表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東海道の弓取たち  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/20

第十二話 家康の台頭

元亀元年── 一五七〇年。

三河の空は、春の光を受けて明るく広がっていた。


松平元康──

いや、すでに“徳川家康”と名乗り始めた若き武将は、

三河を固め、独立した勢力として歩み始めていた。


その姿は、

かつて駿府で蹴鞠をしていた少年の面影を残しながらも、

どこか遠い存在になりつつあった。


家康は、戦の中で磨かれていた。

観察力、忍耐、そして決断力。

少年の頃から持っていた静かな強さが、

今や武将としての風格へと変わっていた。


家臣が言った。


「殿。三河は安定しつつあります。

 今こそ、遠江へ手を伸ばすべきかと」


家康は、静かに頷いた。


「焦るな。

 国を治めるとは、土を耕すようなものだ。

 急げば根が枯れる」


その言葉には、

かつて氏真から学んだ“静けさ”が宿っていた。


一方、小田原の氏真は、

北条の庇護のもと、静かに暮らしていた。


氏規が訪れ、言った。


「家康殿が、三河を固めたそうです」


氏真は、少しだけ目を伏せた。


「……そうか。

 あの竹千代が……」


胸の奥に、複雑な思いが渦巻いた。


誇らしさ。

寂しさ。

そして、取り残されるような痛み。


氏規は、その心を敏感に感じ取っていた。


「氏真様。

 家康殿は、そなたを忘れてはいません」


氏真は、かすかに笑った。


「分かっている。

 だが……人は成長すると、

 どうしても距離が生まれるものだ」


その夜、氏真のもとに一通の書状が届いた。


差出人──徳川家康。


  『氏真様

   私は、三河を固めました。

   しかし、あなたを忘れたことは一度もありません。

   道は違えど、誓いは生きています。

   どうか、心を強く持ってください。

   ──家康』


氏真は、静かに目を閉じた。


「……竹千代……

 そなたは、遠くへ行ってしまったな」


だが、その声には悲しみだけでなく、

どこか誇らしさも混じっていた。


氏規は、家康の台頭を喜びながらも、

胸の奥に小さな不安を抱いていた。


「家康殿が強くなるほど……

 北条と徳川の関係は、難しくなる」


兄たちはすでに、

徳川を警戒し始めていた。


氏規は、夜空を見上げた。


「……どうか、三人の誓いだけは……

 揺らぎませんように」


家康は武将として台頭し、

氏真は庇護のもと静かに暮らし、

氏規は外交官として板挟みになり始めていた。


三人の道は、

かつてないほど遠く離れつつあった。


だが──


その心の奥底には、

少年の頃に交わした誓いが、

静かに、しかし確かに息づいていた。


──たとえ道が違えど、

  互いを見捨てぬ。


その誓いだけが、

三人を繋ぎ止めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ