ハーレムがいいと思っていた時期もありました
こんなハーレムは嫌だ短編
時は平成。世界に何があるという訳でなく、女性ばかりになっているという訳でもないとても平和な
「朱雀さん!」
平和な……
「朱雀さん!」「朱雀!」「す、朱雀さん!!」
平和……
「「「「私のために死んでください!!」」」」
「誰が死んでやるか!」
……な光景があるんじゃないだろうか、きっと。俺以外の周りでは。
初めまして神楽朱雀といいます。この冒頭は……うん。なんか説明しづらい。
いや、そもそも俺の家系自体が説明しづらくてどうしようかと思いながらも現在逃げ回っている。
逃げているのは放課後の校舎。帰宅しようとした矢先にこれだ。こんなのが人知れず、毎日起こっているのだから俺の家系を本気で恨んでもいいんじゃないかと思えてくる。
「逃がすか朱雀ぅ!!」
「おぅわっ!!」
一人がスカートを無視して飛び蹴りを放ってきたので俺はしゃがんで避け、そのままの体勢で駆けだす。
ドゴン! と盛大な音を響かせたその蹴りの着地点を見ず、俺は必死の形相で下駄箱へ向かった。
「朱雀さん! これでおとなしくなってください!!」
「おまっ、校庭の銅像持ってきてんじゃねぇよ!」
「えいっ!!」「どわっ!」
両手で銅像を持ち上げて投げてきたので俺は全力で横に飛ぶ。
間一髪で避けたその銅像は盛大な破砕音を廊下に響かせていたが、生きるのに必死な俺はそのまま誰もいない教室を駆けた。
まったく誰もいないからって手加減も容赦もなさすぎだろ毎回。
声を出して言いたいそれを抑え込みながら教室の窓から飛び降りて下駄箱へ向かっていたところ、横がキラッと光ったので慌てて立ち止まる。
すると眼前にボールがギリギリ見える速度で飛んできた……硬球の。
「チッ。惜しかった」
「本気で残念そうだなぁぁぁ!?」
思いっきりツッコミを入れたらもう一球飛んできたので、俺はそれを避けてから下駄箱へ逃げる。
一応のルールがあるから何とかなってるが、こんな奴らに四六時中襲われたら俺の命は確実に散る。
毎度も思ってることを考えて下駄箱について素早く靴を履きかえてから再び逃げようとしたところ、校門前に今まで襲い掛かってきた奴らが立ちふさがったので、俺は土足のまま廊下を移動しようと振り返ると、そこには参加しなかった奴が一人。
「す、朱雀さん……」
「お、おう」
一歩踏み出したので俺は反射的に後ろに下がる。だが逃げる道がないことは分かっている。
分かってはいるが……やはり本能的に恐怖心を覚えてしまっているからだな。
その子はまた一歩近づいてきたと思ったら不意に俯き――思いっきり飛びついてきたので、しゃがんでから全力で駆け抜けなりふり構わず廊下を走って校庭、そして校門へ向かうことにした。
今は夜。毎夜毎夜のことだから慣れてしまった俺であるが……明日もまた生きられるかどうか不安に――
「隙ありっ」
「甘いわっ!」
「ギャッ」
――ったく。こんな奴らでも昼間は美少女と名高く、割と優しいんだがな…。
首を回しながらそう考えた俺は、傍から見たらハーレムに思われてたんだなと現状を思い返しながらゆっくりと校門へ向かった。
続編は思いついたら書きます。