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漂泊の果て 命約の行方  作者: I
波乱
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二十七話 暗躍

 

 戻ってこないアルフォンを、気を遣った冒険者の二人が探しに行くと申し出たが、ハルキは丁寧に断りをいれ礼を述べた。

 夜半が過ぎ、青月が登り始めた頃。一迅の風が、木々を揺らした。

 浅い眠りに入っていたハルキの眼が、不意に開く。

 まだ少し覚醒しきっていない眼で辺りを見回し、軽く息を付くと立ち上がる。


「どうしたんだい?」


 見張りをしてくれている男が、ハルキに訊ねた。


「・・・トイレ」


 己の性別を忘れているとしか言えない台詞に、男は苦笑する。

 

「暗いから、気をつけろ」


 頷こうとして、今自分が言った台詞を振り返り、ハルキは如何でも良いことを考える。


―トイレって、こっちの言葉でもトイレなんだ。 


「うん。紫狼連れてくから、大丈夫だよ」


 言って紫狼を振り返ると、先ほどまで寝そべっていた紫狼は既にゆっくりと尻尾を振ってハルキを待っていた。

 


 ハルキは一メール先も見えない森を躊躇(ためら)うことなく進む。

 野営の火が見えなくなったところで、ハルキは(ようや)く歩を止めた。


「おかえり、伊嵯早。御疲れ様」


 誰もいない筈の空間に水色の光の粒が現れ、半透明の輝きを帯びた人型に変じる。その身体から発せられた淡い光で、辺りが仄かに照らされた。


《只今戻りました、主様》


 (しと)やかな乙女は、完璧すぎるほどの顔でふわりとハルキに微笑みかける。

 昼過ぎにアルフォンと合流したハルキは、風の精霊たる伊嵯早に御使いを頼んでいた。


「ごめんね、いつも精霊遣い荒くて」


《いいえ。我等が長たる御方の主に御仕えできるとは、望外の喜びにございます。どうぞ、存分に我が力を御使いください》


 跪かれる事を嫌うハルキの性格を知り、頭を深くすることに止めて礼をとる。


「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて。それで?如何だった?」


《はい。主様のお求めの人間は、人の宮殿の地下にいるようです》


「地下?」


《それと、人の都に“闇”の気配が。恐らく、血気(けっき)の続く地下に捕われているものと思われます。人間たちの張った結界の核となっているようです。残念ながら、地下へは、“闇”の結界で近付くことは出来ませんでした》


 伊嵯早の報告に、黙って頷いて思考に耽る。


「闇の?・・・・・・そう。闇に会った事がなかったのは、それでか。伊嵯早でも近付けないの」

 

《はい。術自体は問題ではありませんが、闇の瘴気(しょうき)が濃すぎますゆえ我では不可能です。“光”ならば問題はないかと。件の人間は光の加護を享けし血のようですゆえ、適任でございましょう》


 ハルキは暫く考えて、もう一体に呼びかけた。


耀輝(ようき)


 呼び声とともに、伊嵯早の隣にもう一人の人外が顕現する。腰ほどの長い髪を結い上げた、目映い美青年が甘く笑む。


《お喚びですか、主様?》


「うん。耀輝さ、闇を押さえ込める?」


《真名を頂きましたゆえ、今の我であれば可能かと》


「そう。じゃあ、暫く御遣い頼める?――」


 御遣い内容を聞いた耀輝は、胸に手を当て一礼して、光の粒になって夜空に飛び去った。

 

「さて。伊嵯早は、また暫く守護に。下級風霊(シルフィード)に頼んだ件が揃ったら、行って貰いたいところがあるから、それまでフォンに付いてて」


《はい》


 ハルキの命に、伊嵯早は恭しく頭を下げ、瞬く間に大気に溶けた。

 淡い光に照らされていた森は、静寂の闇を取り戻す。掌も見えない闇の中、頭上を仰げば木々の間から小さな星が瞬いている。


「忙しくなりそうだ。星を摑むのは・・・・・誰かな」


 眼を細めて、ハルキは己の胸元を摑む。


「ねぇ?春樹」


 切ないほど悲しみを湛え、ハルキは強く目を閉じる。

 願わくば、あの自分と似た空気を持った友が、譲れぬものを失わずに済めばいいと思いながら、浮かん顔に目を開けた。


「そろそろ、迎えに行くかな」


 ハルキは闇をそのままに、続く黒に足を進めた。

 広がる闇は、未だ沈黙を保ち色を深くする。



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