とある世界の英雄譚
親から子へ、子から孫へと語り継がれたお伽噺のような伝説。何百、何千、何万ともなる軍勢を率いた魔王軍にたった五人で立ち向かった英雄の話。
ある人は、出鱈目だとこんなこと出来るはずがないと言った。そして、またある人は、伝説は本当だと信じて疑わなかった。
『英雄達のように、無謀と言われようと、不可能に飛び込む勇気を持ちなさい。』
各地域によって主役が異なる風変わりな伝説。
今もなお語り継がれる伝説の五人の英雄。
一人は、紅の髪を束ね東洋の衣を翻し、豪雷を纏う背丈ほどもある刀を操る気高き獅子。
一人は、風を掌握し、黄金の双角を持つ優雅で高貴な人外の狙撃手。
一人は、花冠を被り、小さき体で数多の生物を使役する幼き少女。
一人は、淡く蒼い瞳と白銀の髪を授けられた紅蓮を引き連れ刃を振るう可憐な女剣士。
そして、英雄達をまとめたとされ魔王を倒した張本人。異彩の黒髪黒眼を持った慈悲深く、種の垣根を越えて救いの手を差し伸べ、不可能に挑み続けた森羅万象を司る魔導師。
コレが語り継がれた伝説の英雄
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…………………しかし、実際の彼等は…
「あー…ぅ、あっあ」
数多の生物を使役する少女は、頭から直接生えた植物の所為で言語障害である。
「んー?なんだどうしたチビ…あーまたか。」
可憐な女剣士は、アルビノの男勝りなガサツ美女である。
「またかじゃねえよ!さっさと降ろしてやれ!」
「今日もワイの姫は元気やね〜」
「ケツ触んな!!」
気高き獅子は、苦労性の中年であり…優雅な人外狙撃手は、男色の美青年である。
そして、森羅万象を司る魔導師は…
「あー…」
「嬢ちゃんナイス!たく、なんつー位置で首吊りやがって…魔法の無駄遣いだろ。」
「息してや〜」
《ペチペチ》
「……………………ん?」
「ん?じゃねえよ馬鹿!」
重度の死にたがりであった。
この五人は魔王を打倒するなどという壮大な目標もなく、マイペースに旅をする一行。そんな彼等が超絶美化される伝説を残すのはもう少し後のこと。
出来心とは、恐ろしい・・・。まるで、山葵を丸かじりするくらい恐ろしい。