第二話 王国
ナズの両脇には背の高い兵士が2名。ナズの全身よりも長い槍を装備している。
「怪しい動きをすればすぐにでも殺す」と言わんばかりの殺気をこれでもかと放っていた。
一度、
(僕は害のない生き物ですよ〜)
といった念を込めて笑顔を向けたところ、不審な行動とみなされたのか刺されそうになった。
異世界の人間はどうにも喧嘩っ早いようである。地元にいたヤンキーの方がまだ会話できそうだ。
そうこうしている内に、右の兵士が「入れ」と低くナズに命令する。
扉を開けよう近づくと、なんとその扉はひとりでに動き出した。
(すげえ、自動ドアじゃん。どんな仕組み・・・)
調べようと立ち止まりたいナズだったが、後ろから2名の兵士がズンズンと詰め寄ってくる。
目が合うと睨まれたので、余計なことはしないでおくことにしたナズだった。
部屋の中は広いホールになっており、等間隔に置かれた太い柱がこれを支えている。
中央の奥は階段三つ分高く造られ、その中心に玉座が一つ。
扉から玉座までは真っ直ぐカーペットが敷かれ、その左右に身なりの良い騎士や文官が整列していた。
ナズは段差の少し手前まで連れていかれ、そこで跪くよう命じられた。
まるで罪人みたいな扱いだ。
全身に突き刺さる疑惑の視線や、ヒソヒソ聞こえてくる声を不快に思いながら待つこと数分。
ナズが入ってきた場所とは別の入り口からスラッとした女性が入ってきた。
後方に男女の騎士も引き連れている。そのまま女性は玉座に腰を下ろす。
先ほどとは打って変わって、場の空気は静まり返っていた。全員が背筋を伸ばし玉座に座る女性を見る。
静寂に満足そうな頷きをしてから、女性はナズに目を落とし口を開いた。
「ようこそ、転生者。ここはオネマリッタ王国。歓迎するわ」
「あ、ありがとうございます・・」
前世ではもちろん王様になんて会ったことない。何が不敬罪になるのかわからない中、とりあえずお礼だけ言っておいた。
「名はなんと?」
「あ、えっとナズミ・スグルって言います。呼びにくかったらナズで結構です」
「そう、ナズ。私はマリーグレーテ・オネマリッタよ。それで、あなたは転生者のようだけどこの世界に来たのはいつなのかしら?」
「ついさっきです。兵士の方々に保護してもらった、ちょと前くらいです」
ずいぶん熱烈な保護だったことを思い出す。
「あらそうなの。では何故、ナズは異世界にきたばかりで、ここが異世界だとわかったのかしら?」
ブワっと冷や汗が噴き出るのを感じる。乱れる呼吸を無理やり調整するため息を止め、鼻からゆっくり出した。
「まさか、私に隠してること、ないわよねぇ?」
はい、そうです。装甲竜<ノクター>というドラゴンに教えてもらいました。なんて口が裂けても言えない。
国とドラゴンとの板挟みになったとしても、今のナズの好感度でいうとドラゴンの方が高い。
したがってドラゴンの味方をする思考になっていたのだ。
「死、んだ時に、女神様に会ったんです。そこでスキルを頂いて、異世界に転生することも教えてもらいました」
できるだけ早口にならないように話した。
ノクターが言っていた「転生者は女神に会ってスキルをもらう」という話が本当ならこれでいけるはずだが。
顔がこわばっている、手も震えている。それら全てを押し殺すようにナズはマリーグレーテに目をやった。
「ふむ、あなたの時と同じようね、アンジェ?」
「はい、マリー様。私もナズは転生者だと思います」
マリーグレーテの問いに応えたのは、一緒に部屋に入ってきたアンジェと呼ばれた女性だった。
アンジェは澄んだ空色のポニーテールを揺らしながらナズに視線を向ける。
「ナズ、最後の確認よ。あなたが転生者なら、前世での出身国を言ってみなさい」
「日本です・・」
「WOW!!ニンジャの国、ニポンッ!!ナズ、ちょっとあなた手裏剣投げてみなさいよ!!」
「・・・忍者はとうの昔に絶滅しましたよ・・・?」
鼻息を荒げたアンジェが恥ずかしそうに顔を赤くする。
「ん゛んっ」と咳払いをし、何事もなかったかのように続けた。
「し、知ってたわよ、もちろん。・・・マリー様、やはりナズは転生者のようです。」
「そう、あなたが言うなら本当のようね。ナズ、今日はもう疲れたでしょう?王城の部屋を与えるから、そこで休んでるといいわ。今後のことはまた明日にでも話しましょう」
「はい、ありがとうございます!」
一時はヒヤッとしたが、なんとか耐えたようだ。
話終えるとマリーグレーテは男の騎士と一緒に去っていった。
取り残されたナズはキョロキョロと周りを見回すが、配下の兵士や文官もそれぞれ別の仕事のため部屋を後にしていた。
そこに空色のポニーテールが近づいてくる。
「初めて同じ異世界人に会ったわ!改めて私はアンジェよ。よろしくナズ」
「これはご丁寧に。こちらこそよろしく」
差し出された手を握り返す。とても冷んやりしている手だった。
「私はロシア生まれなの。だけど日本にもすごく興味があって」
「へえ。よければ色々教えるよ。そのかわり、この世界のことと引き換えにな」
「もちろんよ。・・・ところでナズはなぜちょんまげじゃないの?」
「・・・サムライじゃないからな」
「忍者でもサムライでもない。とすればまさか、ナズは殿様・・」
「平民だバカヤロウ」
アンジェの日本に対する知識を2、300年アップデートさせることをナズが決意したところで、別の人影が寄ってくる。
騎士風のマッチョが一人に、紙とペンを持った気難しそうな文官が一人。
「アンジェ様。同郷同士で盛り上がってるとこすみません」
「あら、ルートヴィヒ。ナズ、この人は私の部下よ。」
「ルートヴィヒです。オネマリッタ王国騎兵隊の隊長をしてます。こっちの文官はルークで私の甥です。以後お見知りおきを」
ムキムキなのに礼儀正しい人だなとナズは感じた。ルークと呼ばれた文官もぺこっと会釈をする。
「それで、私に何か用かしら?」
「あ、いやアンジェ様ではなく、ナズ君に用がありまして。スキルと魔力量を記録させてはいただけませんか?」
「面白そうね!私もナズのスキル知りたいわ!」
ナズも隠すようなことではないと思い快く教える。ゴッデスとレジェンダリのスキルには二人とも目を輝かせていた。
全部書き終えると文官のルークは紙から目を話し、後ろの人混みの方を振り返る。
そして「おい、獣人!!こっちに来い!!」と叫ぶと、中から金髪の猫耳をつけた青年がやってきた。
「おお、獣人だっ!」
「ナズ君は初めてですか。まあこの国に獣人はこの1匹しかいないので当然ですね」
猫耳獣人の背はナズよりも少し小さい。だいたいアンジェと同じくらいだろうか。
目の前までトテトテと走ってくる。その様子を確認しルークがナズに向き直った。
「ナズさん。この獣人がナズさんの魔力量を測ります。お手数ですがじっとしていてください」
「わかりました」
返事をしナズが気をつけの姿勢を取ると、獣人が顔を寄せてくる。
長い前髪に隠れて目が見えなかったのだが、近寄ったことで隙間から覗く大きな瞳と視線が交わる。
なんとも愛らしいクリクリした瞳だった。
すぐに離れた獣人はルークから紙とペンを受け取り、何かを書き込む。
それを見たルークとルートヴィヒは軽く頷いた。
「これで記録は終了です。ナズ君、お疲れ様でした。」
「魔力量はどのくらいだったのかしら?」
「流石は転生者というだけあって、なかなかの量です。しかしアンジェ様には及ばなかったようですね」
紙に目を落とし、ルートヴィヒが答える。ナズを下げず、それでいて上司のアンジェの機嫌も取る、できる男の回答であった。
「では私たちはこれで。外にメイドが待機してますので、ナズ君はそのメイドに部屋を案内してもらってください」
そう言うと、二人は去ってしまった。
残されたナズとアンジェ、それから獣人。ナズは興味津々にその獣人に聞く。
「ねね、獣人君!名前はなんて言うんだ?」
「何を言ってるの、ナズ?ジュージン君はジュージン君でしょ?」
「こいつ正気か?」とナズがアンジェに視線を向ける。
犬に犬と名付ける親がいるだろうか。答えは否だ。
この獣人も親のお腹から生まれている以上、そんな名前つけられてるはずがないだろう。
「それに、ジュージン君はね・・」
とアンジェが言い出そうとする前に、獣人君が口を開く。
「僕の名前はアレクだよ。よろしくねナズ」
「おう、アレクか。こっちこそよろしく」
ナズとアレクが和かな挨拶を交わす中、傍で目を丸くし、口を鯉のようにパクパクさせている人物がいた。アンジェである。
何をそんなに驚いてるのかナズが不審に思っていると、急にアンジェが叫び出す。
「しゃ、喋ったーー!!?ちょっと待って、あなた喋れたの!?ていうかジュージン君じゃなかったの!?なんで教えてくれなかったのよ!!」
驚いたり怒ったり、忙しい子である。
「ごめんねアンジェ。僕にも色々あってさ」
「だいたい何で『ジュージン』なんて名前だと思ってたんだよ。おかしいと思わなかったのか?」
「それはだって、みんなが『ジュージン、ジュージン』って呼ぶから・・」
アンジェは口を尖らせ人差し指をチョイチョイと突き合わせる。
そんなアンジェにアレクは口元を綻ばせながら「仕方ないよ」と流していた。
「僕も仕事があるから、もう行くね。また今度話そうねナズ」
「ああ、仕事の邪魔して悪かったな」
手を振ってアレクは去っていく。フリフリした猫耳がなんとも愛くるしい。
未だショックから立ち直れずブツブツ言ってるアンジェを放置して、ナズも部屋を後にした。
〜〜〜〜〜
その夜。ナズがベッドに寝転んでいると胸の辺りからニュッと羽の生えた生き物が出てきた。
「調子はどうじゃ、ナズよ」
「お、ノクター!元気になったの?こっちは順調そのものよ!」
「そりゃ何よりじゃ。妾もなんとか飛び回れるくらいには回復した。まだ寝足りんがの」
ナズは上体を起こしてベッドの上に胡座をかいた。ノクターもナズの前にペタッと着陸する。
「下手こいて獄中にでもおったなら、話し相手くらいにはなってやろうと思っとったが、杞憂じゃったな」
「そこは助けてくれよ。ドラゴンなんだから」
「スキルがあるじゃろ、女神にもらったアホスキルが」
「アホスキルって・・。攻撃したことまだ根に持ってるの?」
「そういう訳ではない。女神が作ったものは全て等しく阿呆というだけじゃ」
フンっと鼻から息を出し、そっぽ向くノクター。
(薄々感じてたけど、ノクターって女神のことあんまり好きそうじゃないんだよな)
昔何かあったのかもしれないが、ナズには関係ないことなので受け流すことにした。
「でもスキルって言ってもさ。自分のスキルがどんな効果なのか、まだ知らないんだよね」
「なら、試してみれば良いではないか。おあつらえ向きにここの庭は広いようじゃし」
そう言いながらノクターは窓まで飛んでいく。
「それもそうか・・」とナズも乗り気になったところでベッドを降りる。
首を振って外の様子を確認した後、ノクターは窓を開き飛び出した。
「ほれ、何しとる。お主もはよう来んか」
「ちょっと待ってね。今降りるから」
俺が扉に向かおうと足を伸ばすと、ここでノクターから待ったが入る。
「何しとる。普通に降りたら城の人間に怪しまれるじゃろ」
「スキルの確認するだけなんだから大丈夫だって。それに聞かれたら正直に言えばいいだけだし」
「バカもん。よそ者が城内でスキル使いますなんて言えば、攻撃の意思があると思われるじゃろ。それに監視の目が入れば妾がまた隠れねばならぬではないか」
「えー、じゃあどうやって降りろと」
ノクターは窓の外から下を指差す。そして短く、
「飛び降りろ」
とナズに告げた。しかも笑顔で。鬼畜トカゲ爆誕である。
「ここ、4階だよ?かなり高いんだけど・・」
「何、【身体強化】を使えば余裕じゃ。それに妾の加護がある、心配するな」
渋りに渋るナズだったが、ノクターに押し負け、飛ぶ決意をする。
確かに怪我はしなかったが、あの浮遊感はチンサム物でできれば味わいたくないものだった。
「じゃあまず、【顎】ってスキルから使ってみるよ?」
「うむ、あの城に向かって存分にぶっ放せ」
「そんなことしないって。空撃ちするだけだから」
むすっとしたノクターを無視して、スキルを発動させる。
「いけ、【顎】!!」
すると魔法陣が二つ、ナズの上と下に出現する。
「何が起こるのかな?」とナズが考えている間に、その魔法陣から獣の牙みたいなものが上と下から同時に現れ、グシャっとナズの体は潰されてしまった・・・。
「・・・って大馬鹿者かっ、お主はっ!!!??」
「あイテっ・・」
びっくりして目を閉じていたところ、ノクターに頭をしばかれ目を開く。
周りに変化はない。自分にもだ。不思議そうにナズが辺りを見回していると、ノクターがナズの目の前に飛んできて怒鳴り始める。
「自分に向かって攻撃スキルを発動させるバカがどこにおるんじゃ!!」
「ご、ごめんなさい・・?」
「ほんっとに、妾の加護が無ければ今頃お主はグチャグチャじゃったぞ!?翌朝に変死体の発見で城は大騒ぎじゃ!!」
つまりナズは、訳もわからず自分に向けて攻撃スキルを撃ったということになる。
スキルを歩くことのように平然と扱うこの世界の人間ならば、あり得ないことをしていたのだ。
「後世に語り継がれる死に方じゃったがな!運悪く妾の加護が邪魔してしまったみたいじゃな!!」
プンスカ怒るノクターになんだか申し訳なくなる。
折角加護まで与えて特別扱いしてやったのに、こんな間抜けな死に方をされてはドラゴンの名折れということなのだろう。
「ごめんよ〜ノクター・・。守ってくれてありがとな〜、まじで」
未だご立腹のノクターにナズは頬ずりしながら謝る。それをノクターは「やめんか気色悪い」と一蹴した。
そんなノクターだったが、
「全くお主のような馬鹿は・・・、危なっかしくて目を離せんわ」
と、最後にデレることを忘れなかった。ツンデレドラゴンなのだ。
それからもスキルの修行を続けた一人と一体は、気づけば朝日を拝むことになっていた。
帰りは【身体強化】で4階の部屋までジャンプして戻ろううとしたが、ナズが目測を誤り数センチ届かなかったため、ノクターが気合で引っ張り上げたりした。
小さな体で必死に羽をバタつかせながら「ふんぐぅぅうう」と持ち上げる様は、側から見れば面白かっただろう。
このあとナズはノクターに『尻尾回転回し打ち』を顔面に喰らわされたが、そのままベッドに倒れ込んだのは疲れていたからだと、語っている。
決して気絶したわけではない。
〜アンジェとの女神談義〜
ナズが部屋に向かう道中。しれっと着いて来ていたアンジェが女神について触れる。
「女神様、綺麗だったわよねぇ?私、あんなに綺麗な人見たことないわ!」
「あ、ああ確かにな。うん。めっちゃ光ってたよな」
「まさしく神々しかったわ!お顔も絶世の美しさで、私ちょっと死んでよかったかもって思えたもの」
「ああ、それな・・!顔な・・。女神!って感じの顔だったよね」
「やっぱり、ナズはわかってるわね!」
「声もな・・、いい感じだったよね・・?」
「そうそう、あの声は反則よ!私もっとお話ししたかったもの!」
実際にナズは女神を見た訳ではないので、適当を言ってるだけなのだが。
持ってる手札で乗り切れたのはナズのプレイングが良かったのか。
はたまた対戦相手がチョロすぎたのか。




