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東海道の弓取たち  作者: 双鶴


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18/20

第十八話 氏規、逝く

慶長五年── 一六〇〇年。

関ヶ原の戦が終わり、

天下は再び大きく動こうとしていた。


その激動の年、

ひとりの男が静かに生涯を閉じた。


北条氏規──

かつての北条三郎、

そして三人の誓いの一角。


河内狭山の館は、

秋の風に包まれていた。


病床の氏規は、

静かに目を閉じていた。


「……兄上……

 私は、生き残りました。

 だが……それで良かったのでしょうか」


その呟きは、

誰にも聞こえないほど小さかった。


だが、

胸の奥には確かな誇りがあった。


──生き残ること。

 それが、三人で交わした誓い。


氏規は、その誓いを守り抜いた。


氏規の訃報は、

駿府に暮らす氏真のもとにも届いた。


氏真は、しばらく言葉を失った。

そして、静かに筆を取った。


 『散りし花 なお香を残す 秋の風

   友の名のみは 胸に生きたり』


書き終えると、

氏真はそっと目を閉じた。


「氏規……

 そなたは、最後まで誓いを守ったのだな」


その声は震えていたが、

涙は静かに頬を伝った。


江戸城で政務に追われていた家康のもとにも、

氏規の死は伝えられた。


家臣が言った。


「殿……北条氏規殿が……」


家康は、しばらく目を閉じたまま動かなかった。


やがて、静かに言った。


「……そうか」


それだけだった。


だが、その沈黙には、

言葉よりも深い悲しみが宿っていた。


家康は、遠い昔を思い出した。


──駿府の庭で交わした誓い。

 “生き残る”という、あの小さな約束。


「氏規……

 そなたは、よく生きた」


その言葉は、

誰にも聞こえないほど小さかった。


三人の誓いは、

戦国の嵐の中で生まれ、

数十年の時を越えて続いてきた。


だが──

その一角が、静かに崩れた。


氏規の死は、

三人の誓いが“永遠ではない”ことを示すと同時に、

その誓いが“確かに存在した”証でもあった。


氏真は和歌を詠み、

家康は沈黙し、

それぞれの胸の奥で、

氏規という友の名を静かに刻んだ。


──三人の誓いは、

  まだ終わっていなかった。


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