残念系男子の裏切り
「……クソ、あいつもしくじったか…」
生徒会二人による、嵐のようなラブストーリーが幕を閉じた後の図書室。いつもより少しざわつくそんな室内で、オレは携帯電話を握りしめ呟いた。
「……ここはもう、オレが行くしかないな」
オレは立ち上がると、図書室を出た。
たいていの物は、願えば手に入った。『泣く子も黙るなんとやらとはよく言うけど、お前の顔には全国の男子が泣くだろうな』と、兄貴に笑われたものだ。それに加え、話しやすい、ともよく言われる。オレは、立ったひとつの弱点を除けば、完璧な人間なんだ。
その弱点を補う能力を、あいつは秘めている。だからオレはどうしても、あいつが……あいつの持つ能力が欲しい。それが例え、本のちょっぴり強引で、非人道的な手段だったとしても。
ふと、ポケットに入れておいた携帯電話が震える。立ち止まって、画面を確認。
仲間からの新着メールが一通。あわてて中身を開いた。
『ドジリました! 助けてください! 場所は――――』
「チッ……。役立たずが」
読み終える前だったが、オレはそのメールを迷わず削除した。読む価値もないと判断したからだ。そしてゆっくりと歩き出した。
「あいつの行きそうな場所、あいつの行動パターン……」
頭をフル回転させ、考える。
例えバカでも、頭が悪くても、仲のいい奴の行動なら解るはずだ、オレは。
「……あいつなら、きっと……」
カッと目を見開くと、オレは走りだした。
(ここでオレの予想が外れたら……。この計画は、すべて……)
オレは瞼を伏せ、首を振る。そんな余計なことを考えていて速度が落ちたら、叶う夢も叶わなくなってしまう。そう思ったからだ。
考えるのを止めて前を向き、オレはただ走ることに集中した。
途中で仲のいい女子グループに話しかけられても無視。
遊びの約束をしていたダチも、当然無視。
オレの心は今、一つの願いを叶えることだけに必死だった。
「……やっぱ、いた……」
予想通り、あいつは教室の近くにいた。
バカはバカでもやるときはやれるんだ。そう心からそう思った。
オレは息を整えると、あいつに近寄った。
今まで付けていた、青いネコ型ロボットのお面を外して。
――――あいつを騙すことに罪の意識を感じないわけがない。だけど。自分の将来を思うと、そっちの方が大事に決まってる!!!
「よっ。こんな所でどうしたんだ?」
そしてゆっくり、あいつは振り返った。
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『騙し騙される鬼と人間か。
面白かったよ、君たちの鬼ごっこは。
さあ……ついに物語の幕切れだ』
そしてついに、傍観者は立ちあがった。
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