表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漂泊の果て 命約の行方  作者: I
波乱
20/42

二十話 情報収集


 約束の酒場はすぐ見つかり、ハルキは戸を開いた。

 分かってはいたが、一応店内を見渡すも、男の姿は見当たらない。

 店内はまぁ広く、まだ赤の満月を過ぎたばかりの時間帯もあって、大分込み合っていた。

 町の人間より冒険者や旅人、傭兵が利用する店のようだ。

 少し視線を集めながら、ハルキは真直ぐカウンター席に座る。

 

「マスター、軽く何かお願いできますか?」


「はいよ」


 無表情に返事をする壮年のマスターは、ハルキのような奇妙な格好の客にも免疫があるのだろう。短く返しただけで、不躾な視線は寄越さない。

 と、近くの席から音を立てて椅子が引かれ、一人の男が立ち上がった。


「イヨォ、にぃちゃん。おめぇ、見たぞ。昼間、あれだ、ほら。広間にいただろうが」


 既に相当出来上がっているのだろう冒険者は、ハルキを指差しながら盛大に絡んでくる。

 

「ちょ!マードックさん。酔いすぎですって。すんません」


 男の連れらしい4人のうち一番若い少年が、マードックと呼ぶ男を止めにかかる。


「うっせぇ。ばぁか、言ってんじゃねぇぞロイ。おれゃ、まだ酔ってねぇ。それよか、おめぇ、仮面ヤロォ、歌え!おら、歌ってみろぉ!」


「マードックさん!すんません、ホントすんません」


 マードックを抑えながら、ハルキに謝り倒すロイに、ハルキは仮面の下で苦笑する。

 マードックとロイ少年の遣り取りで、店中の注目を集めてしまっている。

 ハルキが口を開く前に、それを仲裁するように他のメンバーの一人が声を上げた。


「いい加減になさい、マードック」


 フードを被ったその人物は、如何やら女であったらしい。

 二人を制し、女は被っていたフードを脱ぐ。フードの下から亜麻色の眼に、深い青色の艶やかな髪が現れる。20代後半の美女は、ハルキに艶やかに笑み謝罪する。


「連れがごめんなさい。でも、昼間の物語は本当に素晴らしかったわ。よければ、一曲お願いできないかしら。お礼に、一杯驕るから」


 どうやら、一行のリーダーはこの美女らしい。

 ハルキは口の端を上げ、その場で立ち上がる。


「麗しい女性の仰せとあらば、断るわけにはいきませんね」


 右手を左胸に添え、優雅に礼をとった。

 彼方此方で囃し立てる声や指笛が鳴る。

 ハルキは顔を上げ、苦笑して見守っていたマスターに向き直る。


「マスター、アレは楽器ですか?」


 ハルキが差した先に在ったのは、木で出来た四角い箱だった。

 マスターは眉を上げ、直に頷いた。


「そうだよ。オルガノと言ってね。お貴族様のリヴェラを簡易化した楽器だよ。ウチの爺さんが零落(れいらく)貴族の出だったんだ。アレはその名残でね」


「使っても?」


「弾けるなら構わんよ。埃を被ってるだけなら、使ってやってくれ」


 ハルキはそれに近付き、蓋を開く。

 それは、形も作りもハルキの見知った楽器と同じものだった。それを嬉しく感じながら、鍵盤を押す。音階も同じものだ。

 椅子を引き座るハルキに、客は好奇心の眼を向けていた。

 まずは定番。ハルキが弾いたのは、猫の曲だ。それから、何曲か続け、歌を交えて弾いたりもした。

 小一時間ほど引き続け、ハルキの即興リサイタルは評判のうちに幕を閉じた。途中、音に誘われて入ってきた人間もいて、店内は満員御礼だ。 

 ハルキが元の席に着くと、周りに座っていた客たちが話しかけてきて、ハルキはそれをにこやかにやり過ごす。


「どうぞ」


 マスターが差し出されたのは、色々な料理が載った皿とお酒。

 ハルキがマスターを見る。


「サービスだ。良い物を聞かせてもらったよ。何より、今日はお客さんのお陰で稼がせてもらえるからね」


 マスターは店内を見て、悪戯っ子のように笑う。


「では、在り難く」


 ハルキはマスターの申し出を素直に受け、料理を食べ始めた。


「よぉ、兄弟!イヤー、よかったぜぇ。おら、飲め」


 突然ハルキの肩に凭れかかってきたのは、先ほどの酔っ払い、マードックだった。


「マードックさん!でも、ホントすごかったっす」


 マードックを諫めつつ、ロイがキラキラと眼を輝かせて誉めそやす。


「ありがとう」


 礼を言ったハルキの腕を、マードックが掴んで引張った。


「オラ!こっち来い。飲みなおすぞぉ」


 慌てるロイと傍若無人なマードックに苦笑しつつ、ハルキは引張られるまま付いて行く。

 

「いらっしゃい。待ってたわよ、吟遊詩人さん」


 マードックたちの席に連れて行かれ、女がハルキを隣の席に促す。


「お邪魔します。と言っても、ボクも人を待ってるので、暫くの間だけですが」


 席に着くなり、釘を刺しておいて、ハルキはテーブルを囲む人間を見渡す。

 ロイとマードックを除き、美女と40代位の隻眼の剣士と20代後半の少し細身の青年だ。


「紹介するわね。私は、マリア。こっちの無愛想なおじさんは、マイケル。その優男はリックよ」


 マイケルは目線だけで頷き、リックは手をさしながら軽く挨拶を交わす。


「ボクはシュンです。皆さんは、冒険者ですか?」


 本名や愛称を言うわけにはいかないハルキは、読みを変えて名乗る。


「そぉだぜ」


 マードックが上機嫌に身を乗り出して応える。


「ずっと、シュヴァイツに?」


「いえ、大陸中を定期的に。今は、骨休め。シュヴァイツはここ3ジューンほどっすよ」


「へぇ。如何ですか?シュヴァイツは。今何かと大変みたいですが」


「ナァンだ、オメェ。シュヴァイツは初めてなのか?」


「えぇ。旅を始めたばかりで、シュバイツに入ったのはまだ1ジューン前ですからね。これから首都のほうへ向おうと思ってるのですが、色々物騒になってきてると聞くので、よろしければご教授願えますか」


 (おだ)てつつ、ハルキはマードックに尋ねる。


「ご教授って、やぁめろよ。まぁ、特別に教えてやろぉ」


 照れなからも、マードックは酒を煽る。


「今、帝都は結構緊迫してるぜ。平民とかはそうでもねぇけどよ、空気が緊迫した感じだな」


 マードックが少し声を低くして話すのに、ロイが頷く。


「シューツァンとの開戦も噂んなってるっすけど、帝都のほうは皇帝の後継者問題で、上が荒れてるみたいっすからね。崩玉も噂されてるくらいっすよ。空気が暗い暗い」


「そうなんですか!?皇帝は其処までお悪いんですか」


「憶測でしか在りませんがね。城下で噂になっていたくらいでありますから。長くはないのではないでしょうか。そんな時期に、皇太子殿下が国境のグランディルへ視察へ行かれたので、城下は益々開戦を危惧しているのであります」


 リックが詳しく補足する。


「へぇ。じゃ、ボクのような他所者が行ったら、爪弾きにあいますかねぇ」


 グラスに口をつけながら、ハルキが軽い口調で零せば、マリアが笑みながら賛同する。


「そうね。特に、シュンは怪しいから。なんなら、如何?転職して、私たちと来ない?」


「ソォダ、そぉだ。兄弟、一緒に来い!だいったい、おめぇ、その仮面!怪しすぎんぞぉ!取れ!取っちまえ!」


「ちょっ!マードックさん、失礼っすよ」


 再び絡んでくるマードックに、ロイが押さえ込む。


「そうよ、マードック。シュンにはシュンの身の上ってものがあるんだから、口を出すのはやめなさい」


 マリアの諫めに、マードックはうッスと返事をして黙る。


「そんな大層なことじゃないんで、気にしないで下さい。ただ、人様に見せられるような顔じゃないってだけなんで」


 フォローを入れるハルキに、マイケルが無言で酒を突き出した。

 驚きに眼を見開いたハルキは、苦笑してグラスを差し出す。


「それにしても、この辺りでも何かあったんですか?」


 ハルキは周囲を見回し、少し声を下げてマリアに尋ねる。


「何故かしら?」


 マリアは意外そうな顔をして、首を傾げた。その拍子に、長い髪がサラリと頬に流れる。


「街道でもですが、街に入ってからも辺境警備兵や傭兵が殺気立ってますから。大きな野盗集団でも出たのかと」


「そうね。あの空気はね」


 マリアは頬に手を当てて苦笑する。その後を、ロイが接ぐ。


「違うッスよ。此処だけの話っすけど、どうも数日前に、ここいらでどっかのお偉いさんが襲われたらしくて。今その襲撃犯が、ジュノーブに逃げ込んでるらしいんっす」


「へぇ。どうりで」


「今、ここらはシューツァンとのこともありますゆえ、国境付近の街には傭兵が増えておりますからね。そういった者たちまでも、意気込んでいるのであります」


 頷いて聞いていたハルキは、ふいに顔を出入り口に向けた。

 それに気付いたマリアとリックがそちらへ視線を向ければ、丁度扉が開き、二人の男が入ってくるところだった。

 それに反応するように、ハルキは立ち上がる。


「どうやら、待ち人が来たようです。貴重なお話、ありがとうございました。楽しかったです」


 マリアたちに挨拶すれば、マリアはハルキと握手しながら、妖しい笑みを唇に乗せ笑む。


「私も楽しかったわ。困った事があったら、ギルドの伝言板で何時でも相談してね。シュン」


 楽しそうに笑うその眼を見ながら、ハルキも口角を挙げ、その手の甲に口付ける。


「頼もしい限りです、レディ・マリアンヌ」


 ハルキの口にしたその字に、マリア以外の者が息を呑む。

 それを眼の端に捕らえながら、ハルキはテーブルを後にした。


**** 


「なかなか喰えないお嬢ちゃんだのぉ」


 それまで黙っていたマイケルが、口を開く。それに応えるように、ハルキの背を見詰ながら微笑むマリアは、笑みを深くして頷いた。


「えぇ、そうね」


「ん?マイク、アイツは男だぞ」


 マードックがマイケルに訂正を入れれば、マイケルは黙すだけで何も言わない。

 マリアも笑っているだけで、特に何も言わずに二人の男と出て行くハルキを最後まで見送った。

 レディ・マリアンヌ。冒険者の中でも数少ないSクラス唯一の女剣士。マリアンヌ・ラズヴェ・マリアルその人は、面白い同業者の言動を振り返り、一同を見渡した。


「もう暫く、この国にいることにするわ。リック、もっと情報を集めておいて」


 何時になく上機嫌なマリアに、マイケル達は了承の返事を口にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ