして、傘かと思ってたらデケエ葉っぱだった。彼奴、あんな黒一色の格好で変にメルへンだなぁ。変なの。


また、其奴に会ったのは雨の止んだ翌日だ。傷が痛むからジッとしていたら、またあの眼で俺を見ていた。


「…………ああ?」


「ん。」


「…………。」


「ん。」


「…………。」


「んー!」


「今度はなんだ?」


やはり、ズイズイと差し出す其奴から渋々受け取った。


「!」


渡されたのは、傷薬と包帯だった。バッと顔を上げてみりゃ彼奴は既に居ねえ。怪しかったが、放置するよかマシかと使ったところ、効果は抜群だった。次の日にゃ、普通に動けるまでに回復した。彼奴は、見た目に反して良い奴だったなとか思いながら、野蛮な街からおさらばしようと歩いてたら。罵詈雑言が飛び交う現場が見えた。俺には関係ねえと思って素通りしようとしたら、囲ってる奴等の隙間から…あの真っ黒な眼が見えた。咄嗟に足を止めちまった。


「…………いや、俺には関係ねえ」


足を進めようと前に向き直る。後ろから、殴打の音が聞こえた。関係ねえよ。関係ねえ。生々しい暴行の音を無視して足を進める。


「なんなんだよてめえ…」


「きっしょくわりぃ髪しやがって。」


「赤髪の財布返してくれとか…」


《ザ……》


……なんだって?赤髪の?財布?どんぴしゃ?え?えぇ??それって全然俺


「(関係あるじゃん!!!)」


踵を返して、泥濘む地面を蹴った。金の事なんか別に気にしてなかったのに、なんでか行かねえと!と思ったら其奴を囲む連中に得物を抜かずに鞘のままぶん殴りに行ってた。


「おぉれぇの財布ぅう!!!」


《ガァン》


「「っ!!?」」


「返せやああ!!」


財布に入ってるのは微々たる物でそこまで俺が固執する必要も無いはずなのに何故か必死になってる自分が居る。不意を突かれて呆然とする全員を一気に薙ぎ倒した。


「ゼー…ハー…」


「…………ん。」


「ん?」


「ん。」


「……………。」


「んっ!」


「このくだりいるか?」


「いや、やっぱ物強引に渡す時の鉄板でしょ!」


「はぁ!?…ぇ?」


思ってたキャラと違う…もっと、クールな奴かと思ってたんだが、え?馬鹿なのか?そのなりで?ペラペラ喋るタイプ!?


「はぁ〜〜…」


なんかすげえ疲れた。


「?…財布取りにきたんじゃないの?」


「いや、別に財布は……」


「じゃあ、なんで来たの?」


首をかしげる黒髪。俺もそれに続いて首をかしげた。


「…なんでだ?」


「いや、知るかよ。」


財布…出されても、やはりそこまで要ると思えない。俺ぁなんで、突っ込んだんだ?


「……………??」


「馬鹿だなぁ。また、怪我するよ?」


「な…お前こそわざわざ俺の財布取り返しに行ったんだよ!」


「貧乏そうだったから、大事だろうと思って。」


「てめぇ!!!!」


「なははは!そう怒んないでよ。頭に響くから。」


あ…そうだ、こいつ傷だらけじゃねえかよ。傷薬残ってたか?


「…あ、使ってくれたのか。」


「何も無いよりマシかとね。」


「そっか。効くもんだね。サラマンダーの涎。」


《ガン》


「てめぇ!なんつーもん渡してんだ!」


「あたた…冗談だよ。ジョークジョーク!」


「何がジョークだ…口にも塗ったてのに。」


「なははははは!」


「…くく、そんなに笑えるか?」


「おじさん馬鹿正直だねえ!」


「もういっちょ殴るか…」


「やめてー!きゃー!痴漢よー!」


「誰が痴漢だ!馬鹿だろ!お前馬鹿だろ!」


「ははは!ナイスツッコミ!」


楽しそうに笑う其奴につられて、俺も笑っちまった。ああ…久しぶりに笑った気がすんなぁ。楽しいと久しぶりに感じた。


「……はぁーもういいから、喋んな。」


手当てをしてやろうとすれば、プイッとそっぽを向く。ガキかよ。


「自分で出来るから、貸して。」


「!…ニッシッシ、そう言われるとやりたくなるのが人の性だな。」


「きゃー!強姦魔よぉ!逃げるが勝ち!」


「グレードアップさせんな!意地でもやってやるからな!逃げんな!」


巫山戯る黒髪に俺は、振り回されながらなんとか手当てを済ました。何故だ…ただの手当てで夕方になってた。何これ。


「チェーおじさん速えな。」


「お前もすばしっこいな…はぁー1日無駄にしたぁ。」


「そうだね。同意。」


「誰の所為だ。」


「…………………お互い?」


「いきなり、正論言うなよ。」


逆に俺も何お巫山戯を促してんだ。

とりあえず、今日は安宿でも取って、出発は明日だな。


「お前宿は?」


「いや、今から出るよ。」


「はぁ?」


「西に行こうと思っててね。」


「馬鹿だろ。西って森じゃねえかよ。夜になったら、獣に食われっぞ!」


「?…何心配してるんだよ。」


…そうか。こいつも何か備えて行くよな。流石に。


「俺が死んでもおじさんには関係ねえでしょ?」


「!?」


「んじゃ、俺行くから。」


フードを被って歩き出した彼奴は、まるでピクニックに行く様な軽い足取りで西へ向かった。日が落ちてきているというのに……関係ねえ…か。ああ、俺には彼奴が死のうが関係ねえ。名も知らねえ赤の他人だ。さっさと宿を探そう。


「(………あ…)」


手に持つ財布…俺は……なんで、あの時…不意打ちとはいえ危険な多数に殴りかかったのか。財布…は、違う。囲んでた奴等が憎かった?いや、違う。そうならすぐにでも殴りかかった。

理由はなんだ?殴りかかった理由は………ん?理由なんてなかったんじゃないか?


ああ…ああ、そうだ理由なんてなかった。なかったから…


「(作ったんだ。)」


グッと薄い財布を握る。俺は、関係ねえと無視しようとして内心引っかかってたんだ。だから、財布を理由に俺に優しくしてくれた彼奴を助けたんだ。

簡単な事だが、なんとも馬鹿だ。馬鹿なんだよ俺は。


「うしっ!俺も西に出発だ!」


だから、馬鹿な事をするとしよう。





カフェオレ飲んで毎回お腹壊す。でも飲んじゃう。だって美味しいんだもの。

 くずお

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