温かい痛み①
夜ご飯を食べてから、すぐにベッドに入った。
どうにも体が重かった。
リビングからはテレビの音と、スコットさん夫妻とハルカの話し声がやけに遠く響いてきた。
二段ベッドのすぐ目の前にある天井が、近くなったり遠くなったりする感覚を覚えた。
風邪気味なのかな。でもいいや、寝てしまおう。寝たら元気になっているかもしれない。
そう思って目をつぶると、あっという間に意識は遠のいていった。
ーーー
目が覚めた時には、皆は寝静まっていた。
体が重い。頭が痛い。悪寒がある。額に手を置くと、熱いのがわかる。
風邪だ。
僕はもう一度寝ようとしたけど、頭が痛すぎて寝られなかった。
仕方なくベッドから出て、解熱剤を取りに行こうとした。
だけど、足がもつれて勢いよく壁にぶつかり、ドンッという音を立ててしまった。
すぐに「カナタ……?」という声が聞こえてきた。
誰かを起こしてしまったらしい。
僕は構わずリビングへふらふらと歩いて行った。
その時、後ろから腕を支えられた。
振り向くと、スコットさんがいた。
「カナタ……大丈夫か?すごい熱じゃないか」
「大丈夫です。ごめんなさい、起こしてしまって……」
その時、部屋の照明がつけられた。
スコットさんは心配そうな顔をして、僕の顔を覗き込んでいた。
その後ろには、夫人とハルカもやってきていた。
皆を起こしてしまったらしい。
「……君、すごい顔色悪いよ。ちょっと待ってて」
ハルカは薬箱から、体温計と解熱剤を出してきた。
その間、スコットさんは僕をリビングの椅子にそっと座らせてくれた。
夫人は、即席の氷枕と、白湯を作ってくれていた。
薬を飲んでから体温計で熱を測ると、39度を超えていた。
「……辛いだろ。ベッドに行ったほうがいい。歩ける?」
ハルカはそう言って、僕の手を取ろうとしたけど、僕は小さく首を振った。
「さすがにそこまでじゃない。大丈夫だよ」
そう言って、僕は自分の足でベッドへとふらふら歩いて行った。
大丈夫と言ったけれど、視界がぐらぐらと揺れて、いつもなら10歩もないベッドへの道のりが、ひどく遠く感じられた。
なんとかベッドにたどり着いて横になると、僕の後頭部に夫人が氷枕を置いてくれた。
後頭部の熱が、氷枕へと移っていくのがわかる。
ひんやりとして気持ちがよかった。
三人は、なおも僕のベッド脇にしゃがみ、見守ってくれていた。
僕は居心地が悪くなって、「……もう、本当に大丈夫です。あとは寝ていれば治ると思いますから」と言って、そっと壁のほうに目を向けた。
スコットさんは「わかった。何かあればすぐに声をかけるんだよ」と言って、自分のベッドへと戻った。
夫人とハルカも、それぞれのベッドへと戻っていった。
部屋の照明は暗くなったけど、いつもよりも少しだけ明るく設定されていた。
僕は後頭部から伝わる冷たさを感じながら、痛みが治まるのを待った。
だけど、なかなか痛みは引いてくれなかった。
それでも目をつぶっていたら、またすぐに意識は落ちていった。




