冬の賑わいで②
通路を歩いていた時、僕とハルカはあるお店に目を奪われた。
店の入り口には常識的なサンタクロースのオブジェがあり、店の中は、童話に出てくる森をイメージさせる作りだった。
木にぶらさがったランタン風の照明が幻想的で、よく合っていた。
ハルカが店先に行って、中を覗き込んでいた。
確かに気になる。
「あのお店は何ですか?」と僕がスコット夫妻に聞くと、
「雑貨屋さんよ。どっちかっていうと子供や若い子が喜ぶものが多いかしら。覗いてみましょう」
そう言って、夫人はお店の中に入っていった。
僕もその後に続いた。
店内は本当に雑貨屋さんという感じで、いろんな小物やちょっと洒落た雰囲気の商品が多かった。
ハルカは陶器製の煙突がついた家の模型を持ち上げて、しげしげと眺めていた。
途中で値札に気づいたらしく、無言で丁寧にその場に置いていた。
僕はスコットさん夫妻の後ろにくっついてお店の奥に行くと、キッズスペースがあった。
その近くには木の切り株を模した大きなテーブルがあり、その上にたくさんの絵本が並んでいた。
子供たちは絵本を手に、熱心に読みふけっていた。
その中の数冊に、見覚えがあった。
大きな緑色の幼虫が描かれた絵本
北欧の有名なとある妖精たちの絵本
2匹のネズミが並んで歩いている絵本
僕はその中の一冊を手に取って、開いた。
中身はもちろん全部英語だった。
どれも話は知っていた。というよりも覚えていた。
自分で読んだというよりも、読み聞かせてもらった記憶がある。
まだ小さい僕が絵本を手に母のもとに駆け寄ると、母が膝の上に僕を乗せて、絵本を開いて読み聞かせてくれたんだった。
あの絵本たち、今はどこに行ったんだろう。やっぱり物置の部屋かな。
「懐かしいね。この絵本は、カナタも読んだことがあるのかい?」
スコットさんも懐かしむような笑顔で絵本を開きながら、話しかけてきた。
「……はい。子供のころ、家族……、に読み聞かせてもらったと思います」
「そうか。私も一緒だよ。私が絵本を開くと、子供たちが集まってせがんできたものだ」
なんとなく、その光景が想像できた。
きっと、スコットさんがソファに座って絵本を開くと、子供たち(何人いるのかわからないけど)が集まってきて、スコットさんの周りを取り囲んだのではないだろうか。
スコットさんは、穏やかな笑顔のまま続けた。
「不思議だね。子供たちは何度も何度も、毎日のように同じ話を聞きたがるんだ」
「そうですね……僕も、同じ本を何度も読んでもらった気がします」
「私が思うに、子供たちはきっと、『誰かに読んでもらう行為』そのものが、うれしいのかもしれないね」
「……」
「……さあ、そろそろ行こうか。ほしいものがあったら言うんだよ」
そう言うとスコットさんは絵本をパタンと閉じて、元あった場所にそっと戻した。
お店から出るときに、レジの前に夫人とハルカが並んでいた。
ハルカは、サンタがしがみついている煙突型のろうそくを買ってもらっており「ちょっと待っててねー」と言っていた。
あのろうそく、火をつけたらどういう風に溶けるんだろう……
僕とスコットさんはショッピングセンターの通路に出て、ハルカと夫人を待っていた。
通路近くの広場では、クリスマスソングの合唱が行われていた。
多くの人たちが足を止めて聞き入っていた。
僕は天使の歌声を耳にしながら、頭の中でスコットさんの言葉を反芻していた。
『私が思うに、子供たちはきっと、『誰かに読んでもらう行為』そのものが、うれしいのかもしれないね』




