不器用
月明かりの下で、ハルカから逃げるように部屋に戻った僕は、ベッドに入って布団にくるまった。
少しして、彼女が戻ってくる足音が聞こえた。
いつもならすぐに上のベッドに上る音が聞こえるのに、今はその音が聞こえなかった。
僕のベッドの前に立っている気配を感じる。
それから少しして、上のベッドへと登って行った。
布団の中で、僕は考え事をしていた。
ハルカはきっと、スコットさんを介抱する僕を見て、僕を知った気になったのだろう。
正直、悪い気はしなかった。
だけど、僕の深いところに踏み込んでほしくなかった。
底の浅い人間である、という事実に気づかれて、失望されるのが目に見えていたから。
そこまで考えて、僕は思わず笑ってしまった。
そんなところに踏み込まれる前から、僕はとっくに底の浅い人間だとバレているだろうに。
自己嫌悪に飲まれながら、いつの間にか意識は落ちていった。
ーーー
「起きて、朝だよ」
朝、ハルカの声で目が覚めた。
少し寝坊していたらしい。
気づけば朝ごはんの匂いが漂っていた。
「……ありがとう」
ハルカにお礼を言って、僕はベッドからのそのそと這いずり出た。
「君、すごい寝癖だよ。後で整えなよ?」
そう言ってハルカは笑った。
その笑顔を見て、僕の胸はまたしても、ちくりと痛んだ。
どうして、僕にそんな笑顔を向けられるんだ。
リビングに向かうと、スコットさんと夫人は食卓に並んでいた。
スコットさんはマスクをしていたが、ニコニコと笑いながら「カナタ、昨日はありがとう。だいぶ楽になったよ」と言ってきた。
夫人も「夫を助けてくれてありがとう。あなたはとっても優しいわね」と言った。
胸がむずがゆくて仕方がなかった。
「……どういたしまして」
としか言えなかった。
ーーー
今日の訓練に、スコットさんは不参加だった。
楽になったとはいえ、病み上がりなのだから妥当な判断だろう。
その訓練の間も、僕はずっと昨日の夜のことが頭から離れなかった。
正確には、あの時のハルカの寂しそうな顔が。
ハルカに悪気がないのはわかりきっている。
それどころか、きっと善意で僕に触れているのだろう。
だけど……僕は、ハルカや、スコットさん夫妻の気持ちをどう扱っていいのかわからないんだ。
ごめんよ。あなたたちの温かい気持ちに、僕はふさわしくないんだ。
そんなことを考えていたせいか、訓練の成績はいつもよりもかなり悪かった。
きっと寝不足のせいだろう。
それでも訓練には最後まで参加した。
夫人は「よく頑張ったわね」と言ってくれた。そんなに調子が悪そうに見えたのだろうか。
だけど、確かに体が少し重い。やはり疲れたようだ。
僕はふらふらとプレハブへと戻っていった。
途中、ハルカは心配そうに横を歩いてくれて、「大丈夫?」と聞いてきた。
僕は「大丈夫。少し疲れただけだよ」と答えるだけだった。
それ以上、彼女は何も言ってこなかった。
幸い、明日は訓練がない休養日だ。ずっと休んでいられる。
今日は早く寝よう。




