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漂泊の果て 命約の行方  作者: I
波乱
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二十四話 東へ


 暫く歩き、ハルキは思い出したように立ち止まる。

 その横を疲れたように黙って従っていたアルフォンは、急に立ち止まったハルキを怪訝そうに振り返る。


「どうした?」


「いや。思えば、これからどっちの方角に行くのか、私知らなかった」


「あぁ。・・・このまま、街道に出て東へ向う」


 目的地は告げず、アルフォンが方角を示す。


「そう。じゃ、その前に。とりあえず、お昼にしよう。フォンは着替えて」


 ハルキは買ってきた荷の中から、アルフォンの服を差し出す。

 それを受け取り、アルフォンは茂みで着替えた。青いシャツと黒のズボン、動きやすさを重視した火蜥蜴(サラマンダー)皮製の鎧と茶色のブーツ、そして薄茶けたフード。それらは、総て中古品だった。

 着替え終わると、既に昼食の準備が出来上がっていた。


「サイズは・・・大丈夫そうか。少し小さめだけど、許容範囲内ってことで。似合わないけど、フード被ったらちゃんと冒険者に見えるかな」


 顔を隠していない状態のアルフォンは、顔立ちや纏うオーラから高貴なためか、その少し古びた何処にでもいるような冒険者の格好は明らかに不釣合いだった。

 着替えた姿を見て薄く笑んだハルキの、失礼な感想を気に掛けつつも、アルフォンは服を見た時から疑問に思った事を訊ねた。


「何故新しい物を買わなかったんだ?」


「服装全部下ろしたての冒険者は、新米でもそうはいない」


 冒険者は、大概が平民の出だ。お金が其処まであるわけではないため、新人冒険者でも総てを新品で揃える者はいない。何かしら、中古の物がある。まして、アルフォンはハルキの先輩冒険者設定だ。それなりに使い古された物でなければ、不自然になってしまう。


「なるほどな。よくそこまで頭が回るな」


 中古の理由に納得したアルフォンは、ハルキの前に座ると用意された料理に目を移す。

 リディアで買った肉の塩漬けとオニオンを薄くスライスし、甘辛いソースと一緒にパンに挟んだ簡単なものだ。

 アルフォンにとっては一日ぶりのまともな食事だった。

 

「やっぱり、お腹空いてた?」


 アルフォンの目に浮かぶ空腹の色を見て、ハルキは苦笑して塗らした布を差し出し、手を拭かせる。


「まぁな」


 それを素直に受け取り、アルフォンは気まずげに同意する。

 アルフォンは基本的に表情が動かない。何時も眉間に皺を刻んでいるため、不機嫌そうだとは言われるが、感情や思考を他人に悟られた経験は少ない。身近な者でも、アルフォンの表情を読めるのは3~4人しかいない。

 だが、ハルキにはまだ数日の付き合いにも拘らず、心情の機微を読み取られていて、少し照れくさい。

 目線を逸らすアルフォンに苦笑し、ハルキは四つ作っていた内の三つを差し出す。

 

「お前は、それだけでいいのか?」


 一つでもそれなりの大きさではあるが、少し少ない。アルフォンがハルキを見れば、ハルキは肩を竦めて応えた。


「私は朝食べたし。胃袋も其処まで大きくはないからね」


「そうか」


「いただきます」


 相変わらずアルフォンには意味の分からない挨拶をして、ハルキはパンに手をつける。


「その、いただきますと言うのも、お前の国の言葉なのか?」


「そう。料理を作ってくれた人へ、生きる糧となってくれた生命に、それを育んだ総ての物に感謝する言葉かな。朝起きたら“おはよう”眠る時は“おやすみ”みたいな挨拶と同じ」


 ハルキの説明した不思議な風習に、アルフォンは頷きだけで返した。


「あぁ、そうだ!剣だけどさ」


 不意に、アルフォンが隣に立てかけていた剣を目にして、ハルキは自分の持っていた物を手に取る。


「これ使って」


 躊躇なく差し出されたそれに、アルフォンは数秒見詰た。差し出されたそれは、流石に武人として受け取ることを躊躇ってしまう。

 アルフォンが自分の愛剣を使う事は出来ないのは分かる。が、ハルキの剣を受け取ってしまった場合、ナイフがあると言えど、ハルキは見た目丸腰になってしまう。

 今後、他人に絡まれるのは確実にハルキだ。髪と目もあるが、その見た目年齢も、冒険者としては若すぎる。

 そうなった時、今まで以上にハルキの剣は見せ掛けだけでも、脅しになる。

 一々ナイフで相手にするのは、厄介だろう。

 ハルキはアルフォンの躊躇う理由に思い至り、苦笑して手を振った。


「ご心配なく。もしもの時は、術者で通すか、強硬手段取るから。口で言って分らない輩に、そこまで優しくしてやるつもりはない」


 きっぱり言い切るハルキに納得し、アルフォンは差し出された剣を受け取った。

 紫紺の魔石が嵌め込まれた黒輝石製の鞘。(つば)には古語が掘り込まれている、刀身は80ミント程度、10段階の硬度レベルで9と割合高い硬度であるブラックダイヤの短剣だが、見た目に反してずっしりと重さのある物だった。

 馴染みやすい重みに、アルフォンは少し意外そうに面喰い、確かめるように腕を上下する。


「思ったよりあるな」


「でしょ。使わないで済む様にするけど、飾りとして持っといて」


「そうなると良いがな」


 意地の悪い笑みに、ハルキは半眼で返す。


「フォンって、ほんと捻くれてるよね」

 

 アルフォンは自分の剣を布で包み荷物に紛らせ、受け取ったそれを腰に佩いた。

 愛剣より軽く、違和感を禁じえない。

 昼食を食べ終り、ハルキも着替えを済ます。

 足首まで覆っていた黒いマントを膝丈までで前開きの紺色の物に着替え、一つに括った髪をその中に入れる。

 マントの下からは、赤茶色のズボンに黒いベルト、モスグリーンのシャツと皮の鎧、茶色のブーツが見える。ベルトはズボンを固定する物ではなく、投擲ナイフを収納する物で右腰に革のポーチが付いている。

 マントで包まれた格好しか目にしたことの無かったアルフォンは、ハルキの冒険者見習いスタイルを珍しそうに見る。

 頭から爪先まで見て、再び上に視線を戻す。

 童顔と服装で、一見すれば10代の前半の少年だ。

 粗方の準備が整い、振り向いたハルキはアルフォンの視線に気付き、首を傾げる。


「何?」


「いや・・・・」


 先ほど、見た目に関して気にしていたハルキに感想を述べる事を躊躇われ、アルフォンは言葉を呑んだ。


「行こう」


 森を出て街道に入った二人は、東を目指し歩き出した。


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