表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

明かり

この生活が続いてはや数か月が経ち、外の風が一気に冷たくなってきていた。

寒くて着込んだトレーナーはランニングで汗びっしょりになり、そこに風が吹くと体温が一気に持っていかれるような感覚だった。

ハルカは「暑いのに寒い!」とわめいていた。


そんな寒さが厳しくなってきたある夜のことだった。


隣のベッドのスコットさんがうめき声をあげていた。

最初は寝言だろうと思っていた。

しかし、様子がおかしい。


寝室のわずかな照明の光を頼りに彼のほうに目を向けた。

少し呼吸が乱れているようで、時々咳き込んでいた。

ハルカと夫人は寝ているようだった。


このまま黙っているのも寝覚めが悪いので、僕は声をかけた。

「スコットさん……大丈夫ですか?具合悪いんですか?」

スコットさんは小さな声で答えた。

「ああ、ごめん、起こしてしまったかな……ちょっと、風邪を引いたのかもしれない」


風邪か。無理もない。

体を酷使しているし、ここ最近の寒さだ。風邪ぐらい引くだろう。

僕はベッドから出て「少し待っていてください」と伝えて、キッチンに行った。

冷凍庫を見るけど、氷枕なんて準備されていなかった。

収納箱からビニール袋を取り出し、音をたてないように気を付けつつ、たくさんの氷と少しの水を入れた。

出来た氷枕にタオルを巻いた。他に、体温計と飲み水、解熱剤を持ってからスコットさんの元へと戻った。


彼は体を起こしてベッドの縁に腰かけていた。

飲み水と解熱剤を渡した時に触れた彼の手は、かなり熱くなっていた。

持ってきた体温計を彼の額に当てる。一瞬でピッと電子音が鳴り、モニターに38度を超える数字が表示されていた。

これは辛いだろう。

「無理しないでください。教官に連絡しますか?ほかに欲しいものはありますか?」

そういう僕を見て、彼は小さく首を振った。

「大丈夫。なに、よくある風邪だよ……カナタ、ありがとう」

部屋は薄暗いけど、スコットさんの笑顔が見えた気がした。


横になったスコットさんの頭の下に、タオルに巻いた氷枕を敷いた。

彼はまた「ありがとう。冷たくてだいぶ楽だよ」と言って、布団をかけなおしていた。


僕は自分の寝床へ戻ってからも様子をうかがっていたけど、徐々に彼の呼吸は落ち着いていき、そのまま寝息が聞こえてきた。

解熱剤と氷枕が効いたのかもしれない。


時計を見た。時間は夜の2時を指していた。

目が覚めてしまった僕は、そっとベッドから抜け出した。

途中、スコットさんが起きても大丈夫なように、薄暗い照明をほんの少し明るくしておいた。


ーーー


厚着をしてから、静かにドアを開けて外に出た。

その瞬間、昼よりもさらに冷たい夜風が僕の顔を撫でていった。

まだ季節は秋にもかかわらず、荒野の夜は既に日本の冬よりも寒くなっていた。

さすがに訓練センターの電気はほとんど消えていて、航空機の音も聞こえなかった。

風に乗った燃料の匂いもなく、まるで匂いすら寝静まっているようだった。


空を見上げるとまばゆいぐらいの満月が浮かんでいる。

その明るさで、周辺の星々は霞んでいた。


僕は白い息を吐きながら、プレハブの壁にもたれかかって、じっと空を見上げていた。

同じ空を見上げているはずなのに、日本にいた時とは違う、胸に沁みるような感覚が広がっていた。


その時、プレハブのドアが控えめな音とともに開いた。

僕が思わずビクッと身構えると、ハルカが出てきた。

「やっ」

月に照らされた彼女は、穏やかな笑顔を浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ