有名人と下僕
今日も今日とてギャルゲで好感度維持、またはダウンさせる選択をして陸上選手も吃驚な速度で逃げ帰った。
ただいまと一言声をかけ、おざなりな返事を貰うと自室に行く。
即座にVRベットに横になり、キャラなり!にログイン。
これから俺はギャルゲ主人公ではなく、死霊使いジャキになるのだ。
「よー、来たか俺様の下僕候補」
「……ふひ、こんにちは」
職業魔王な魔王様は今日もギルドホームに居た。
騒がしくないところからするとたなかは居ないらしい。
変態っぽい笑い声を上げながら挨拶をすると魔王に微妙な顔をされた。
「なんかお前のキャラなりって変態ってより変人っぽいな」
「……酷いです魔王様。私はこんなに情熱を捧げて変態っているのに」
「無理ありすぎだから。慈愛の天使(笑)並みに無理あるから」
慈愛の天使?
(笑)が付いていそうなイントネーションだ。
「慈愛の天使(笑)は天界軍のリーダー格な。ハンドルネームが『慈愛の天使ー光満つる時世界は再生するー(シャインエンジェル)』とかいうキチガイだ」
「……随分と、個性的な御名前で」
「気持ち悪いがプレイヤーとしてはかなり強い。慈愛の天使(笑)の筈なのに普通に広範囲殲滅魔法とか空中コンボ仕掛けて来やがる」
慈愛はどこに行った。
というか空中コンボって、天使が前衛なのか?偏見かもしれないが、天使という職業は光魔法とか補助魔法とかに特化していそうなのだが。
「ちょうどいいし有名どころは教えておいてやるか。泣いて喜べよ」
「……………エーン魔王様ありがとうございます」
「よしお前後でたなかの刑な」
たなかの刑、だと…?
「天界軍の有名どころは慈愛の天使(笑)と【超熱血】ぱふぇ・あら・もーど、【ツンデレ】レーネくらいだ。他の奴はまあまあ堅実な奴が多い。ただしレイド戦は天使から殺せ。奴等のバフと聖歌は厄介だ」
「……了解です」
公式で敵対関係にあるためか、魔王の表情が苦々しいものになった。
「人間は多いな。一番有名なのは六代目勇者で【残酷】ゴンザレス。俺様には劣るがまぁ強い。後は、【狂人】シザーマソ、【強欲】キントラ、【肝っ玉母さん】アン、【大黒柱】銀、【双子】コンとコタ、【聖人】フローネ、【善人】山田太郎、【お姫さま】プリンセス・エディリンあたりだ」
どうも属性と呼ぶにはちょっと無理のあるものが多い気がする。
魔王が属性で無いように、勇者も属性では無いのに何故お姫さまという属性になるのか果てしなく疑問だ。
というか、勇者が残酷って何だ。
どんな勇者だ。
「…随分と個性的な面々ですね」
「有名どころだからな。あくまで一部だ。紹介してないやつにも強いやつはいる。ただ目立たないだけだ」
キャラなりは、ゲームのコンセプト的にどうしても目立たない人と目立つ人が生まれる。
NPCプレイをする人はその極端な例だ。
しかし、NPCプレイはなかなか人気がある。
まず、できる事が多い。
他のゲームで生産職、スローライフ、ギャルゲーに相当するものは全て可能だ。
基本的にフィールドに出て戦えないが、チュートリアルクエストやお使いクエストを出して他の冒険プレイヤーが成功すると一部経験値が貰える。
経験値が溜まり、NPCレベルが上がるとお見合いイベントや開店が出来るようになる。
NPCレベルを上げることにより重要なクエストの発端になることも可能で、ある意味でこのゲームのストーリーに最も密接なのがNPCプレイヤー達だ。
その上任意だがモンスターの襲撃イベントなどで戦うこともできる。
このゲームで色々したいならNPCプレイと言われるくらい出来ることが多いのだ。
それにNPCプレイヤーは街の力そのものだ。
NPCプレイヤーが多い街は潤うし、少ない街は過疎化する。
だから誰もNPCプレイヤーを馬鹿にしないし、持ちつ持たれつでやっている。
何故モブになりたかった俺がNPCプレイヤーにならなかったのかはこれらの要素がデカイ。
任意とはいえ恋愛イベントや重要なクエスト関係者になる可能性があるNPCプレイよりも、一般プレイヤーのがモブになりやすいからだ。
「俺様の下僕たちは追々覚えていけ。……ちょうど良いそろそろ下僕その5がログインしてくる時間だな」
そう魔王が言った瞬間にギルドホームの出入り口にログインのエフェクトが現れた。
「どうも、ごきげんよう」
キザなウインクをしながら現れたのは、ダークエルフとおぼしき性別不明な美形のアバター。
頭上の属性は……【ナルシスト】。
「よう、下僕その5。こいつは新入りの下僕候補だ」
「僕の名前はフェリン。気高く高貴なダークエルフで最も美しくそれゆえ罪深き短剣使いだ」
「……ひひっよろしくお願いします。死霊使いのジャキです」
またなんか、濃いーな。
せめて自己紹介の時くらい右手の鏡から視線を外したらどうかな。
いや、まぁキャラなり的には間違ってないんだけどね……。