表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

共同生活の終わり

月へ行くための訓練も、気づいたら終わりが近かった。

一年という訓練も、過ぎてしまえば長いようで短く…いや、短くはない。かなり長かった。

だけど僕は帰らなかった。

一年に及ぶ共同生活しながらの訓練なんて無理だと思ったのに。


出発まで二週間を切ったころから、

プレハブで過ごしていた僕たち4人は、隔離施設に移った。

とは言っても病室のような狭苦しいところではない。

訓練センターの中にある高い建物の一角に、まるでホテルの広い一室のようなところがあり、そこに移動していた。

プレハブの時よりもはるかに広く、快適だった。


食事も、宇宙に行く前の体調に備えて、完璧に管理された豪華なものが出てきた。

肉、魚、野菜、果物、デザート。本当にランクの高いホテルの食事そのものだ。

宇宙での万が一のために、豪勢なものを後悔なく食べておけと言うことだろうか。


プレハブでいつも食事を作ってくれていた夫人は、


「作らない癖がついちゃいそうね」


と冗談めかしていた。

夫人が作ってくれる家庭的な料理がたまに懐かしく感じた。



――



出発日の前夜。

僕はひとりでバルコニーに出て、手すりに上半身を預けて空を見上げていた。


「今日は月が見えないね」


いつの間にか横に来ていたハルカが、僕と同じ姿勢をとって話しかけてきた。

もうすぐ向かうだけあって、ハルカも月を意識しているらしい。


「この時間は建物の影に隠れてるんだよ、もうすぐ出てくるよ」


と、月が出てくるであろう場所を指差しながら言うと,あまり興味無さそうに「ふーん」と生返事を返された。


まあ、こんな反応はもう慣れっこだ。

ハルカがここにいるのに理由はないのだろう。

いや、僕が理由なんだろうが。つまりは、単なる暇つぶしだ。


この時のハルカは口数が少なくなる。

僕に配慮してくれているのだろう。

いつのまにか、僕はハルカのことが少しわかるようになっていた。


ハルカの明るい性格とコミュニケーション能力の高さゆえになかなか気づけなかったが、彼女はこのツアーとその訓練に参加することに不安があったのだと思う。

異国の地で、外国人に混じって参加するのだから、当然だ。


ところが、同じ日本出身の僕がいた。

日本語が話せて、日本の話ができる。

だからきっと、彼女は安心して僕に何度も絡んできたのだ。


だけど、それは僕も同じだ。

ハルカが居なければ、もしも別の誰かだったならば。

こうやって一緒に空を見上げていたかは分からない。

スコットさん夫妻との関係も、今よりもずっとギクシャクしていたかもしれない。


横に立つハルカをそっと盗み見た。

僕より頭ひとつ分小さい背。

その目は、先ほど僕が指差した場所を律儀に見ていた。


その時、僕の視線に気づいたハルカがこちらに顔を向けてきた。


「君って」


ハルカが話しかけてきて、僕も「うん?」と返した。


「……私のこと、どれくらい知ってるんだっけ?と言うか私、どれくらい話したっけ……私のこと、どう思ってる?」


質問の意図がよく分からなかった。

ハルカの身の上話はたまにされてた気もするが、正直興味が無くてほとんど覚えてない。

どう思ってるかと聞かれても、要領を得ない。


「あまりわかってない。君のことは…賑やかだなと思ってるよ」


僕がそう言うと、ハルカは体の中の空気を全て吐き出すかのようなため息をついた。


「はあ〜〜〜…カナタのことだから、そんなところだと思ったよ。で、賑やかって何さ、私は関係を聞いてるんだよ」


関係ってなんだ?他人以外に何があるんだろうか。

そこでピンと来た。

……家族、に関連するワードを、求められている気がした。


「関係……そうだね、ハルカは、家族……妹みたいなもの、かな」


僕がそう答えると、ハルカは嬉しそうな、だけど少し困ったような顔をして、


「……家族って思ってくれてるんだね。ま、今はそれで充分かな」


そう言って、目を細めて明るく笑っていた。

そのまま、建物の影から出てきたばかりの月を眺めていた。


明日、向かう場所を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ