表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/46

異世界の国際問題

朝、エミリは目を覚ますと、あたりを見渡した。

古風な作りの部屋――昨晩、眠りについた村長の家の一室がそこにある。


「……夢じゃなかったのか。なるほど、なるほど」


部屋の外から肉を焼いている匂いがする気もするが、気のせいだと思いたい。


「朝起きたらこれが全部夢で、あたり一面死体だった、なんて展開よりはマシか……」


小さくため息をつきながら、身だしなみを整えて部屋の外へ出る。


「おはようございますー! よく眠れましたか? 朝食、もう準備できてますよー!」


ピリカがまぶしいほどの笑顔で駆け寄ってきた。

肉ばかり食べているせいか、異様に元気だ。若さがほとばしっている。まぶしい。


「……ところでその朝食なんですが、どんな感じのでしょうか?」


「どんなって……エミリ様の世界では、朝昼晩で食べる物が違うんですか?」


そんなこと言われると、朝食の観念とは何なのか?フルーツだけの人もいるし、パンの人もいる。朝から牛丼を食べる人もいるかもしれない。

結局、人によるよね?という結論に落ち着いた。


そんなことを考えながら席につくと、案の定、肉が出てきた。昨晩より量は控えめだが、それでも肉。

うすうす感づいていた。ここは肉の国なのだ。

エミリは自分の胃を奮い立たせ、覚悟を決めて席についた。



ちょうどそのとき、昨日助けた人間の青年アレイスとエルヴィンがやってきた。


「おはようございます。お二人とも、体調は大丈夫ですか?」


エミリが声をかけると、アレイスは頭を深く下げた。


「なんとお礼を言えばよいか……貴女のおかげで命拾いしました。感謝してもしきれません」


「いえいえ。回復魔法を使ったのはピリカさんですから。お礼はピリカさんにお願いします」


アレイスがピリカに向かって深々と頭を下げると、ピリカは「ひぃっ」と謎の悲鳴をあげて後退りした。


……魔族、意外とシャイなのかもしれない。


「魔族って、なんというか……朝から肉、いくんだな」


と、エルヴィンがぼそっと漏らした。

エミリはぱっと彼に視線を向ける。

ここに――同志がいた!


「昨晩もお肉でしたし、どうやら肉が主食のようですね。人間の皆さんは朝は何を食べるんですか?」


「俺はフルーツとか、軽いものが多いな」


「私はだいたいパンですね」


エルヴィンとアレイスの返答を聞いて、ああ、普通だ……とエミリは心の中で召喚術師を恨んだ。

なぜこっち(魔族側)に飛ばした。


朝食後、エミリは村長、ピリカ、エルヴィン、アレイスを呼び集め、状況確認のための小さな交流会を開くことにした。

まずは情報収集だ。わからないことは、聞いてみないと始まらない。


「コホン。それでは第一回交流会を開催します。プレゼンターは私、森沢エミリが務めさせていただきます」


「ぷ、ぷれぜん……?」


「なんだそれ、翻訳の問題か……?」


「エミリ様が神の国の言葉を……ピリカ、記録せよ!」


「は、はい!」


騒がしいが、無視して進めることにした。


「まず最初の議題です。『魔族とは? 人間とは?』」


するとエルヴィンがすっと手を上げる。


「はい、エルさんどうぞ」


「人間側の認識だけど――魔族は魔法を使い、特殊な能力を持っていて、ツノや羽といった身体的特徴がある。人間はそういう特徴がない」


……魔族の方が強くない?

なぜこんなに人間を恐れているのか疑問が湧く。


「魔族の皆さん、補足や訂正などありますか?」


「大体あっとるが、ひとつ加えるとすれば、人族は魔術を使うんじゃ」


「魔法と魔術って、どう違うんです?」


「魔法は体の中の魔力を使って発動する。魔術は魔法陣を描いて、魔石を使って外から魔力を引き出す。だから時間がかかるし効率も悪い。だが、予想もつかん術を出す者もいる。油断はできん」


「でも魔術を使える人は一握りで、基本は国に囲われてる。王の命令でしか動かない」


村長のデランに、アレイスが補足する。


「……ふむ。話を聞くかぎり、魔族の方が強そうですが、なぜ人間に怯えているのでしょうか?」


「魔族は強い。だが数が少ない。人間は多い。魔術もあるし、剣や弓も使い、大群で攻めてくる」


「しかも、ヘンテコな飛び道具まで使ってくるんです!」


「ヘンテコな?」


「魔道具のことだな。魔石を入れれば、魔法陣なしで攻撃できるやつ」


「なるほど、戦力は拮抗している……というわけですね」


うんうん、とエミリが頷いて、次の議題にうつる。


「では次の議題。人間側はなぜ魔王討伐に熱心なのでしょう? 魔王がいると世界が闇に包まれる的な展開? 実際に被害でも?」


ピリカが手を挙げる。


「魔王様はただの代表者です。数年ごとに魔族の中から選ばれるだけで、特に何か起きるわけではありません。にもかかわらず、人間はなぜか攻撃してくるのです!」


「……なるほど。魔王様は大統領みたいなものですね。あ、大統領って言葉はスルーしてください」


「ではなぜ、問題のない魔王を討伐しようと?」


「いずれ人間の国を滅ぼすから、その前に倒さねばならない――というのが、人間側の理屈です。歴代の王は異世界から強者を召喚し、魔術師とともに魔王を討ちに行くんです」


「ふむ……話を聞く限り、人間側の完全な被害妄想ですね? 国力があるからって相手の大統領を先制攻撃するなんて、私の世界でもまずい行為ですよ。ちゃんと理由がなければ」


もっともな理由があってもダメだろ、というツッコミは誰からも入らなかった。


「……いや、全く理由がないわけではない。過去に魔族が町を襲ったこともあった」


「それは人間たちが魔族領に入り、魔石を採掘しようとするからじゃ。理由もなく町を壊したりはせん」


「なるほど……レアアース問題ですね。私の世界でもあります。

要は、魔石が戦略物資だから、魔族側は勝手に採られるのを防ぎたい。で、勝手に取られたら――町を壊す。理にはかなってますね」


町を壊すのが理にかなっているのかはともかく、誰も否定はしなかった。


「大体、見えてきました。これは、ただの国際問題ですね?

ならば、魔王と人間の王の間に、私が入って仲裁をしましょう。第三者がいれば、きっと話し合いもうまくいくはずです」


エミリはふと、自分がカップルセラピーのカウンセラーみたいだなと思った。

夫婦のどちらが悪いというわけではない。ただ、お互いに相手の話を聞かず、自分の主張だけをぶつけ合うからこじれる。

間に立って橋をかけてあげれば、案外なんとかなるものなのだ――と、少し楽しくなってくる。


「なんか、エミリ殿ならできそうな気がする……」


「説得力がすごいな……」


「よくわからんが、神々しい……」


「女神様です!!」


気づけば四人から拝まれていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ