俺様がルールだ、だそうです
現魔王はなんというか、随分と色々とアレな人のようだ。
こんな人が魔王で良いのかとも思ったが、同時にこんな人だから魔王なのかと納得した。
キャラクターの外見的には、魔王と言うよりも一昔前のヤクザと言った方がしっくりくる。
魔法とか天使とかいったファンタジーの世界の中、何故か紛れ込んだ和風、異物感が酷い。
決して老けて見える訳ではないが(精々30代くらいだ)短く刈り込んだ角刈りに頬の十字傷を見ると、偏見だがドスとか徳利とかが似合いそうだ。
後でたなかに聞いた話だが、この世界の重要クエスト関係者や初期住民以外はみんなプレイヤーが担っているらしい。
キャラなりはNPCプレイと呼ばれるプレイすらあるくらいで、宿屋、食堂、更にチュートリアルの相手までもプレイヤーという徹底具合。
そのためメインストーリーに絡む、魔王や天使長、王ですら様々な要因によって選ばれたプレイヤーであってもおかしくは無いのだ。
この時の俺は、いろんな意味でキャパオーバーだったのでそんなこと一切考えなかったが。
仁王立ちするガリアスの横でたなかがよっ、日本一!とやじを飛ばしている。
「俺様は現魔王ガリアス。貴様は魔王軍所属、つまるところ俺様の下僕だ。よって拒否権は無い!」
「……あんまりです」
「俺様がルールだ!」
【ギルド、†漆黒のトバリ†に入りますか?】
何で今まで主人公体質を自覚していたのに改善出来なかったのかって、俺が押しに弱いからというのがその一因なのは間違いない。
完全に相手の空気に飲まれたまま【はい】を押した。
「貴様が一人前になるまでキリキリしばいてやる。さっさと俺様(魔界)の勝利に貢献できるようになるんだな!」
たなかは何やら羨ましそうにこちらを見ていた。
その時自棄になった俺は、「ふ、ふひひ……」とか笑っていたらしいが記憶に無い。
げに恐ろしきかな現実逃避。
ふと我に帰った時には何故かひたすら魔王にキルされるたなかを黄泉帰らせていた。
魔王にキルされる度に(恐らく)恍惚の笑みを浮かべ喘ぎ、両腕で身体をかき抱くたなかは属性ドMの名に恥じないドMっぷりだった。
10過ぎてから上がりづらくなっていた黄泉帰りスキルのレベルも3上がっており、たなかのぐっちゃり具合が多少ましになっていることから相当回数繰り返していたらしい。
悟りを開いたような心地で呪文を唱えているとガリアスの頭上のカリスマ、の文字が通常のプレイヤーと違うことに気付いた。
通常のプレイヤーの属性は青色で表示される。
だが、魔王の属性は赤色で表示されていた。
「……魔王様」
「なんだ?」
この呼び方は決して俺が自主的に始めたものではないと主張しておく。
それはともかく、だ。
「何故属性の色が違うのですか……」
「あぁ、俺はもう属性が固定されているからな」
属性の、固定とは……何やら重要そうな話だ。
たなかを放置して聞く体制に入る。
「属性が進化するってーのは知ってるか?」
「変化ではなく、進化ですか……?」
「そこんとこ混同されがちだが、属性は進化する。」
他人によって変わる属性変動以外にも地雷があったのか。
こりゃうっかりしてたら気が付いたら属性主人公とかになっていたかもしれない。
魔王は意外にも馴れた様子で説明してくれた。
「俺様は最初は属性【俺様】でプレイしていた。一人称とかはその名残だな。んで、ある程度知名度が上がってきたころに週一のレギオンでそこそこの成果をあげてな、属性俺様であると同時にリーダーっていう属性も付いていた。」
「複数属性……?」
「あぁ、そうだ。結構居るぜ。属性進化の例だってたなかという例もあるしな。たなか最初はただのSだったんだぜ。それが進化してドMになっただけで」
Sが気付けばドMとか。
一体何をしたんだ。
「それからしばらくなんやかんやで魔王になったら属性が融合されてカリスマになった。」
「すごい大事なとこ省かれた気が……」
「どうも属性融合されて属性が変わると固定されるらしくてな。それ以降変わらない。俺様とリーダーの時のがボーナス良かったのに余計なことしてくれるぜ」
ぶちぶちと文句を言いながらも話は終わっただろうとばかりにたなかが埋まっている辺りを指す魔王。
取り敢えず、色々と聞きたい事はあるんだが……たなか何でドMになったんだ?