エピローグ 下校時間を告げる歌
僕がいつも通り屋上へのドアを開けると、見慣れた景色がそこにあった。
「やあやあ。生徒会長くん、こんにちは」
「……やっぱりここにいたんですね!」
この見た目二十代半ばの顔がとても整った小野宮先生は、名前と性別以外のプロフィールが謎に包まれた、謎だらけの先生だ。
「ここが好きだから。それで、どうした?」
先生は、『実は三十八歳!』という噂を全否定するような、とても整った顔をこちらに向けたまま、フェンスにもたれかかる。
「どうしたって……会議ですよ!」
「ああ、知ってる。めんどうだったから、サボらせてもらったよ」
……僕の苦労も知らないで呑気なもんだ!
「アイツ、先生いないと会議始まらないから怒ってるんですよ? ヤカンを近づけたら沸騰しそうな勢いで……。アイツ使ってお茶沸かせちゃいますよ?」
「あははは。副会長さんは怖いからね。さっきもそうだったよね」
その言葉に、僕は違和感を覚えた。
「……先生。どうして『アイツ』で副会長のことだってわかるんですか? ま、まさか、エスパーなんですか!?」
先生は一瞬表情が固まり、次の瞬間には腹を抱えて吹き出した。
「あははははっ……あっははははは!!」
「な、何笑ってんですか!」
「面白いこと言うね……。だけど残念ながらエスパーじゃないよ。いつも君の隣にいるのは、副会長さんだからねってこと。いやぁ、本当にいつも一緒にいるよね?」
一瞬で顔が熱くなったのを感じた。
それこそ、沸騰したみたいに。
「いや、アイツは小学校からの同級生なだけで……べ、別に恋愛感情なんかは……」
僕は宙に書いた字を消すかのように、両手を左右に振り回した。
すると、先生は首をかしげた。
「ん? 生徒会長の隣って言ったら、副会長だからそう思っただけなんだけど……君がしているのは何の話かな?」
先生は、僕をおもちゃにして遊んでいるような、楽しそうな笑顔だった。
「……っ!」
いつもこんな感じで言い負かされる。本当に悔しいのに、勝てない。
「もう! いいから行きましょう!?」
「あ、ちょっといいかな」
先生は小さく挙手をした。
「はい? ……なんですか?」
僕が折角やる気を出して会議に出席しようしているというのに、まだこの人は愚図るつもりか。
「今日の会議、議題は?」
「来週の週目標ですけど」
「そう、なら丁度よかった。じゃあさ……」
小野宮先生は挙手した右手を下ろすと、輝くような笑みを浮かべて言った。
「来週の目標は、『校内を走らないようにしましょう』……に、しない?」
生徒に下校時刻を告げる【遠き山に日は落ちて】が、校内に鳴り響いた。
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