エピローグ
人間領と魔族領の境界線近く、ナフレアの町。
交易路として再び人の行き交うようになったその町の一角に、ある人の姿を模した真っ白な像が建てられている。
名も称号も刻まれていないが、
誰が模倣された像なのかを知らない者はいない。
その像の前で魔族の少女がひとり、慣れた様子で手を合わせていた。
「えっとー今日は何を話そうかな」
少女——ピリカは少し考えてから、楽しそうに口を開く。
「来月、エルヴィン様とアレイス様の結婚式があるんですよ。人間と魔族が一緒にお祝いするんです。すごいですよねー」
像を見上げて、にこりと笑う。
「私もデラルド様ととってもいい感じなので、もう時間の問題かと思うのですよ。
エルヴィン様からはまだ早いって言われますけど、そんなことないですよね?」
まるで本人を目の前にして、近況報告をするような口調だった。
ピリカは一息つくと、像をじっと見つめる。
「エミリ様とエネル様がいなくなってから、
大きな揉め事は、もう起きてないです」
今では人間と魔族は、
必要な距離を保ちながら、確かに同じ未来を見ている。
「だから心配はいらないですよ」
像は何も答えない。
けれど、ピリカはそれで十分だとわかっているようだった。
「でも二人がいないとやっぱり寂しいです……」
そう言って目元を少し擦ると、頭を下げた。
祈りというより、挨拶に近い仕草だった。
「じゃあ、また来ますね」
少女は振り返り、町の方へと歩き出す。
ピリカが角を曲がり、町の喧騒に溶けていく。
その直後、
白い像の足元で、ふわりと何かが揺れた。
風に舞った埃にしては、少しだけ光が強い。
金色の、細かな粉の粒。
陽の光を受けて一瞬だけきらめき、
それはすぐに空気の中へと溶けていった。
この世界を見守るものが、
今日も、変わらず息づいている証のように。
境界の地に残る白い像は今日も変わらずそこに立ち、世界の循環の一部として、静かに在り続けていた。
Fin.
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【誰もが役目を放棄した世界で】
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