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漂泊の果て 命約の行方  作者: I
波乱
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十話 呼び名

 動いても問題なくなった5日目の夜、ハルキとアルフォンは明日の出発について話し合っていた。

 

「今、恐らくリディアの街がここから一番近い街だ。大きくないが、そこで取敢えず旅に必要な物を(そろ)える」


「だね。その格好目立つし、一人旅用の準備はしてるけど、貴方の分までは流石に用意してないしな」


 ハルキが頷くと、いやに強い視線を感じ顔を上げれば、難しい顔のアルフォンと眼があう。


「何?」


 訳が分からずハルキが尋ねれば、アルフォンは気になっていたことを指摘した。


「アルだ」


「は?」


 言葉の足りないアルフォンの言いたい事が分からず、ハルキは益々首を傾げた。


「だから、アルと呼べと言っている」


「・・・・呼んだと思うけど」


「お前は貴方としか呼んでないだろ」


 思い返してみて、確かにアルフォンの名を呼んだ覚えがない。

 

「・・・・確かに。普段、アルって呼ばれてるの?」


「身近な者だけだが」


「ん~。じゃぁ、フォンで」


「?別に構わないが」


 その意図が分からず、逆に首を傾げたアルフォンにハルキは説明を加えた。


「追われてるんでしょ?用心に越したことはないからね。愛称(あいしょう)で連想されても困る」


 ハルキの用心深さに、アルフォンは感心しながら頷い。


「そうだな」


「フォンのその見た目って、この国じゃ普通?」


 ハルキはアルフォンの容姿を見て、問いかける。

 初めて呼ばれた響きに、くすぐったいものを感じながら答える。

 

「髪色は、珍しくないが・・・虹彩(こうさい)が問題だな」


「へぇ。その色、珍しいんだ」

 

 アルフォンの言葉に、ハルキはまじまじと燃える紅を見詰る。

 何度見ても、美しいと感じる。

 思わず見入っていると、居心地の悪いのかアルフォンの方から目を逸らした。


「あまり見るな」

 

 幼い頃から、この色は忌諱(きい)されていた。紅眼は、精霊に好かれやすい。皇族の中で先祖がえりが強い証拠と、皆喜んではいたが、その実影で恐れられていたのは知っていた。血のように赤いそれを、母たる人物が(おそ)れていたのも知っていた。

 世話役から侍女まで、皆が自分と視線を合わせずにいた。例外であった、父と師と、今では自分の側近である幼馴染も、時折何かを畏れるように逸らされる時があるのを知っている。


「綺麗だよね」


 それが何のことか分からず、アルフォンは怪訝そうにハルキに視線を戻す。


「とても、綺麗な色だね。血みたいに赤くて、太陽みたいに熱い色をしている」


 それは、よく聞きなれた言葉だ。血のように赤いと。鮮血を思わせて恐ろしいと。だが、それを綺麗だと言われる日が来ようとは思わず、アルフォンは驚きに固まる。


「・・・・・・・・それは、褒め言葉なのか?」


 血を綺麗と言う人間は居ない。居たとしたら、変態か殺戮者(さつりくしゃ)ぐらいだ。忌むべき物に喩えながら、綺麗と言うハルキにアルフォンは思わず確認を取ってしまう。


「え?勿論。血は育みの色でしょ。生命は血なくして生きてはいけない。流してはいけないけど、愛すべき大切な命の源だ。それに、始まりと終りの色。朝陽と夕陽みたいで、いいな」


「っ!」


 (うらや)ましそうにアルフォンの眼を覗き込むハルキに、先ほどとは違う意味合いで体ごとそれを逸らす。


「?あぁ、ごめんごめん。不躾(ぶしつけ)だったね」


「・・・・・・・・・・・・・・いや」


 急に背を向けたアルフォンの行動を違う意味で捉えたハルキは、ジロジロ見てしまった無礼を詫び、考えるように顎に手を当てる。

 一方アルフォンは、ハルキの予想外の答えに何故か心がざわめき、耳に暑さを覚える自分に、大いに焦っていた。短くハルキに返したが、気持ちが落ち着いておらず、まだハルキを見る事ができない。


「にしても、目か~。サングラスあればよかったけど、こっちそんなもんないしな。帽子もな、二人して被ってたら怪しすぎるし。どうする?」


 まだ少し耳に暑さを感じたが、それを気のせいにしてハルキに向き直る。気持ちを落ち着けるため、いつものように無表情を作りつつも、僅かに視線を逸らして答えた。


「フードで顔を隠せば、何とかなるだろう」


「フードって・・・余りにも怪しすぎるでしょ。吟遊詩人に、フード被った男って・・・悪目立ちしない?」


 フードを被った人間自体は別段珍しくない。傭兵や冒険者の多い酒場は、雨除けや日除けになるフードを被る人間が居ない方が少ない。

 が、それがハルキとセットになれば話は別だ。

 ハルキの髪と目は、この世界では珍しいどころか、アルフォンも始めて見る。それを隠すための吟遊詩人スタイルだ。顔まですっぽり隠してくれる帽子は必須。

 フードでも問題はないが、フードを被った二人組みでは、それもそれで怪しすぎる。


「・・・・じゃぁ、お前は従者の格好をしては如何だ?」


「この目と髪は目立ちすぎる」


「確かにな」


 目立つ容姿は、いらぬ輩に絡まれやすい。追っ手以外の(わずら)いごとまで、気にしなければならなくなってしまう。

 思いも寄らぬことで問題が発生し、ハルキとアルフォンは話に詰まった。


「・・・・・・・・・・・・いっそ、目立つか」


 ハルキの呟きに、アルフォンは怪訝そうにハルキを見る。


「冒険者とその従者。その方がまだ、怪しい二人組みより目立たない。私の方が注目されておいた方が、敵の目も(あざむ)ける。異国の容姿の子供連れ。この見た目なら、シューツァンの間者と疑われることはない。どう思う?」 


 ハルキはシュヴァイツ人である、アルフォンに意見を求める。


「確かに、一理あるな」


 逆転の発想に、アルフォンは同意した。今目立つのが不味いのは、アルフォンだ。見た目はハルキのほうが目立つだろうが、子供にしかみえない容姿は、逆に追っ手の目からは目立ちにくくなる。


「決まり。じゃ、それで行こう。設定は・・・そうだな。私は孤児で、自分の身の上は分からない。フォンに拾われて、一緒に旅をしている、冒険者見習いってとこで」


 楽しそうに自分の偽経歴を決めていくハルキに、アルフォンは苦笑する。


「そこまで決めなくてもいいだろう」


 途端、ハルキはアルフォンにビシリと指を差し叱責(しっせき)する。


「甘い!これは、生きるか死ぬかの死活問題です!甘い、甘すぎるぞ、アルフォン君」


 何かがハルキの心のスイッチを押してしまったらしく、立ち上がりアルフォンを見おろしながら腕を組んでの説教が始まる。


「いい?私たちが浮くことは確実!人は珍しい物には興味を引かれる。何処から来たの?何処の出身?如何して旅してるの?連れの人は何してるの?e.t.c.なんて私だけでなく、貴方にも訊いてくることは請け合い。そうなった時如何する?私と貴方の言ってることに齟齬(そご)が生じたら、益々以って疑問に思う人間が出てくる!目立つなら目立つ事を想定した上で、予測できうる自体に供えなければ!!何より、キャラ設定は大切!成り切るならば、徹底的にいきます!!!」


 若干興奮気味に後半意味の分からない事を捲くし立てるハルキに気圧されながらも、その内容の正しさに、アルフォンは首を縦に振る。

 しかもその具体性から、既に経験済みだと推測される。


「そ、そうだな。分かった。で、俺は如何すればいいんだ?」


「う~ん。基本しゃべらないで。寡黙な冒険者。来る者皆、ばっさり黙殺。過去に傷を持つ謎の剣士、的な?フォンは、元々(もともと)排他的(はいたてき)なところあるでしょ?返ってそっちの方がボロが出ないだろうし。気疲れもしないでしょ」


「まぁ、その方が助かるが・・・ハル、お前楽しんでるだろう」


 突っ込み所満載の設定に、何となく棘を感じるが、アルフォンは賢明にも、それ以上の追求をやめた。


「シュヴァイツには、1ジューン前に入国。後は追々考えよう。二人の過去について、何か人に話したら、その都度お互いに報告ってことでいい?」


「あぁ」


 話が一段落ついたところで、ハルキはお茶を入れる。


「あ、それからリディアには、私一人で入るから。フォンは紫狼と街の外で待っててね」


 ハルキが思い出したように言い置いて、アルフォンに茶を渡す。


「そうだな。この格好で、人目に付くわけにはいかないか」


「うん。ギルド寄ってくるから、ちょっと遅くなると思うけど」


 その言葉に、アルフォンは意外そうにハルキを見た。


「本当に冒険者なのか?」


「まぁね。旅をしながら生活費稼げるし、色々と都合が良かったから」


 そう言って、マントの下から冒険者の証である階級章を出す。

 ギルドとは全世界にある冒険者のための組合だ。冒険者は、登録すれば誰でもなれ、身分証の類は必要ない。民間経営で国を(また)ぐ機関は、ギルドくらいのものだ。

 そして、その本部はシュヴァイツの、旧都メルヴァにある。

 依頼内容も多岐に渡り、商隊の護衛や捜し物、採掘や野獣退治、依頼によっては国からのものも珍しくない。

 そのため、冒険者はその実績と経験に基づきG~Sまでの階級が存在し、最低ランクのGから、ガーネット・コーラル・アクアマリン・サファイア・オパール・ルビー・オブシディアン・ダイヤ、と階級ごとに証章に石がはめ込んである。

 ハルキの階級章はコーラル、Fクラスと言う事だ。


「紫狼を連れて行かないで、いいのか?」


 買い物をするなら荷物ができる。一人で行くよりは、紫狼を連れて行ったほうがハルキにとっては都合がいいはずだ。


「紫狼にはフォンに就いていて貰った方がいい。見つかったと思ったら、紫狼に乗って逃げてね。紫狼、フォンをよろしくね」


 ハルキは紫狼に近付き、その頭を撫でる。

 傷が塞がったとはいえ、アルフォンはまだ安静にしておいた方が良い身だ。闘っても勝ち目はないだろう。

 グランウルフは俊敏性に関しては、角鹿(コンディアに次ぐ速さだ。

 気性や獰猛性に関しても、護衛としては申し分なく、アルフォンを一人にするよりは、保険をかけておいたほうがハルキも安心して買い物へ行ける。


「・・・そうか」


 ハルキの説明に、アルフォンは数秒その顔を見て、短く答えた。


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