主人公ルール
キャラなりライフもだいぶ充実してきたころだったか、俺は早くキャラなりに逃げたくてスキップスキップいいえたのしそうだなまたな(選択肢)をして帰宅しようとしていた。
そんなとき、いきなり見覚えのあるような無いようなやつに話しかけられた。
「よっ!ひさしぶりだな聖騎士様」
聖騎士様扱いしてくる妙に馴れ馴れしい上にさりげなく仲良しアピールをしてくる茶髪でピアス3個のモブ顔は……一番最初のVRMMOの時誘ってきたクラスメイト!
この手のタイプの人間はだいたい新たな主人公の到来とともに現れる。
こいつは新学期になってから少し話すようになった。
そこまで特筆するほど仲良しイベントは無かったはずなのに、夏休み前になったらいきなり親のコネでゲットしたゲームの機体を俺に押し付けて来た。
当時最新機種として5桁以上で取り引きされていた機体を大流行していたソフトとセットで、である。
最新機種なので、プレイヤーはプレイ中睡眠状態とほぼ変わらない状態でプレイできるので疲れない!とのうたい文句がなければ絶対プレイしなかった。
それだけ睡眠に飢えていたのだ。
俺にプレイさせるためだけにゲームを渡してきたこいつ……本名は忘れたのでゲーム名のサインとするか。
サインは初回プレイ時に当たり前のように合流し、なのにそれ以降はギルメンとやるから、と初心者を即放り出してソロプレイさせるという鬼畜の所行を行った。
おかげでトラブル続きで、止めようと何度思ったか。
でもまぁほとぼりが冷めてきたとはいえ、行方不明になっていたどこか陰のある(笑)青年であった俺の逃げ場になっていたことも事実だ。
とまぁ今話しかけてきたこいつに殆ど関係ない回想しか浮かばない程度の仲である。
「リアルでその恥ずかしい呼び方止めろよサイン」
「お前もハンネで呼んでんじゃん!?」
「俺のことを聖騎士(笑)なんて呼ぶのはサインしか居なかったなー」
「すみませんしたっ!杉野でいいですお願いします!」
「いかに恥ずかしいか理解したか杉野」
しかし、杉野というらしいこいつは何でいきなり話しかけてきたのだろうか。
こいつの関連した主人公はもうとうに終わったはずなのだが。
「お前もWOやんねーの?」
「やらない。この話は前しただろ」
「だけどさぁ……お前が居なくなってから、なんかみんな動きが悪いんだよね」
「…………」
俺という“主人公”を失った後のコミュニティのその後については大きく別れて二つある。
何事もなかったかのように続いていくか、無くなるかだ。
続いていくタイプのコミュニティはバトルモノの組織とか、異世界召還型の世界とか規模が大きかったり無くなると何か支障があるものだ。
逆に無くなっていくのは探検隊(小学校時代)、部活といったごく内輪のコミュニティで、ゲームのギルドなどもそちらに含まれる。
聖騎士(笑)は存在自体が有名になっていたからコミュニティ自体もそこそこ持ったのだろう。
しかし、主人公不在のパーティはいつか終わるときが来る。
「とりあえず、悪いけど今日予定あるから」
「あ、まてよ!」
引き止めるサインを無視して帰った。
主人公の俺は特定のコミュニティに長期滞在する事はできない。
なぜだか解らないが、そういうルールがあるのだ。
聖騎士だった俺は役目を終えてしまった。
もう聖騎士の俺は主人公ではない。
今の俺はギャルゲーの主人公であり、死霊使いジャキなのだ。