まさかの話と家族の話
今日は結局たなかを魔王がキルして黄泉帰りの作業で終わった。
一見キルされ続けるたなかにメリットが無いように思えたが流石魔王、抜かりない。
ゾンビはキルされた数が100を越えると【復活】という必須スキルを覚えることが可能になるため、たなかの為でもあったらしい。
作業途中このゲームの基本を教えてもらったりして、まぁ有意義な時間だった。
どうやら魔王は魔王になった時点でリアルでも職業が魔王になったらしい。
ログアウトする気配の無い魔王に明日は大丈夫なのかと聞いたら、そう言われた。
元々廃ゲーマーだった魔王はゲームやって金貰えるとか最高とか言ってニヤニヤ笑っていたが、それを勝ち組と言っていいのかは甚だ疑問である。本人は幸せそうだが。
仕事とはいえ、魔界の力の象徴として成長限界までカンストさせたら途端にやることが無くなったらしくギルド†漆黒のトバリ†を開設。
一般向けなギルド概要は
【俺様の手駒として活躍できるように俺様直々に鍛えてやるギルド】
となっているが、つまるところ文面から俺様フィルターを外すと初心者支援ギルドなのだ。
たなかにこっそり言われてビックリした。
俺様ー!な感じで押しきられてしまったが、どうやら俺の属性だと苦労するだろうからゲームに慣れるまでは、と強引に入れたそうだ。
†漆黒のトバリ†はマイナー属性が多いので偏見もないしパーティも組みやすいという利点がある。
死にやすいたなかの為にも死霊使いが欲しかったのだろう。
なんというか……意外に面倒見良すぎだろう魔王。
属性カリスマは伊達ではないというか、着いていきたいリーダーの条件を結構満たしている。
説明する時も淀みがなかったし、初心者支援によっぽど慣れているのだろう。
最近では一部ファンが魔王様の俺様ツンデレを翻訳する会なんてものを作ったりしているらしい。
悲しいのは、たなか含め会員の半分以上が男であることか。
そんなまさかの話を聞いてからログアウトすると、俺の部屋の椅子に座って妹が待っていた。
見られて困るものは個人認証が必要なデータフォルダに隠してあるし、別に部屋に勝手に入られても構わない。
しかし妹よ、椅子の上であぐらをかくのはいかがなものか。
スカートの中はレギンスによって隠れているし、見たいとも思わないが女子としてアレすぎるだろう……。
今時珍しいが、我が家では家族みんなで夕飯を食べるのがルールのため呼びに来たのだろうが。
俺が起き上がるのを待って椅子から立ち上がると腰に手を当て昭和のアイドルのような、効果音が聞こえそうななんとも懐かしい怒り方をする。
「またゲームやってたの!」
「あぁ、遅くなって悪かった」
「ホントだよ!」
これは不味い流れだ。
妹の得意技、反論する隙を与えない言葉の絨毯爆撃が始まるかもしれないと身構えた。
「……前一回危ない目にあってるのに止めないなんて、なんで?兄ちゃんがまた起きないかもって、なるし。……あんまり心配させないでよ……」
……どうやら心配させてしまったらしい。
前回やった糞ゲー(デスゲーム)は、現実の300倍の速度に時間を加速されていたため身体に大きな影響は出なかったが、一週間も寝たきりであったことはトラウマになっているようだ。
外見はそんなに際立って可愛いとは言えないし普段は生意気な妹だが、こういったふとした発言が家族の絆を感じさせる。
「悪かったって。次はちゃんと時間通りに止める」
「そうじゃなくて……!ゲームを止めてよ!」
「……」
ゲームを止める。
実際、そうしようとも思ったことはある。
だが、現実は時にゲームよりも恐ろしいのだ。
俺は、それを身をもって知っている。
「ごめん……」
「……ばか。ごはん、食べよ」
「あぁ」
階段の下からはカレーの匂いがした。
これから三日間カレー尽くしかと思うと少しげんなりした。
シリアス(笑)