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海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません  作者: ソニエッタ
異世界の環境改革

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第一回ゼル族、アラン族交流会

「これで……完了っと!」


ゼル族、アラン族立ち合いのもと、エミリは渓谷の広範囲と、聖地とされる魔獣の巣の魔素数値を測り終えた。


「エネル、この数値を魔王城のトリスタンさんたちに報告してください。あ、それと…嘆願書にあった別案件を片付けるから遅れるってことも伝えといてくださいね」


「ああ、わかった」


エネルは受け取った資料を片手に、淡く魔力をまとわせる。次の瞬間、それは光の粒となって異空間へ消えた。


「おぉー! 転移魔法!! エネルが出し渋ってるから、存在しないんじゃないかと薄々思ってました」


「お前な……」


「で、どうしましょう。仲裁、やらなきゃですよね? 私なりのやり方で、とりあえずやってみます?」


エミリは声を落としてエネルにそう告げ、調査に立ち会っているゼル族とアラン族の若者たちをちらりと見やる。



「そうだな……族長を呼ぶか。魔獣のこともあるし、早く片付けたい」


エネルはため息をひとつ吐くと、両部族の若者たちに視線を向けた。


「族長を呼んできてくれ」


短く指示を飛ばすと、若者たちは互いに視線を交わしながら、それぞれの集落へと駆けていった。






*******


「では、記念すべき第一回、ゼル族とアラン族の交流会を開催しまーす! プレゼンターはこの私、森沢エミリがお送りします!」


「……久しぶりすぎて、普通に受け入れてしまった、この不必要なエミリ発言を。」


エネルがぼそりと漏らす。




「俺たちは何をやらされてるんだ?」

「ぷれぜんたー? 新しい呪文か何かか?」


族長たちが眉をひそめるが、エミリは完全にスルーした。



「はい、こちらの砂時計をご覧くださーい! 砂が全部落ちるまでが“あなたのターン”です。落ちたら、くるっとひっくり返して相手の番。

相手の番のときは私かエネル以外はぜーったい口を開かないこと。

では、どちらからでもOK。まず言いたいこと、ある方いらっしゃいますかー?」


そのエミリの言葉を聞いて、アラン族の族長グラズが人差し指を立てた。


「はい、グラズさん。ではアラン族からいきましょうか」


エミリはそう言って、砂時計を逆さにした。




「調査に来ているなら知っているだろうが…ここ数年、魔獣の卵が孵らず、眠りについて起きるはずの時期になっても目覚めなくなってきている。それを頭の悪いゼル族の猿どもは、俺たちアラン族のせいだと言いがかりをつけ、聖地に足を踏み入れるなと妨害してくるんだ」


「なんだと?! 頭の悪いのはお前たちだ、そもそも――」


「ゼル族長のプーラさん、まだあなたの番ではないので口を開かないでください。グラズ族長も、煽るような発言は謹んでください」


エミリは二人を鋭く睨みつけると、淡々と続けた。


「この地で起きている異変は、今や各地で確認されています。では、ゼル族の皆さんは何を根拠に“アラン族のせい”だとおっしゃるのですか?」


落ち切った砂時計を再びひっくり返し、ゼル族のプーラに話の番を渡す。


「我らは千年ほど前、同じゼル族だった。だが、こいつらの祖先が裏切り、アラン族と名乗って別の地に村を作った」


「千年も前のことなら、今はお互い独自の文化を築いているでしょう。そこまで突っかかる必要は――」


エミリの言葉を、プーラは首を振って遮った。


「始めのうちはそう思っていた。だが、魔獣の異変が起こった直後、聖地に黄金の光が降り注ぎ、神託が届いたのだ。


『獣の眠りは、谷の影より来たる穢れによって長引く。その影を払う客人に、道を示せ』


谷の影――それはこの渓谷の向こうに住むアラン族に他ならん。神がそう告げたのだ。こいつらがいる限り、魔獣は目覚めん」


エミリは眉をひそめ、話を真剣に聞いた。


「……黄金の光と神託。それが原因で疑いが生まれたのですね。ですが、『谷の影』が必ずしもアラン族を指すとは限らないと思います。

魔獣の異変は各地で起こっています。他の何かを示しているのかもしれません。もしアラン族が原因なら、もっとはっきりと名指しされるはずです」


プーラは静かに口を開いた。


「『谷の影』が、かつて同じ族から別れた奴ら以外に誰がいる?存在が俺らの影も同然だろ」


「そんな曖昧な表現で我々を責めるのは筋違いだ。疑いをかけられる理由はない」


グラズは言葉を荒げた。


エミリは落ち着いた声で続けた。


「分かりました。お二人の言い分は理解しましたが、感情的になっていては解決は遠のきます。私たちがここにいるのは、真実を見つけるためです」


エネルも静かに頷き、双方の族長を見つめた。


「争いを続けるより、共に真実を探すのが先決だ」


その言葉に、一瞬、重い空気が和らいだ。




一旦この場は解散となり、話し合いはまた次回に持ち越された。




「千年前から燻っていた火種をまた再燃させるとは、神託も厄介ですね…」


エネルとニ人きりになると、エミリはため息をついた。


「今回の神託がなくても、遅かれ早かれ揉めていたと思うぞ?ちょっとしたきっかけを待っていただけだ。同じ場所を聖地として崇めているが、祀る“神”が違うというのも根深い問題だ」


エネルがぽつりと言った。



「宗教や伝承の違いが表面にあるけれど、実際には歴史の傷や積もった感情、そして誰かの思惑が影響しているのかもしれませんね…….。

私の世界でも似たような問題があるので他人事とは思えないです」


「異世界もこの世界も、人も魔族も、結局は似たようなことをやってるんだな…」



二人はしばらく沈黙し、これからの調査と対話の重さを改めて噛み締めていた。




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