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番外編 文学少女の熱意

賞には出していませんが、リア友に好評だった物語です。

加筆、修正をかなりしています。

 


 小さいころから、人一倍正義感が強いと言われてきた。

『きっといいおまわりさんになれるよ』と、まで言われてしまうほどだ。


 だけど、私には体力がなかった。柔道も剣道も空手も、体力を使うなんて言語道断。学校の階段だって一階から四階まで上がるだけで息切れ、動悸がする。



 そんな私は今、走っている。


 なぜ走っているのか、というと。


 攫われたお姫様を助けに――じゃなくて、正しく図書館を利用してもらうため。


『走れメロス』を奪い返すため――じゃなかった、借りるのか借りないのかをはっきりしてもらうため!





「……生徒会長、貸し出し手続きしてない!」


 会長が去ってから数分後、私は気がついた。会長は手に『走れメロス』を持っていた。それなのに、あれからあの茶番が始まり、うやむやになっていたんだ。


 そして現在、『走れメロス』は行方不明。


「じゃあ俺、当番やってるからさ。会長の所行ってきてくれる?」


 笑顔で同じ当番の先輩は言うけど……。私はすぐにわかった。


 この人はここから動きたくないんだなぁ、と。本を読みたいんだなぁ、と。



 なぜわかってしまうのか、というと。



 私だって本を読みたいし……出来るならこの人に任せてここから動きたくないと思っていたからだ。


 でも、先手を打たれては仕方がない。


「……じゃあ、行ってきますね」


 私は彼に当番を任せ、生徒会室に向かった。



 生徒会長だからって、無断で図書室から本を持ち出していいわけがない。だから私はこうして、走っている。


 そう。このシチュエーションはまさに……『走れメロス』ではないか!


 本のために走る私と、友のために走るメロス……。うんうん、ぴったり。だとしたらさっきの例え話……『攫われたお姫様』じゃなくて、『攫われたセリヌンティウス』だ!


 うわあぁぁ! なんか嬉しいぞ!


 私の心も足取りも、いつしか軽くなっていた。


 ……走るのがきついことに、変わりなんてないけど!





「……会長なら、先生を探しに行ったわ」


「先生とは、小野宮先生のことでしょうか? 生徒会担当の……」


「そうよ。あの先生がいないと企画が通らないのに……。ああもう、会長といい先生といいどうして上に立つ人はみんなこうなのかしら!?」


 地団太を踏みながら言う副会長の迫力は、すさまじい。


「はぁ……ソ、ソウデスネ」


 これ以上副会長の八つ当たりを受けたくなかったので、その場を退散しようとすると。


「あ、待って。その名札のバッジ……。図書委員の人よね? 会長から頼まれていたことがあるのだけれど……」


 そう言って副会長は本を差し出した。


 ――『走れメロス』だ。


「ふおおわあぁぁっ!」


 嬉しさと感動のあまり、思わず変な声が出た。


「そんなに大げさにしなくても……。だけど、それを取りに来てくれたのよね。すごく本が好きなのね、あなた」


「好き、ではないです。愛しています!」


「そう……。すごい情熱ね」


 あれ? ちょっと引かれたかな……? 


「一つ聴くけど……あなたが本を愛してるって言うのは、人を愛するというのと同じ?それとも、違うことなのかしら?」


 私にはその質問の意味が少し難しかった。『何故人間は生きているの?』って聞かれるのと同じくらい困った。だけど、副会長のために一生懸命考えた結果。


「うーんと……違うことだと、思います。でも、似ていますよね。人の性格が好きなのと、本の中の物語や登場人物が好きなのは。だから……紙一重の違いを持つ、二つの《想い》なんじゃないでしょうかね」


 上手く言えたかはわからないけど、これは私なりの答え。


「そう……なのね。ありがとう。もうひとつ、いかしら」


「はい、なんでしょう」


「あなたは本を追いかけたわよね。……愛ゆえに。それを、人に対してやるのはどうかしら」


「えーと……? もう少しわかりやすくお願いします。例えば?」


「例えば……。す、好きな人を追いかけたり、その人に近づきたいと思ったり、とか……」


 今、はっきりくっきりと、副会長の会長への恋心が見えた気がした。


 迷惑かもしれないけど、背中を押して二人が前に進めるなら、ちょっとくらいお節介なこといってもいいよね?


「私だったら、頑張ってくれる人がいるのは嬉しいですけどね。男の人だったら、尚更そうなんじゃないでしょうか? 女の子が自分のために頑張ってくれるのは、かわいいと思うはずです!」


 わ、どうしよう。副会長の表情がめちゃくちゃ乙女だ。顔真っ赤だし、目が潤んでるし。余計なことまで言いすぎちゃったかな?


「あの……?」


「っ……ありがとう」


 ただそれだけ言うと、副会長は生徒会室に戻った。


 そして中から次々と聞こえてくる冷やかしと、それを抑えようとしてる、副会長の声。慌てるような、照れたような、そんな声だった。



「私も負けてられない……。本を読むぞ!」



 図書室へ帰るため、私はダッシュを開始した。けど……。




 ……やっぱ走るのきつい!!






次回、エピローグです。

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