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遥か彼方へ①

月への出発日当日。

僕たちは隔離施設内で船内用の宇宙服に着替えて、打ち上げロケットの発射場に歩いていた。

訓練でお世話になった、あのムキムキの教官に先導されていた。訓練前の最初の説明でもあったように、この人がパイロットを務めてくれる。


「この宇宙服、かっこいいよね」

「私たちも、これを着れる日を楽しみにしていたんだ」


ハルカがはしゃいだ様子で声を上げると、スコットさん夫妻も興奮した様子で答えていた。


「宇宙服と言うか船内着だけどね。まあ、確かにかっこいい」


確かに白と黒でコントラストを強く意識したデザインで、センスも良いし動きやすい。

ライダースーツをさらに分厚くしたような見た目だ。

万一、ロケット内に問題が起こったら、しばらくは生き延びれるらしい。そんなことはないことを祈るけど。


僕たちはそのまま、普段は立ち入り禁止区域である、ロケットの発射エリアにやってきた。


「さあ、準備はいいか?ゲートを開くぞ!」


ムキムキの教官が白い歯が見える笑顔で、ゲートを開くボタンを押した。

大仰なゲートが、これまた大仰なアラート音を出しながらゆっくりと開く。きっと、参加者をワクワクさせるための演出も兼ねているのだろう。


ゲートが少しずつ開くと、灯油のような,ガスのような臭いが強く鼻についた。

ハルカは鼻をつまんで眉に皺を寄せていた。



ゲートが完全に開いてから、エリアに足を踏み入れると、目の前にそれが現れた。


テレビや講義で見ていたから、形は知っていたはずだった。

だけど、目の前に現れたそれは、あまりにも巨大な金属の塔のように見えた。

直径は約10メートル、高さは、なんと200メートル以上あるらしい。

何度も打ち上げられたためか、船体には無数の傷が見えた。それらの傷が太陽光に照らされて、より存在感を際立たせた。

知らない人が見たら、未知の建造物に見えるだろう。


これが、僕たちが乗るロケットなのだ。


「……こんなにおっきいんだ」

「…信じられない……」


ハルカとスコットさん夫妻は口を開けたまま、ただ黙って見上げていた。

僕も例に漏れず、圧倒されていた。


ぶるっ、と体が震えた。

さすがに緊張した。人が、一般人が乗れるようなレベルを超えている、と本能でわかった。


「さあ君たち、記念撮影はほどほどにな!これからこれに乗り込むぞ!」


教官が笑顔で手招きをした。

訓練の時は笑顔でスパルタ指導をするから鬼だと思ったけど、今は頼もしいと思えた。


ロケットの座席は、上部にあるらしい。

そこまで、ロケットのすぐ横にある高速エレベーターで登っていく。

つまり、100メートル以上登るのか……すごいな。


エレベーターに乗り込むと、ガラス窓から見える地上がどんどん遠くなっていく。僕たちがいた訓練センター全体を見下ろせる。僕たちが過ごしたプレハブも、豆粒のように小さく見える。いよいよ、戻れないところへと行くのだ。


エレベーターに備え付けられた高度を伝える表示は100を超え、さらに登っていく。

視線をふたたび外へ向けた。今度はロケットがある方へ。

相変わらず巨大すぎて、エレベーターからは先端が見えないので実感が湧かないが、すでに100メートル以上登ってきていることになる。


その100メートルをゆうに超える下の部分には、巨大なエンジンと膨大な量の燃料が入っているのだ。

この巨大なロケットを地球の重力から解き放ち、宇宙空間を孤独に突き進み、月まで連れていき、さらに地球へと帰還する。

あまりにも過酷な旅だ。だけどこのロケットは文句ひとつ言わず、人を乗せて、嘘みたいな旅路を何度も繰り返しているのだろう。

それを実現したエンジニアの執念に、健気に任務を遂行するロケットに、僕は急に想いを馳せてしまった。

これから宇宙へ行くという現実が、きっと僕の思考回路を強く刺激しているのだろう。


僕の横に立っていたハルカが「カナタ、口が笑ってるよ。楽しみなの?」と話しかけてきた。

「…そりゃ、さすがにね。これはテンション上がるだろう」

と、冷静を装って答えたけど、僕の胸はずっと高鳴っていた。

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