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青年AとB

ピリカが回復魔法をかけ終えると、ぐったりしていた青年の呼吸が徐々に落ち着き、傷口もみるみる塞がっていった。




『ありがとう…まさか、魔族に助けられるとは…』




青年は驚き混じりの声でそう呟いた。


だがエミリは、彼が何を言っているのかまったく分からない。けれどその表情はにこやかだった。――完全無欠のジャパニーズスマイルである。




「ピリカさん、とりあえずこの方たちを村へ連れて行きましょうか」


「え、えええーーー!? ダメですダメですダメですダメです!!」




ピリカは大慌てで首を振る。ちょっと情緒が危うい。




「いいですか、ピリカさん。私は神託の勇者たぶんです。そんな私が、偶然にも傷ついた人間を二人見つけました」




「……あっ、そ、そうですね」


「というわけです。以上」


「えっ!? ど、どういうわけですか!?」




ピリカが混乱する中、エミリはぐったりした青年に「立って」とジェスチャーで伝える。通じたのか、青年はもう一人の青年を抱き起こした。




「どうしようどうしよう、村長に怒られる……私が散歩になんか連れ出さなければ……」




ぶつぶつとつぶやき続けるピリカの不安は、エミリによってスルーされた。




これは彼女が多国籍の修羅場を渡り歩いてきた現場経験の結晶――


「感情的な人間に巻き込まれると、ろくなことにならない」という、身に染みた知恵から来る、プロフェッショナル無視力である。


場数を踏んでいるので、話半分スルースキル(Lv.78)くらいは取得済みといっていいだろう。






やがて、森を抜け、村の入り口が見えてきた。




青年の肩が、ぴくりと震えた。


ピリカも同じように、踏み出す一歩が重たくなっている。



エミリは、にこりと笑い、大丈夫、大丈夫と目で伝えるように青年にうなずいた。


――伝わっているかは、わからないが。




魔族の村「タルーア」に、エミリたちが人間を連れて現れると、村の人々は目を見張り、一斉にざわめき出した。




そして、そのざわめきの中をかきわけるようにして、村長・デランが駆けてくる。




「エミリ様ぁーーー! に、人間ではないですか! ど、どういうことですかな!?」




あまりに見事なパニックぶりに、エミリも一瞬言葉を失いかけた。




だがすぐに、ぱんぱんと両手を叩いて注目を集め、声を張った。怒鳴るほどではないが、はっきり通る声。




「みなさん。そんなに怯えなくてもいいじゃないですか。


どう見てもあなた方のほうが強そうですよ?ツノもありますし。

せっかく、タイミングよく人間の方(私もですが)いらっしゃったんです。

この機会に――交流してみませんか? お互い、知るための時間にしませんか?」




村人たちがざわざわと再び話しはじめる中、デランが腕を組み、ううむとうなった。




「ま、まあ……神託の勇者様がこの村にいらっしゃったこのタイミングで、人間が魔の森に迷い込むなど……偶然にしては、できすぎているかもしれんのう……」


「さすが村長さん、話が早い。ではこちらの青年Aさん、お怪我もありますし、どこかに寝かせてあげてください。

青年Bさんは……うーん、言葉がさっぱりわかりません。なにかこう、パパッと訳せる魔法とかあります?」




「せ、青年エー……? ああ、うむ。わしがエミリ様に使った言語魔法を、彼らにもかければよいな」




そう言うと、デランは指をひと振りし、呪文を唱える。




やわらかな光が、二人の青年をふんわり包み込んだ。


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