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漂泊の果て 命約の行方  作者: I
波乱
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三十五話 捜索

「まだ見つからないのか?」


 グルグルと部屋を旋回する上司に、部下は僅かに怯えを含ませて答えた。


「申し訳ありません」


 項垂れる部下に、横合いから詰問が飛ぶ。


「その人物、本当に帝都へ?」


「それが・・・、途中で目撃情報が途絶え、それさえも不明です」


「もういい、任務に戻れ。ご苦労だった」


 窓際で歩を止めた上司の許可に、部下はこれ幸いと退室した。


「見つからん、か」


 ボードゲームの駒を動かす。


「このような時に、何をなさっていらっしゃるんですか、叔父上」


 ルイスに睨みつけられたレオニエルは、悪びれずに片眉を上げた。


「ルイス、こんな時だから、平常を保たんでどうする。焦りは隙を作る。大局を見誤るのは、戦場での死だ!」


 あらゆる意味での先輩の教えに、ルイスは言葉を詰まらせ、目を伏せる。

 落ち着くためにも、一つ深呼吸をしてソファーに戻った。


「ですが、どうすれば良いのでしょうね。その者が、鍵を握っているのは確かなのでしょう?」


「間違いない。だが・・・ッチ。あの時、止めていれば」


「今更言ったところで遅い。その者は、探し人になって考えろと言ったんだな?」


「はい」


「んじゃ、此処で待ってれば何とかなんだろ。探すなら、うちの領内に入る街道だ」


 事も無げに言って駒を進めるレオニエルに、ルイスが眉を顰めて反論する。


「本当にこちらにいらっしゃるでしょうか?あの噂も大分流れています。直接帝都へ、と言う可能性も」


「殿下は其処まで考えなしじゃねぇだろ。単身で、敵の只中飛び込んで如何にかなる問題じゃねぇ。味方をつけなけりゃ、話になんねえよ。そして、その坊主が現れたのがリディアなら、儂を頼る」


 確信を持って言うレオニエルに、ジョナサンも一応の否定意見を述べてみる。


「ですが、そう上手く行くでしょうか?その吟遊詩人、随分目立ったようで、向こうも探索中です。殿下は殿下で手配されていますし、頼ってくる可能性の高い此処では。敵方の偵察も、随分領境をうろついている状況ですよ」


「それでも、何らかの連絡は寄越すだろ。あ奴に戦法を叩っ込んだのは、儂なんだからな」


 不適に笑んで、動かした先に配された駒を一つ、盤上から排除する。


「ま、1ジューン以内には来る。それまでに、できる限りの情報を集めとくぞ。あの頑固者も、何か知らんが動き出したみてぇだしな。あの野郎、儂に内密でなにするつもりだか」


 苦々しく愚痴るレオニエルが指す人物が誰なのか分かり、ジョナサンたちも渋面する。


「本当に、ドクティア様も何を御考えなのでしょうね」


「そうだな。あれだけ拒否してたものを、急に向こうに協力的になって。まさか、本当に」


「ありえん。アイツに限って、それはない。究極のルド至上主義だぞ!?」


「確かに。ドクティア様の忠義は、並々ならないものがありますからね」


「奴の命の恩人だからな、ルドは。大方、あちら側の味方につく振りをして、ルドに近付くつもりだろうがな。下手すれば、二人とも死ぬぞ。ったく、こんな重大な事を相談もなし。何を考えとるんだ、アイツは」


 悪態をつきながらも、心配を押し殺しきれていないレオニエルに、ジョナサンとルイスは苦笑する。


「クソッ。帝都の情報が人海戦術しかなくなったばっかりに、状況が把握しきれん」


 苦々しく言うレオニエルの台詞に、二人も顔を険しくして頷く。

 もともと、帝都に精霊は近付きたがらなかったが。5日前から、魔法契約している精霊さえも、無理やり魔法を破って逃げ出す事態に陥っている。

 原因は不明だが、精霊の嫌う負の気が帝都全体を覆っているらしく、帝都内で術を行使できなくなった。

 

「陛下も気になりますが・・・今此処を動く訳には行きませんからね。殿下に早くお戻りいただかなければ」


「そうだな」


「リディアから此処まで、急いでも7日。余り目だったことは出来ん状況で、騎獣もなし、昼間しか移動は出来んとなれば、急いで15日前後」


 レオニエルの呟きに、ジョナサンが可能性を提示する。


「殿下であれば、敵の目を欺くために遠回りされるかもしれませんね。リディア方面ではなく、ルッカス側の街道からお入りになる可能性もあります」


 それを受けてルイスが、高い可能性を述べる。


「だが、噂からもそう時間をかけれないことはお分かりのはず。だとすれば、やはりリディ方面か。・・・一応、こっちから迎えの探索隊を出しておく」


 レオニエルは、徐に睨んでいた盤上の駒を一つ動かした。


「いや、今儂等が動くのはまずい。逆に今周りを嗅ぎ回っとる敵情を探った方が、建設的だろ。それより、今欲しいのは帝都の情報。人員を割くなら、そっちに回す」


「ですが、叔父上。殿下御一人では」


「向こうは術師が付いとる。いざとなりゃ、連絡を寄越す、絶対だ。それまで、敵の目をこっちに向けておくべきだろうが」


 それでも不満そうな甥に、レオニエルは畳み掛ける。


「お前はアルフォン殿下の側近だろ。だったら、殿下を信じろ。あの方なら、大丈夫だ。今は、殿下が戻っていらした時に、手遅れにならんよう手を打つのが先だろう」


 長年政に身を置いてきた軍師は、内心の焦りを感じさせることなく、不適に笑んだ。幼い頃から共にあった自分たちより、ずっと確信めいて理解している顔で。

 それに、憧れと悔しさを感じ、己の未熟さを思い知りながらも、頼もしさに安堵するものもあった。

 ジョナサンとルイスは、主の帰還に向けて動くべく立ち上がる。


 一人書斎に残ったレオニエルは重い息を吐いて、懐から一通の手紙を取り出す。

 それを静に読み直し、顰めた顔を隠すように組んだ手に伏せた。


「如何すっかな」


 重苦しく呟かれた声には、苦り切った苦渋の色が多分に含まれていた。

 

「ルド様・・・申し訳ありません」


 小さく呟いて、顔を上げたそこに、もはや迷いは一切ない。決意の光を湛えた目で、レオニエルは僅かに顔を背け、誰もいない背後を見やり、口を開いた。


「国外への逃亡ルートを整えよ。大至急だ」


 何時からそこにいたのか、黒装束の男が、レオニエルの命に跪いて返した。


「はっ」


 男が気配を現すことなく消えた部屋には、初めからレオニエル一人であるかのごとき静寂が落ちた。

 

 カツッ


 レオニエルは盤上の駒を進め、その先に配置されていた黒の駒を倒した。


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