冬の賑わいで③
「お待たせ!」
お店からハルカと夫人が出てきた。
ハルカが腕にぶら下げているショッピングバッグからは、ろうそくの先端がわずかにはみ出ていた。
それから、僕たちはまた通路を歩いた。
しばらくすると、やっと遠目に目的の食料品エリアが見えてきた。
僕ひとりで来たら、途中で帰っていたことだろう。
ふと周辺を見渡すと、天井、壁、床のそこかしこに、これでもかとクリスマスの飾り付けがされていた。
そう、今はクリスマスシーズンだ。
スコットさん夫妻はクリスマスプレゼントを用意しているに違いない。
日本とは文化が違うし、何よりも、この人たちは、そういう人だ。
だから、僕も準備しておきたかった。
文化に合わせるためとか、気まずくなる気がするとか、そういう考えもあった。だけど今はなんとなく、この人たちにプレゼントを贈りたくなった。
「すみません、少し他のお店を見てきてもいいでしょうか?見たいものがあって……」
ひとりで行動するためにそう伝えると、スコットさん夫妻は微笑みながら
「もちろんだよ。ゆっくり見ておいで」
と言ってくれた。
なんとなく、目的は見透かされてるような気もした。だけどそれでいい。
ーーー
それから僕はひとり、通路を引き返した。
たくさんの人の流れに逆らうように歩くと、ひとりでいることが少しだけ心細く感じた。
それでも、何を選ぶべきか、どこの店に行くべきかを考えながらきょろきょろと辺りを見渡して歩いていたら、
「ねねっ、何を買いに行くの?」
すぐ後ろから声をかけられた。
ハルカ、いつの間に……
「……なんで君もいるんだよ」
「え、だってカナタがどこ行くのか気になったし」
楽しそうに笑いながらハルカは言った。
この調子だと……多分ハルカも準備してなさそうだ。
「……クリスマスプレゼント、買いに行くんだよ」
「え、誰の分?」
「スコットさんたちの分だよ」
そう言った瞬間、ハルカはハッとした顔をした。
「あー……そうか、こっちの文化だと家族間で準備するもんね」
「……家族って言うか、まあお世話になってるから。それに、スコットさんたちは多分準備してるだろうし」
そう言うと、ハルカは納得したような顔で頷いていた。
僕は一拍置いて続けた。
「だから、君も店を回ってくるといいんじゃないかな」
「そうだね。じゃあカナタ、スコットさんたちの分、一緒に選ぼうよ!」
「なんでそうなるんだよ……別行動でいいだろ」
「やだ」
こどもか。
「僕と君が選びたいものが全然違ったらどうするんだよ。どっちがいいか、言い合う時間も増えるだろうし」
そう言うのが煩わしくて苦手だった。
だけど。
「……私は、それがしたくて、カナタと一緒に店を巡りたいんだよ。ダメかな……」
ハルカの言葉に、胸の中が掴まれるような感覚に襲われた。
体温が急上昇するのを感じる。背中が熱い。
流れで僕を巻き込むのと違う。ハルカは、明確に、僕を指名してきた。
……一緒に?僕と?嘘だろう?
つまらない僕みたいなやつと、ふたりで時間を過ごしたいと思う人なんているのか?何か別の目的でもあるのか?
意味がわからない。頭がクラクラする。
やっとの思いで僕の口から出た言葉は、やはりつまらなかった。
「……なんで僕なんだよ」
「……カナタ、『なんで』って多いよね……そんなの、『カナタだから』だよ」
……確かに、僕は『なんで』が多いかもしれない。
でも今はそれよりも。
僕だから?そんなの答えになってない。
何とか発言の意図を汲もうと頭を働かせたとき、スコットさんの言葉が脳裏によみがえった。
『『誰かに読んでもらう行為』そのものが、うれしいのかもしれないね』
行為、そのもの……?
じゃあ、ハルカは僕と一緒に行動すること自体が、目的なのか?……信じられない。
でも、さっきの発言はそういう意図になってしまう。
僕が黙り込んでしまうと、ハルカは少しだけ、寂しそうな顔になって、小さく呟いた。
「……ごめん。急にこんなこと言われても困るよね。やっぱり、私はひとりで選ぶから」
「待ってくれ」
ハルカに悪意や、僕をからかう意図がないことは、これまでの付き合いで分かっていた。
それなら、伝えないといけない。
「正直、ひとりだと何を選ぶべきか困ってたんだ」
本当のことだ。そして、次の言葉が僕の口から出てくるまで、えらく時間がかかった気がした。
「……だから、ハルカも一緒にプレゼント選び、手伝ってもらっていいかな」
できるだけ穏やかに、言葉を紡いだ。
笑顔を作るまでもなく、微笑んでいるのが自分でもわかった。
「……うん、もちろん!」
ハルカの表情がぱあっと明るくなった。
それはクリスマスの飾りよりも、ずっと輝いて見えた。




