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「1,2,3,4」「1,2,3,4」「5,6,7,8」「5,6,7,8」

運動場をまだまだ張りのある若者たちの声が駆けめぐる。

号令をかける声、ストレッチをする声、テニスラケットでボールをパカーンと打つ音、野球部のごついかけ声。


ここ孤陽匡(こようきょう)学園では放課後の多種多様な生徒たちの部活動への熱意が見て取れる。

運動部だと陸上部、軟・硬式テニス部、体操部、水泳部、なぎなた部、弓道部、剣道部、野球部、バスケットボール部、バレーボール部、卓球部、ハンドボール部などなど盛りだくさんある。

もちろん文化部も吹奏楽部、美術部、文芸部、科学部、天文部、家庭科部、生物部、ギター部、放送部、茶道部、華道部、弦楽部、図書部、音楽部、などなど負けてはいない。

しかも各部活の内部は初等部、中等部、高等部に分かれているから、どの部活もかなりの人数だ。

この学園のシステムは初等部から高等部まで全寮制で成り立っている。

各部年齢も離れていて校舎も運動場も寮も別だが、子どもしかいないということで皆家族のように過ごしている。

そう、この学園には、というよりこの世界には子どもしかいないのだ。

この子どもしかいない世界をチルドアースと呼び、この学園はそのチルドアースの中でも人間が生きていける唯一の場所なのだ。

チルドアースー孤陽匡学園の人間は最年長でも18歳で、だから授業もおちびさんの面倒も全てどこで知り得たかはしらないが、年長者が受け持っている。

そしてこの学園にはとある組織が存在するのだが…


「位置についてー」

「よーい」

ザシュッと靴が砂を噛む乾いた音がする。

「どん!」

と同時に跳ね飛んだかのように走り出した。

全速力で翔ける少女の山吹色の髪に汗が弾けとぶ。

「よし!」

タイムウォッチのカチリとした音とともにガッツポーズをした。

「50メートル5.3!また新記録出したね、芹!」

「うん!」

肩で息をしながらVサインをしている少女は鳩場芹(はとばせり)

中等部三年で、陸上部短距離走のエースだ。

マネージャーからタオルを受け取りドリンクをごくごくやっていると、後ろからパチパチと拍手がなった。

芹が振り返ると、色彩豊かな割烹着をまとった少女が立っていた。

「藍!」

藍と呼ばれた少女はにこやかにひらひらと手を降る。

「またタイム縮んだんだね。」

芹は藍の元へと駆け寄った。

「どうしたの? 美術部は?」

んーとね、と芹の同い年の親友鶲戸藍(ひたきべあい)は髪の毛をいじりながら答えた。

「芹に次の作品のモデルになってくれないかなー、って思ってね。」

藍はにっこりと笑って続けた。

「お願いできる?」

「もちろんいいけど、モデルって具体的にどうすればいいの?」

「走る直前…そう、よーいの後の緊張感ある一枚が描きたいのよ。木炭でデッサンするの。」

「なるほどー」

芹はとたたとレーンまで小走りし、クラウチングスタートのポーズをとった。

「こう?」

「そうそう、それでいつもの様にしててね。でも勢いあまってダッシュ、はご遠慮願うわ。」

すると藍は本当にイーゼルを立てて木炭で芹の姿を描きはじめた。

「ねえー、まだー?」

「まだよー。そんなすぐ描けるわけないじゃない。」

真剣な眼差しそのもので芹とキャンバスを見比べる藍からは、先ほどのような和やかな雰囲気は感じられない。

「ねー。」

「だからまだだってば。」

えっ、と芹が首をかしげた。

「わたし何も言ってないけど。」

今度は藍もあれ?とあたりを見回した。

「ここだよー。」

斜め60度、いや65度くらい見上げると、体育倉庫の屋根の上にひょことブロンドの髪の双子が現れた。

「そんなとこにいちゃ危ないわよーふたりともー。」

藍が声をかける。

「なんでふたりが中等部の敷地にいるのさ。」

芹が立ち上がってきいた。

「なんでって、見学よぉ。」

一人が答える。

「見学ぅ?」

芹の顔にはてなが現れる。

「そ、見学。僕たち二年後には中等部だしねぇ。」

もう一人がにこにこしながら言った。

「大丈夫?迷子になってない?」

「藍、この2人に限ってないでしょう。ほんとどこにでも現れるんだから…」

っていうか2年後ってまだまだ先じゃんとつぶやく芹の言葉にふたりはくすくす笑った。

「迷子になんかならないわよ。ねえ。」

「うん。だって仏に案内してもらってるからね。」

「仏に?」

芹はきょろきょろとあたりを見回した。

「いないじゃん。」

またくすくす笑う双子。

太陽が雲に隠れて双子の姿が暗くなる。

藍は制服のポケットから携帯を取り出すとメールを打ちはじめた。

しばらく後、ぴろりんと携帯が鳴った。

「仏くん、今頃大変でしょうからね。あんまり困らしちゃダメよ、ふたりとも。」

藍のため息まじりの言葉にふたりははーいと実に元気良く返事をした。

「あ、仏だ。」

運動場を突っ切って走ってくる仏を見て、芹はつぶやいた。

「ふたりとも…俺から離れない約束でだったよね?」

ぜえぜえ息を荒くしながら言う鶩田仏(もくださとるに、この双子ー鶴参(つるみ)はこべと鶴参蘇芳(つるみすおう)はごめんなさあいと半ば笑いながら言った。

「藍、連絡ありがとう。」

まだ呼吸が整わない間に礼を言う。

「はこべちゃんも蘇芳くんも仏お兄ちゃんの言うこと聞かなきゃだめよ?」

困り顔で藍は2人に注意した。

またはあいと元気な声が返ってくる。

「ちょっとかくれんぼしよっかなって思ったの。ごめんなさあい。」

本当かどうか微妙な理由を述べて双子が謝る。

仏はふうと一息つくと「勘弁してくれよ。」と笑った。しかし今度は顔をひきしめて

「でも気をつけてくれよ。おそらくだけど今日は魔の日なんだから…」

ポツリと雨が降りだした。

「うわ、雨だ。こりゃ今日の外練は中止かな。」

と芹がつぶやいたのとほぼ同時に警報がなった。

「『影』が現れました、『影』が現れました。生徒の皆さんはすぐに校舎か寮に非難してください。」

繰り返します、とアナウンスが述べる前にはすでに辺りは騒然となり、グラウンド部活中の生徒たちは片付けもそのままに一目散に校舎へと逃げ出した。

「…きたね」

誰からともなく張りつめた声で言う。

果たして影のように鈍い存在であり、また恐ろしい存在である『影』が、無数に現れた。

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