換気は大事
ゾンビ騎士たちがどこかへ移動すると、エミリたちは植木から出てあたりを見回した。
「あのゾンビ的なものに噛まれたらおしまいなの。だから気をつけてね。急所は頭よ。ショットガンがあればぶち抜けるんだけど……」
「何言ってるのかわからないんだが。頭をぶち抜いていいのか?操られてるだけかもしれないぞ?」
エミリははっとした。
外見がゾンビ的だからといって、ゾンビと決まったわけではない。
もしショットガンを持っていたら、外見ですぐに判断するという初歩的なミスを犯し、無意味な殺生をするところだった。
「……そうでした。先走ったわ。とりあえず念のため噛まれないように、ってことだけ頭に入れといて」
二人は中庭から城内へ続く通路へ注意深く歩き出す。
ここにはまだ霧はない。外気が流れているからだろう。
「そういえば、上をつたって進むって作戦……あれ、本当にいけそう?あなたの反応が悪くなかったから、なんとなく押し切ったけど」
宰相アゼルには自信満々に作戦を提案したものの、実際は半信半疑だった。蜘蛛みたいなスーパーヒーローでないかぎりそんなことはできないのだ。
「おまえな……」
エネルが呆れたように言う。
「ああでも言わないと城の中に入れないでしょう?」
ここは異世界だ。
多少無茶でも、なんとなくできそうな気にもなるし、エネルには主人公補正でもあるんじゃないかとエミリは勝手に思っていた。
「本当に面白いやつだ……嫌いじゃねぇ……」
だがその小さな呟きはエミリには届かず、彼女はすでに通路の奥へ歩き出していた。
「——エネル!そんなところで突っ立ってないで早く行くわよ!」
通路を進むと、城内へ通じる扉が一つ。固く閉ざされている。
「今から扉を開けるから、ちょっと横に下がってて。すぐには中に入らないでね」
そう言うと、エミリは力いっぱい扉を開け、そのまま開け放して素早く横に移動した。
中から、赤黒い霧がふわりと外へ漏れ出す。
「……何をしてるんだ?」
「換気ですよ」
「……換気」
何度も繰り返して説明しているが、彼女は別に元の世界で科学者でも研究者でも、サバイバルに詳しいわけでもない。
普通に社会人として生きて得た知識と、海外経験と、少しばかりの某映像サブスクの知識だけだ。
異世界転移したからといって、みんながチート級の知恵を持ってるわけではない。
エミリは真顔で説明しはじめた。
「例えば家で窓を開けずに魚や鶏肉を焼いたら煙が出るでしょ? そしたらどうなる?」
「部屋が煙だらけになるな」
「そう。じゃあどうする?」
「窓を開けて煙を外にだすな」
「ということで、換気です!目につく扉や窓を全部あけましょう!霧が少ない方が、避けながら上を移動しやすいでしょ?」
エミリは次の扉のノブに手をかけながら言う。
「特別な知識じゃないけど……こういう時は基本が大事なのよ」




